

ピクルスなしでは、ソリャンカの本物の味は絶対に出せません。
ソリャンカ(ロシア語:Солянка)は、ロシアおよびウクライナを代表するスープ料理のひとつで、その歴史は18世紀後半にまでさかのぼります。もともとは「セリャーンカ」と呼ばれ、ウクライナ語の「村(セロー)」を語源とする農民のスープでした。その後、ピクルスなど塩漬け食材の多さから「塩(ソール)」を語源に呼び名が変わり、現在の「ソリャンカ」として定着したという経緯があります。
このスープの最大の特徴は、「飲むオードブル」とも称されるほど具材の豊かさにあります。ピクルス、オリーブ、ケッパー、スモーク肉や魚の燻製など、前菜に並ぶような食材がそのままスープの具になるのです。Wikipediaのソリャンカの項目によれば、近世にウクライナのボルシチとロシアのシチーが融合して生まれたスープとされており、ロシアの貴族社会にも取り入れられた高貴な出自を持ちます。
ソリャンカには大きく3種類あります。牛肉やハム・ソーセージなどの「肉のソリャンカ」、チョウザメやサーモンなど塩漬け・燻製魚を使う「魚のソリャンカ」、そしてキノコを主役にする「キノコのソリャンカ」です。どの種類にも共通するのが、キュウリのピクルスとその漬け汁を必ず使う点。これが独特の酸味の正体で、スープのコクと深みを決定づけています。
ロシア国内では、学生食堂から高級レストランまで幅広い場所で提供される国民食です。仕上げにレモンスライスを浮かべ、サワークリームを添えてから食べるのが伝統的なスタイル。酸味のある濃厚スープが心と身体を温めてくれます。
ソリャンカの歴史・種類・レシピの詳細はWikipediaで確認できます。
ソリャンカが興味深いのは、そのスープが単なる料理を超えた文化的なシンボルでもある点です。18世紀後半、ウクライナ・コサック出身のロズモーヴシクィイ家がロシア宮廷にウクライナ料理を広めたことで、ソリャンカはロシアの貴族たちにも愛される料理になりました。もともと農民の食べ物が、時代を経て宮廷でも食されるようになった——この流れは非常に珍しいことです。
伝統的にソリャンカは「宴会の翌朝に食べるスープ」として知られています。キュウリの塩漬けの漬け汁、酸味、そして濃厚なブイヨンの組み合わせが、二日酔いの体に優しくはたらきかけるとされ、ロシアでは民間療法的に重宝されてきました。また、元はウォッカを飲む際に同時に供され、酔いにくくする効果があるとも伝わっています。
スープに必ず入るケッパーとオリーブは、日本では「洋食の飾り」というイメージを持たれがちです。しかしソリャンカでは、これらが旨みと酸味の主役。ケッパーの独特の風味とオリーブの塩気がピクルスの酸みと調和することで、ボルシチとも豚汁とも違う「重層的なスープの味」が完成します。
ソリャンカには「伝統的なレシピは存在しない」ともいわれています。各家庭がそれぞれの食材を足してきた歴史があるためで、冷蔵庫の残り物を使って作るアレンジが今もロシアや旧東ドイツ圏で普通に行われています。つまり、決まり過ぎない自由なスープです。
| 種類 | 主な具材 | 特徴 |
|---|---|---|
| 肉のソリャンカ | 牛肉、ハム、ソーセージ、燻製肉 | 最もポピュラー。ボリューム感がある |
| 魚のソリャンカ | チョウザメ、サーモン、塩漬け魚 | 魚の旨みが濃厚。さっぱりした仕上がり |
| キノコのソリャンカ | 各種キノコ、キャベツ | ベジタリアン向け。素材の旨みが際立つ |
「ソリャンカはロシアのスープ」と思っている方は多いですが、実はドイツでも国民食として根付いているという事実はあまり知られていません。旧東ドイツを中心に、学校給食や社員食堂の定番メニューとして長年親しまれてきたスープなのです。
その背景には冷戦時代の歴史があります。第二次世界大戦後、ドイツが東西に分裂していた時代、旧東ドイツにはソビエト連邦軍が駐留していました。レストランで人気を博したソリャンカは缶詰にもなり、家庭に普及していきました。ドイツの伝統料理には燻製食品を使ったものが多く、スモーク肉を使うソリャンカがドイツ人の食文化に自然とフィットしたといわれています。
旧東ドイツ育ちのアンゲラ・メルケル前首相が「東ドイツの典型的な料理として大好き」とインタビューで語ったことも有名です。そして2019年11月には、ドイツ人シェフのアンドレ・ドムケがバルト海沿岸のレストランでタイセイヨウダラを使った268リットルもの魚のソリャンカを調理し、世界記録を樹立しています。東京ドームのグラウンドに例えると、ドラム缶1本以上の量のスープです。これが象徴するように、ドイツにとってソリャンカはもはやロシア料理ではなく、自国の食文化の一部なのです。
外国に溶け込んだロシア料理の詳細(Russia Beyond日本語版)
ドイツのソリャンカはロシア版と少し異なり、マスタード・ケッパー・瓶詰めのレチョー・レモン汁が入ります。「ババリヤ風」という牛の腎臓入りのバリエーションもあるほど、独自に進化を遂げています。これは意外ですね。レシピの自由度の高さが、海外へ広まった大きな理由のひとつといえます。
ソリャンカ作りで最も重要な材料はピクルスとその漬け汁です。これが基本です。日本ではついピクルスを「飾りや付け合わせ」として使いがちですが、ソリャンカでは漬け汁ごとスープに加える使い方が正解で、これがスープ全体の酸味と塩気を決定づけます。
市販のキュウリのピクルス(ディルピクルス)1〜2本とその漬け汁大さじ3〜4を加えるだけで、格段にソリャンカらしい味わいになります。ピクルスを入れる前にひと手間として、皮をむいて皮だけ別の鍋で塩水と一緒に10分茹でておくと、より透明感のあるスープベースができあがります。本場レシピのちょっとした技です。
スモーク系食材の選び方も味の決め手になります。本場ではスモークされた牛肉や燻製ソーセージが使われますが、日本では「スモークチキン」「カルパス(サラミ)」「スモークベーコン」などで代用できます。スーパーで手に入りやすいウインナーとベーコンを組み合わせるだけでも、燻製の風味がしっかり出ます。
| 本場の食材 | 日本での代用品 | 入手場所 |
|---|---|---|
| 燻製牛肉・豚肉 | スモークベーコン、厚切りハム | 一般スーパー |
| カルパス(燻製サラミ) | 市販サラミ・カルパス | 輸入食材店・コストコ |
| ディルピクルス | きゅうりのピクルス(ディル入り) | 輸入食材コーナー |
| スメタナ(サワークリーム) | サワークリーム | チーズ売り場 |
仕上げのレモンスライスとサワークリームは省かないようにしましょう。サワークリームをスープに溶かしながら食べると酸味がまろやかになり、全体の味が一段と引き立ちます。もしサワークリームが手に入らない場合は、少量のプレーンヨーグルトや生クリームでも代用が可能です。
旭化成ホームプロダクツのサリャンカ レシピ(日本語・手順写真あり)
ソリャンカは「手間のかかる外国料理」と思われがちですが、材料をそろえてしまえば20〜30分で完成します。時短が基本です。以下に4人分の家庭向けアレンジレシピをまとめました。
作り方の流れ:
トマトペーストは小さじ1杯(約5g)が塩分約0.4gで旨みが強く、ケチャップよりも塩分が抑えられるのでおすすめです。塩を後から調整しやすくなります。コンビーフ缶を1缶追加すると、コクが増してよりボリュームのある仕上がりになります。これは使えそうです。
時短したいときは、具材を切って炒めた後に全部一気に鍋に入れて15分煮るだけでも十分おいしく仕上がります。翌日はさらに具材に味がしみておいしくなるので、夕食の翌朝に残りを温め直してもぜひ楽しんでみてください。
Russia Beyondによるソリャンカの本場レシピと工程写真(日本語)
ソリャンカを作るときに必ず使うキュウリのピクルスは、実は腸活食材としても注目されています。発酵ピクルス(乳酸発酵させたタイプ)に含まれる乳酸菌は、腸内の善玉菌を増やし、悪玉菌の増殖を抑えるはたらきがあります。また、ピクルスに含まれるグルコン酸は腸内の善玉菌の好物で、腸内環境を整えるのに効果的だとされています。
酢漬けタイプの市販ピクルスでも、酢酸による整腸作用や野菜の食物繊維が腸を刺激して便通を改善する効果が期待できます。ソリャンカ1杯でピクルス1本分(約20g)を摂取できるため、毎日のスープとして取り入れるのは理にかなっています。腸活に注目が集まる今、ソリャンカは「おいしく腸ケアできる料理」として見直す価値があります。
さらに、ケッパー(ケイパー)には抗酸化物質であるルチンが豊富に含まれ、血管を丈夫にする作用があるとされています。オリーブには良質なオレイン酸が含まれ、コレステロール値の改善に役立つと言われています。スーパーで手軽に買えるこれらの食材が、一つのスープの中に組み合わさっているのがソリャンカのすごいところです。
ただし、ピクルスや燻製食材には塩分が多く含まれます。1杯のソリャンカの塩分は約2〜3g程度になる場合があります。日本人の1日の塩分摂取目標量は女性で6.5g未満(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」)なので、他の食事と組み合わせて全体のバランスを意識することが大切です。塩分が気になる場合は、ピクルスの量を少し減らし、ケッパーとオリーブで旨みを補う調整が効果的です。これに注意すれば大丈夫です。