

生乳使用のフォンティーナ チーズを妊娠中にそのまま食べると、リステリア菌感染で流産リスクがあります。
フォンティーナ チーズは、イタリア北西部のヴァッレ・ダオスタ州で作られる伝統的なセミハードタイプのチーズです。アルプス山脈の南側に位置するこの地域では、古くから牧畜が生活の中心にあり、チーズ作りの歴史も数百年にわたります。名前の由来については諸説あり、「Fontin」という牧草地名、あるいは古フランス語で「加熱すると溶ける」を意味する「Fontis」に由来するとも言われています。
このチーズは、EU(欧州連合)が認める「DOP(保護原産地呼称)」の認定を受けています。つまり、ヴァッレ・ダオスタ州産の正規品だけが「フォンティーナ DOP」と名乗れるということです。日本のスーパーやチーズ専門店で見かける「フォンティーナ」には、DOP認定品でないものも流通しています。
本物のフォンティーナ DOP を見分ける3つのポイント
フォンティーナの形は「背の低い円筒型」で、直径35〜45cm、高さ7〜10cm、重さ7.5〜12kgほどの大きなかたまりで作られます。はがき(長辺21cm)を2枚並べたくらいの直径感です。もちろん家庭では小さくカットされたものを購入するのが一般的ですが、形と印字を確認することで品質の見分けがしやすくなります。
熟成期間は最低80〜90日間が義務付けられています。3ヵ月かけてじっくり育てられたチーズということですね。熟成が進むにつれて、外皮は硬くなり、内部の色は薄いアイボリーから少し濃いクリーム色に変化し、風味が深まっていきます。
チーズの「DOP」表記は、産地と製法が厳格に管理されている証明です。この情報を知っておくだけで、スーパーでのチーズ選びが変わります。
参考:フォンティーナの基本情報・製法・産地について詳しく知りたい場合はこちら(雪印メグミルク チーズクラブ)
チーズ辞典「フォンティーナ」 | 雪印メグミルク株式会社
フォンティーナ チーズを初めて食べた人が最初に感じるのは、なめらかでしなやかな口当たりです。噛んだ瞬間にじわっと広がる「ナッツのようなコク」と「はちみつを思わせる淡い甘み」、そして奥にある土やきのこのような風味——これがフォンティーナの個性です。
フォンティーナには、一般的なものと「アルペッジョ(Alpeggio)」と呼ばれる特別なタイプの2種類があります。アルペッジョとは、毎年6月15日から9月29日の夏の放牧期間中に高地の牧草地で牧草を食べた牛の生乳から作られたフォンティーナのことです。アルプスの高地に自生する野草やハーブを食べた牛の乳は、平地のものと比べて香りが豊かで、チーズにも複雑なアロマが加わります。これが希少で珍重される理由です。
フォンティーナとよく混同されるチーズとの比較
フォンティーナが料理向きである大きな理由が「溶けやすさ」です。チーズが溶ける性質を「メルト性」と言いますが、フォンティーナはこのメルト性が非常に高く、低温でもなめらかに溶け始めます。これは脂肪分が約45%と高いこと、および生乳由来の天然の乳脂肪の構造によるものです。グラタンに使うと、オーブンからとり出した瞬間のとろりとした仕上がりが実現しやすくなります。これは使えそうです。
ペアリングについては、辛口の白ワイン(ヴァッレ・ダオスタ産の軽めの白が最適)、またはネッビオーロ系の軽めの赤ワインとの相性が良いとされています。チーズ単体でのテーブルチーズとして楽しむなら、洋梨やリンゴ、はちみつを添えると甘みとコクが引き立ちます。
フォンティーナ チーズの魅力を最も感じられる料理が「フォンドゥータ(Fonduta)」です。これはフォンティーナを牛乳・バター・卵黄でゆっくり溶かした、北イタリア・ヴァッレ・ダオスタ州の伝統的な郷土料理です。スイスのチーズフォンデュとよく比べられますが、白ワインを使うフォンデュとは異なり、フォンドゥータは卵黄とバターで仕上げるためよりリッチでビロードのようなとろみが特徴です。
【レシピ1】フォンドゥータ(2〜3人分・調理時間15分)
①小鍋に牛乳を入れて弱火で温め、バターを溶かします。②火を極弱火にしたまま、刻んだフォンティーナを少しずつ加えてゆっくり混ぜます。焦がさないことが最大のコツです。③完全に溶けたら卵黄を少量の温かいソースで馴染ませてから鍋に戻し、とろみを整えます。④ナツメグと黒胡椒で味を調えたら完成です。
弱火でじっくり溶かすのが原則です。強火にすると油脂が分離してしまうため、焦らず低温でじっくり仕上げてください。
【レシピ2】フォンティーナのグラタン(2人分・調理時間30分)
耐熱皿ににんにくを擦り付け、じゃがいもとフォンティーナを交互に重ねます。生クリームを回しかけ、200℃のオーブンで20〜25分焼けば完成です。フォンティーナのメルト性の高さにより、全体がとろりと仕上がります。
【レシピ3】フォンティーナのグリルドチーズサンド(1人分・調理時間10分)
食パン2枚にバターを薄く塗り、フォンティーナ80gをたっぷり挟みます。フライパンで弱〜中火でじっくり焼き、両面がきつね色になったら完成です。フォンティーナは熱に強くなめらかに溶けるため、中からとろっとあふれ出す本格的なグリルドチーズが家庭でも再現できます。薄切りの生ハムや炒め玉ねぎを一緒に挟むと、さらに風味が豊かになります。
参考:フォンドゥータのレシピをより詳しく知りたい方はこちら(note)
北イタリアの山の恵み「フォンデュータ(Fonduta)」 | note
フォンティーナ チーズを購入した後の保存方法を間違えると、風味が大きく損なわれます。正しく保存することが、このチーズの魅力を最後まで楽しみ切るための大切なポイントです。
「冷凍すれば長持ちするから大丈夫」と考えてしまいがちですが、フォンティーナの冷凍保存は推奨されません。冷凍すると内部の水分と脂肪分が凍り、解凍したときにタンパク質の構造が変化してボロボロと崩れやすくなります。あの「なめらかでとろける食感」が失われるということですね。冷凍後のフォンティーナはグラタンなど加熱料理に使うことは一応できますが、そのままテーブルチーズとして食べるのは難しくなります。
フォンティーナ チーズの正しい冷蔵保存の手順
また、カットされたフォンティーナに白や青のカビが少し生えた場合は、その部分を削り取れば問題なく食べられることがほとんどです。セミハードタイプのチーズはカビ菌が内部まで入り込みにくい構造になっています。ただし、全体的に黒く変色したり、異臭がする場合は廃棄を検討してください。
正しい保存なら冷蔵で1〜2週間は美味しく保てます。少量を頻繁に購入して使いきるサイクルが、フォンティーナを最もおいしく楽しむ方法です。
フォンティーナ チーズには豊富な栄養素が含まれており、日常的に少量を取り入れることで健康面のメリットが期待できます。一方で、特定の状況では注意が必要な食品でもあります。
フォンティーナ チーズ 100g あたりの主な栄養素(目安)
カルシウムが豊富というのが特筆すべき点です。成人女性(18〜49歳)の1日カルシウム推奨量は約650mgですが、フォンティーナ100gで1日分の半分以上を摂ることができます。骨の維持や、日本人が不足しがちなカルシウム補給の観点からも意義のある食材と言えます。
ただし、フォンティーナ チーズは生乳(無殺菌乳)を原料に使用した本場の DOP 製品の場合、妊娠中は注意が必要です。生乳由来のナチュラルチーズには「リステリア菌」が含まれている可能性があります。リステリア菌は冷蔵庫内の低温(4℃以下)でも増殖でき、妊婦がリステリア症を発症すると、胎盤を通じて胎児にも感染し、流産や早産のリスクが高まることが厚生労働省から注意喚起されています。
リステリア菌が心配な場合に取れる行動は1つです。ラベルに「加熱殺菌済み(パスチャライズド)」と表記されているフォンティーナを選ぶか、加熱調理(グラタンやフォンドゥータなど)でしっかり火を通してから食べることです。加熱によりリステリア菌は死滅するため、リスクを大きく下げることができます。
子どもへの提供については、1歳以上であれば通常の量なら問題ありません。塩分が含まれているため、1歳未満の乳児には与えないようにしてください。また、アレルギーとして乳製品(乳糖・カゼインタンパク)への反応が心配な場合は、少量から試すことをおすすめします。
参考:妊娠中のチーズとリステリア菌のリスクについての詳しい解説(厚生労働省)
リステリアによる食中毒 | 厚生労働省
フォンティーナ チーズは日本ではまだ知名度が高くない食材のため、「近所のスーパーで見つからない」という声も少なくありません。どこで買えるのかを知っておくと、料理の計画が立てやすくなります。
フォンティーナ チーズが購入できる主な場所
「どうしてもフォンティーナが手に入らない」という場合の代用チーズも知っておくと便利です。
代用チーズとして使いやすいのは、グリュイエール・エメンタール・ラクレット・ゴーダの4種類です。いずれもセミハード〜ハードタイプで溶けやすく、フォンティーナに近いコクと甘みを持っています。ただし風味は少し異なるため、「完全な代用」とはいきません。フォンデュータを作るときはグリュイエールが最も近い仕上がりになります。グラタンやトーストにはラクレットや溶けるタイプのゴーダも使いやすい選択肢です。
フォンティーナ チーズを使い切れずに余った場合の活用アイデアも紹介します。少量をパスタに溶かし込む「チーズクリームパスタ」、薄切りにしてクラッカーに乗せるだけのシンプルなおつまみ、卵と合わせたフリッタータ(イタリア風厚焼き卵)など、加熱調理を組み合わせれば多様に使えます。使いきるまでの期間を逆算しながら、週に1〜2回の料理に組み込む計画を立てることがポイントです。
フォンティーナは知る人ぞ知る食材です。一度使い始めると、その溶けやすさとコクの深さから「もっと早く知りたかった」と感じる人も多いチーズです。まずは少量のカット品を試すことが、フォンティーナを家庭の定番食材にする第一歩になります。