

実は、ラングルは冷蔵庫から出してすぐ食べると、本来の旨みを6割以上も損している可能性があります。
ラングル(Langres)は、フランス北東部のシャンパーニュ地方、オート=マルヌ県にあるラングル高原を原産地とするウォッシュタイプのナチュラルチーズです。1991年にAOC(現在はAOP:原産地呼称保護)を取得しており、指定された地域以外ではこの名前を名乗ることができません。つまり「ラングル」と書いてあれば、産地と製法が国によって厳密に保証された、本物の伝統チーズということです。
このチーズを一度見たら忘れられない理由は、その独特な外見にあります。表面はアナトー(ベニノキの種子)由来の天然色素を含む塩水で洗いながら熟成されるため、鮮やかなオレンジ〜赤褐色のしわしわとした外皮を持ちます。そして最大の特徴が、チーズの上部に自然にできる大きなくぼみです。フランスではこのくぼみを「フォンテーヌ(泉)」と呼び、後述する伝統的な食べ方に欠かせない部分です。
なぜくぼみができるのかというと、熟成中に一度もチーズをひっくり返さないことが理由です。通常のチーズ製造では、均等に熟成させるために定期的に反転作業を行います。ところがラングルは、中世の時代に反転作業を忘れたことがきっかけで、自然に中心が凹んだ形になったと言われています。今や失敗から生まれたくぼみが、このチーズの最大の個性になっているわけですね。
味わいは、見た目のごつさとは裏腹に上品でクリーミーです。熟成が若いうちはミルキーで塩味も穏やか、カマンベールが好きな方なら十分食べやすいレベルです。熟成が進むほどコクと旨みが増し、ウォッシュチーズらしい濃厚さが出てきます。ウニのような独特の風味と表現されることもあり、乳酸の爽やかな酸味と豊かなコクが特徴的です。
| 分類 | ウォッシュタイプ(ナチュラルチーズ) |
|---|---|
| 原産地 | フランス・シャンパーニュ地方(AOP認定) |
| 原料乳 | 牛乳(生乳または低温殺菌乳) |
| 重さの目安 | 小型:約180〜250g(市販の一般的なサイズ) |
| 熟成期間 | 約4〜6週間(標準) |
| カロリー目安 | 100gあたり約300kcal、脂質約22g、タンパク質約19g |
参考:ラングルの基礎情報や産地に関する詳しい解説はこちら
ラングル | チーズ辞典 | チーズクラブ | 雪印メグミルク株式会社
ラングルの美味しさを最大限に引き出すための、最も大切なステップがあります。それは「食べる前に必ず常温に戻す」ことです。
冷蔵庫から出してすぐ食べると、チーズの脂肪分が冷たく固まったままになり、本来のクリーミーな舌触りと芳香が十分に開きません。食べる30〜60分前には冷蔵庫から出し、室温に置いておきましょう。包装している場合はラップを外して空気に少し触れさせるとさらに効果的です。こうするだけで、味わいが驚くほど豊かになります。
常温に戻すのが基本です。
次に迷うのが、オレンジ色の外皮を食べるかどうかという点です。ラングルの外皮(ウォッシュした部分)は、食べることができます。むしろ外皮を一緒に食べることで、ウォッシュチーズらしい深い風味と香ばしさを楽しめます。ただし、独特の香りが気になる場合は外して食べても問題ありません。自分の好みに合わせればOKです。
ラングルは1個まるごとのホール(丸々1個)で買った場合、断面から劣化が進みやすいです。そのため、ケーキのように放射状にカットして、食べる分だけ切り分けるのがポイントです。カットには、刃先が鋭く柔らかいチーズに向いたクロタンナイフやオメガナイフが使いやすいですが、自宅にない場合は細い刃の鋭いナイフを使えば問題ありません。
シンプルに食べるときのおすすめの組み合わせは以下の通りです。
加熱して食べる方法も美味しいです。オーブンで丸ごと軽く温める(180℃で約5〜8分)と、中身がトロトロに溶け出し、クラッカーやパンをつけるフォンデュ感覚で楽しめます。パーティーにも喜ばれる食べ方です。
ラングルには、一般的なチーズにはない、とても個性的な伝統の食べ方があります。それが「フォンテーヌ(上部のくぼみ)にシャンパンや蒸留酒を注ぐ」という方法です。
本場フランス・シャンパーニュ地方でのやり方はシンプルです。チーズを常温に戻してから、くぼみに少量(大さじ1〜2杯程度)のシャンパンや辛口の白ワインをそっと注ぎます。そのまま数分待つと、アルコールの風味がチーズに少しずつ染み込み、スプーンで表面をすくって食べると、よりまろやかでリッチな風味が楽しめます。これは「お酒をかけて食べる」のではなく、「チーズにアルコールで香りをまとわせる」イメージです。
さらに上級の食べ方としては、シャンパンの代わりにマール・ド・シャンパーニュ(シャンパーニュ産の果実蒸留酒)や洋ナシのブランデーを注ぎ、くぼみに火をつけて青い炎を楽しんでから食べる方法もあります。炎が消えた後、アルコールが染み込んだ温かいラングルをバゲットとともに味わうのは、まさにフランスの贅沢な食文化です。
注ぐお酒の選び方についてまとめると以下の通りです。
フォンテーヌにお酒を注ぐ食べ方は必須ではありません。「ちょっと特別な日」や「来客時のおもてなし」などに試すと、会話も弾む演出になります。バゲットとはちみつだけのシンプルな食べ方と比べてみると、チーズの表情の違いが楽しめますよ。
参考:シャンパンとラングルのペアリングに関する詳しい解説はこちら
最高のマリアージュが楽しめる!シャンパンに合うチーズとは | ワインソムリエ
せっかくのラングルを美味しい状態でキープするには、保存方法にひと手間かけることが重要です。普通のチーズと同じようにラップで巻いて冷蔵庫に入れるだけでは不十分な場合があります。
ラングルの保存で特に大切なのが「形を崩さないこと」と「乾燥させないこと」の2つです。熟成が進んだラングルはとても柔らかく、中身がトロトロになってくるため、カットした断面からどんどん形が崩れてしまいます。
保存手順はシンプルです。
熟成の進め方についても知っておくと便利です。熟成をゆっくり進めたいときはチルド室(0〜2℃)が適しています。反対に、もう少しコクと旨みを出したい・熟成を進めたいという場合は、野菜室(5〜7℃程度)で保存し、時々数時間ほど室温に置くことを繰り返すと熟成が早まります。熟成させながら自分好みの状態に仕上げていけるのも、ナチュラルチーズならではの楽しさです。
保存の目安は、カット後なるべく早め(1〜2週間以内)を心がけましょう。冷蔵庫の中で他のチーズや食材と直接触れると形が崩れたり、匂いが移ったりすることがあるので要注意です。
また、ラングルを日本で購入する場合、チーズ専門店や輸入食材店・通販サイトが主な購入先となります。価格の目安は、小型(180〜250g)のホールで1,000〜3,000円程度です。購入したら、なるべく早めに食べきる計画を立てておくのがおすすめです。
ラングルを初めて購入する際、どの熟成度のものを選ぶかで印象が大きく変わります。これを知っておくと、初めて食べて「思ってたのと違う…」という失敗を防げます。
ラングルには大きく「若い熟成(購入直後〜2週間程度)」と「進んだ熟成(3〜6週間以上)」の2つの段階があり、それぞれ味わいが異なります。
| 熟成段階 | 食感・見た目 | 味わい | こんな方に向いている |
|---|---|---|---|
| 若い(購入直後〜) | やや弾力がある、外皮は薄めのオレンジ | ミルキーでさっぱり、塩味穏やか | ウォッシュチーズ初心者、カマンベールが好きな方 |
| 進んだ熟成(3〜6週間) | 中心がトロトロ、外皮が濃いオレンジ〜赤褐色 | 濃厚・コクが増す、旨みが強い | クセあり・濃厚チーズが好きな方 |
チーズ専門店で購入する場合は、スタッフに「今日食べたいのか、数日後に食べたいのか」を伝えると熟成度の目安を教えてもらえます。通販の場合は届いてすぐ食べず、冷蔵庫の野菜室で2〜3日寝かせてから食べると旨みが少し増すことがあります。熟成度の目安として知っておけばOKです。
ウォッシュチーズが初めてで香りが不安な方は、若い熟成のラングルが圧倒的に食べやすいです。ラングルはウォッシュチーズの中では比較的クセが穏やかな部類に入り、エポワスやムンスターよりも入門用として向いています。まずは若い状態から試してみて、好みに合えば熟成を進めてみる、という順番が無理なく楽しめるコツです。
工場製と農家製(ファームハウス)の違いも知っておくと選びやすくなります。一般的に市販・通販で流通しているのは工場製が多く、品質が安定しており価格も比較的リーズナブルです。農家製はミルクの甘みと旨みがより深く、余韻も長いという特徴がありますが、入手できる場所が限られます。どちらも美味しいので、まずは工場製で試してみましょう。これで十分です。
参考:ラングルの農家製・工場製の詳しい食べ比べレビューはこちら
『ラングル』はどんなチーズ?農家製と工場製の違いをチーズプロフェッショナルが解説 | ワインとチーズのある暮らし