

加工食品のパッケージを見ると、原材料欄に「植物油脂」や「植物油」という記載がよくありますよね。一見すると同じように見えるこの2つですが、実は微妙な違いがあるんです。
参考)https://shoku-eisei.jp/post-33/
油脂という言葉は、動植物由来のあぶら全般を指す総称なんですね。この油脂は、常温での状態によって「油」と「脂」に分けられます。常温で液体のものが「油」、常温で固体のものが「脂」です。英語で表現すると、油はoil、脂はfatとなります。
参考)https://www.shoku-do.jp/column/co_0240_vegetable_oil/
植物油脂は、植物の実や種から採取された油脂全般を指していて、液体と固体の両方を含みます。一方、植物油は常温で液体のものだけを指しているんです。つまり、植物油脂のほうがより広い意味を持つ言葉ということになります。
スーパーで売られているなたね油や大豆油は常温で液状なので、植物油に該当します。ヤシ油やパーム油など、飽和脂肪酸を多く含んで常温で固体になるものは植物脂と呼ばれます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8D%E7%89%A9%E6%B2%B9
食品表示における「植物油脂」と「植物油」の使い分けには、JAS法による規定が関係しています。農林水産大臣が制定するJAS規格では、食用のものについては「食用植物油脂」と呼ぶことになっているんです。
食品パッケージの「名称」欄に記載する場合は、JAS規格で定められた表記方法に従う必要があります。そのため、食用大豆油、食用なたね油、食用オリーブ油といった「食用」という言葉が付いた形で表示されるんですね。一般消費者向けの家庭用油を見ると、名称欄には「食用なたね油」と記載されているものが多いです。
一方、「原材料名」欄に記載する場合は、JASなどで定められた名称でも良いですし、一般的な名称で表示してもよいことになっています。植物油脂や植物性油脂は、どちらも一般的に通じる名称なので、原材料名欄ではこれらの表記が使われることが多いんです。
食品表示基準では、油脂を「植物油、植物脂若しくは植物油脂」として表示できることが明記されています。つまり、食用植物油脂と植物油脂は実質的に同じ意味であり、「食用」が付いているか付いていないかだけの違いなんですね。
植物油にはさまざまな種類があって、それぞれに含まれる脂肪酸の組成が異なります。JAS規格で定められている食用植物油脂には、食用サフラワー油、食用ぶどう油、食用大豆油、食用ひまわり油、食用とうもろこし油、食用綿実油、食用ごま油、食用なたね油、食用こめ油、食用落花生油、食用オリーブ油、食用パーム油などがあります。
日本国内における植物油脂の供給量を見ると、なたね油、パーム油、大豆油などが上位を占めています。2023年の植物油の原油生産量は約156万トンで、菜種油が約86万トンと最も多く、次いで大豆油が約49万トン、とうもろこし油が約7.6万トン、米油が約7.3万トンとなっています。
参考)https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1111/01.html
なたね油は国内の需要量と生産量ともにトップで、ほとんど無臭で軽く、あっさりとした味が特徴です。揚げ物や炒め物など幅広く利用されています。大豆油は独特のうま味とコクがあり、他の植物油とブレンドされて、サラダ油や天ぷら油として利用されることが多いんです。
米油は玄米を精米するときにできる米ぬかを原料としていて、淡泊でさらっとした味が特徴です。酸化しにくく加熱にも強いため、揚げ物からドレッシングまで幅広く利用されています。
植物油の主成分は脂肪酸で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。脂肪酸の種類と割合によって、植物油脂の特長が決まるんです。
参考)https://foodservice.nisshin-oillio.com/library/2023-yushi005/
植物油を語る上で避けて通れないのが、トランス脂肪酸の問題です。トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種で、人工的に加工・精製する過程でできるものと天然にできるものがあります。
マーガリンやショートニングを作る際、植物油を固体にするため部分的に水素添加するのですが、その過程で一部がトランス脂肪酸に変化してしまいます。また、植物油を精製する際に、好ましくない臭い成分を脱臭するため200℃以上の高温で処理される際にもトランス脂肪酸が生じます。
参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/
トランス脂肪酸を過剰に摂り過ぎると、悪玉(LDL)コレステロールが増えて、善玉(HDL)コレステロールが減るため、心筋梗塞などの冠動脈性心疾患のリスクが高くなるといわれています。
ただし、WHO(世界保健機関)は、トランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満(平均的な日本人で約2g未満)」にするよう勧告していますが、日本人の摂取量の平均値は0.666 g/日(エネルギー比 0.31%)で、健康への影響は小さいと考えられています。
近年、企業努力により市販されているマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の量はとても少なくなっています。部分的水素添加という技術を使わずに作ることで、トランス脂肪酸の含有量を減らした商品が増えているんですね。
天然のトランス脂肪酸は、牛や羊など反芻動物の肉や乳製品に含まれますが、とてもわずかな量なので健康への害はほぼ無いと考えられています。
加工食品の原材料欄に「植物油脂」と記載されていても、実際にどの油を使用しているかは食品表示を見ただけでは分からないことが多いんです。これには製造者側の事情があります。
植物油脂という総称で記載することができるため、なたね油、大豆油、とうもろこし油、オリーブ油、ごま油など、どんな原材料を使用しているのかが不明確になっています。その食品中にいくつかの植物油脂が含まれていて、それらを植物油脂とまとめて表示しているケースもあるんです。
また、植物油脂を異なる植物油脂に切り替えたときに、表示内容の変更をしなくても済むといった事情もあるようです。表示の変更をするのは、パッケージを変更したり、販売先への案内が必要になったりと、とても時間がかかる大変な作業なんですね。
ただし、メーカーによっては自主的に詳細を表示していることもあり、その場合は「植物油脂(米油)」などと表記されています。複数の油が使用されている場合には、使用重量の割合の多いものから左順に「植物油脂(米油、大豆油、パーム油)」と表記されます。
さらに、植物油脂全体に対し、占める割合が5%未満であれば「その他」と記載することができるため、「植物油脂(米油、大豆油、その他)」と表記される場合もあります。
健康志向の高まりとともに、植物油に含まれる脂肪酸の種類に注目が集まっています。中でもオレイン酸は、体に良い影響をもたらす不飽和脂肪酸として知られています。
オレイン酸は体内でも生成できる脂肪酸で、オリーブ油やなたね油に多く含まれます。善玉コレステロールを減らすことなく、悪玉コレステロール値だけを減らすことで、血中のコレステロールを適正に保つ働きがあるといわれています。酸化しにくい点も特徴なんです。
参考)https://arima.co.jp/nutslabo-blog/%E7%BE%8E%E5%AE%B9%E3%83%BB%E5%81%A5%E5%BA%B7/2022/07/01/22061/
オメガ9系に分類されるオレイン酸は、心疾患や動脈硬化のリスク軽減、またダイエットにも効果が期待できます。菜種油やオリーブオイル、紅花油などがオメガ9系の代表的な植物油です。
参考)https://www.taberare.com/article/blog/2945
一方、リノール酸は必須脂肪酸のひとつで、ごま油や大豆油に多く含まれます。血中のコレステロール値を下げる働きがあるものの、過剰摂取になると悪玉コレステロールだけでなく善玉コレステロールも減らしてしまうため、摂取する量には注意が必要です。
α-リノレン酸は必須脂肪酸のひとつで、しそ油に多く含まれます。血中の中性脂肪の値を下げて血液の流れを良くする働きがあり、生活習慣病の予防に効果的とされています。
植物油の種類によって脂肪酸の割合が異なるため、用途や健康目的に応じて使い分けることが大切です。
参考)https://www.nisshin-oillio.com/story/p02-01.html
家庭で揚げ物をする際、どの植物油を選ぶかで仕上がりが大きく変わります。揚げ物に適した油の選び方と使い方のポイントを押さえておきましょう。
揚げ物に使う油の量は、鍋の底から3cm〜3.5cmくらいが適量です。揚げ焼きなら少量の油で問題なく、鍋の底から1cm〜2cmくらいが目安となります。
参考)https://delishkitchen.tv/articles/578
材料や料理によって油の温度を設定します。低温(160〜165度)は、じっくり揚げることで焦がさずに食材の中までしっかりと火を通すことができ、じゃがいもや厚く切ったお肉を揚げるのに適しています。中温(170〜180度)は、唐揚げやフライ、天ぷらなどのさまざまな揚げ物に適した温度で、中まで火が通り、外側はサクサクに仕上がります。高温(185〜190度)は、唐揚げの二度揚げで使われ、外側がカラッと仕上がります。
主要な植物油である菜種油、大豆油、パーム油の3種類について、それぞれの特長と利用用途が異なります。菜種油はクセがなく、さっぱりした風味で、揚げ物(天ぷら、コロッケ、から揚げ)、炒め物、ドレッシングなど幅広く使えます。大豆油は特有のうま味とコクがあり、揚げ物やドレッシングに向いています。パーム油は淡白な風味で保存安定性が高く、揚げ物や菓子のコーティングに適していますが、低温で固化するためドレッシングには不向きです。
参考)https://foodservice.nisshin-oillio.com/library/2023-yushi003/
揚げ油の使用回数は3〜4回が目安で、油を汚しにくい料理から始めて、さし油をしながら使うのがポイントです。野菜を揚げただけの油と、肉や魚を揚げた油では再利用できる回数は異なりますが、汚れや劣化の少ない油なら2〜4回ほどは使用できます。
参考)https://www.nisshin-oillio.com/story/p03-04.html
揚げ物調理などに、種類の違う油をブレンドして使っても問題ありませんが、ココナッツオイルは他の油と混ぜて揚げ物をすると油がふきこぼれ引火する危険があるので注意が必要です。
参考)https://www.nisshin-oillio.com/story/p03-01.html
参考リンク(植物油の特長と調理法について詳しく解説)
主要3種の植物油(菜種油、大豆油、パーム油)の特長 - 日清オイリオ
参考リンク(揚げ物料理のコツと油の温度管理)
揚げ物料理をおいしくつくるコツは? - 日清オイリオ
加工食品によく使われるマーガリンやショートニングは、植物油脂を原料として作られる加工油脂です。これらの製造過程を知ることで、植物油脂との違いがより明確になります。
マーガリンとショートニングはどちらも植物性油脂が使われているのは同じですが、成分構成と風味に違いがあります。マーガリンに含まれる油脂が約80%なのに対し、ショートニングはほぼ100%油脂でできています。
参考)https://pantry-lucky.net/blogs/column/shortening
マーガリンには、油脂のほかに水分や乳成分が含まれています。また食塩や砂糖、ビタミン類が加えられているため、無味無臭のショートニングとは違い、味や風味があるのが特徴です。
バターの原料は牛乳由来の動物性油脂なのに対して、ショートニングの主な原料は大豆や菜種を由来とする植物性の油脂です。バターを使用した焼き菓子は、香りが豊かでしっとりとした食感が楽しめますが、ショートニングは素材の風味を引き立たせつつ、サクッとした食感になるのが特徴です。
常温で液体の植物油や魚油から、半固体又は固体の油脂を製造する加工技術の一つに「水素添加」があります。水素を添加することで不飽和脂肪酸の二重結合の数が減り、飽和脂肪酸の割合が増えますが、これによってトランス脂肪酸ができることがあります。
部分的に水素添加した油脂を用いて作られたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに、トランス脂肪酸が含まれているものがあります。
近年では、部分的水素添加という技術を使わずに作ることで、トランス脂肪酸の含有量を減らした商品が増えています。「トランス脂肪酸低減」や「部分的水素添加油脂不使用」などと表示されているので、パッケージやメーカーのホームページなどで確認するとよいでしょう。
参考リンク(トランス脂肪酸の生成過程と健康への影響)
すぐにわかるトランス脂肪酸 - 農林水産省
日本で流通している植物油の品質は、JAS(日本農林規格)制度によって厳格に管理されています。この制度が消費者の安全を守る重要な役割を果たしているんです。
食用植物油脂は日本では日本農林規格(JAS)でその品質基準が制定されています。日本油脂検査協会が農林水産大臣より登録認定機関として認められており、同協会が製油工場およびその製品の認定を行い、合格品にJASマークが付けられます。
各植物油に関しては色、酸価、比重、屈折率、けん化価、ヨウ素価などの規格が制定されています。添加物として認められているのは、酸化防止剤としてトコフェロール、容量4kg以上の製品の消泡剤としてシリコーン、栄養強化剤としてビタミンEのみです。
日本植物油協会の会員企業で食用植物油脂を製造している工場は、全てがJASの認証工場となっています。JAS規格は家庭用の製品を主な対象とする制度ですが、食用植物油脂のJAS制度の発足以来、日本植物油協会の会員企業は市場から不良品を排除しようという意気込みをもって、家庭用の商品だけではなく、業務用や加工用の商品のすべてについてJASの格付ができる製品を基準にして市場を作り上げてきました。
参考)https://www.oil.or.jp/kiso/jas.html
このような事情から、食用植物油脂は多くの食品の中でもJAS格付率が最も高いものとなっています。言い換えれば、JASを大切にすることにより、消費者や食品加工業界の信頼を築き上げてきたということができるのです。
製品が表示されたとおりの食用植物油脂であることは、油種ごとの特性値を調べることによって確認できます。製品の品質は、精製度合いを判定できる検査で確認できます。
国内で製造される食用植物油脂については、日本植物油協会会員以外の多くの企業もJAS工場認証を受けており、JAS規格を充足しない油を供給することはほとんどあり得ません。ただし、輸入される食用植物油脂については、JAS規格を十分に理解していないため誤った表示をする事例がときおり見られます。
参考リンク(JAS制度と植物油の品質管理について)
植物油とJAS制度 - 日本植物油協会
健康的な食生活を送るためには、植物油の選び方と保存方法を知っておくことが大切です。用途に合わせた油の選択と適切な保存で、油の品質を長く保つことができます。
植物油を選ぶ際におさえておきたいのは「成分の種類」や「抽出方法」、「加熱用か生食用か」です。オメガ9系脂肪酸であるオレイン酸も、体に必要な不飽和脂肪酸で、多くの植物油に含有されています。オレイン酸は人間の体内でも産生される脂肪酸です。
参考)https://hikaku.kurashiru.com/articles/01J32FB6JEYDA6MC62YW27KK5V
トランス脂肪酸を含まない食品は、せんべいなどの和菓子やミックスナッツで、製造過程で油が使われていないものが安心です。また、植物油のなかでも圧搾法という昔ながらの製法でしぼられた油は、トランス脂肪酸を含みません。例えば、エキストラバージンオリーブオイルや、焙煎ごま油などです。
オリーブオイルを購入する際は注意が必要です。オリーブオイルの大半は輸入で、日本の法律や規制が及びません。輸出国の段階からすでに品質が劣化しているものやほかの油が混ざっているとの指摘もあります。本来エクストラバージンオイルは高価な油なので、格安のオイルは要注意です。メーカーや認証マーク、酸度、容器などをしっかりチェックしてください。
トランス脂肪酸について過剰に心配する必要はないものの、クッキーやケーキなどの洋菓子、ファストフードや揚げ物をよく食べる人は要注意です。また、近年、日本人も脂質の摂り過ぎが指摘されており、トランス脂肪酸か、飽和脂肪酸か、ではなく、脂質全体の摂り過ぎに注意する必要があります。
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、18歳以上の男女の飽和脂肪酸の摂取目標量を総摂取エネルギーの7%相当以下としています。栄養バランスの良い食事を取り、お菓子の食べ過ぎにも気をつけましょう。
和食や中華料理は、洋食に比べてトランス脂肪酸の量が少なめです。日常の食事で和食を取り入れることも、健康的な油の摂り方につながります。
参考リンク(植物油の健康効果と選び方の詳細)
植物油がカラダにいいワケを知っていますか? - 日清オイリオ
参考リンク(食用植物油脂の表示ルールと種類)
食用植物油脂、植物油脂、植物油の違い - 食の衛生ナビ