

世界では環境保護の観点から、パーム油の使用や輸入に制限をかける動きが広がっています。特に欧州諸国では、森林破壊に関連したパーム油の規制が進んでいるんです。
参考)https://spaceshipearth.jp/palm-oil/
EU(欧州連合)では、森林破壊に関連するパーム油の輸入・販売を禁止する森林破壊防止規則(EUDR)を2023年に採択しました。 この規則では、2020年12月31日以降に森林伐採が行われていない土地で生産されたことを証明できる製品に限り、輸入を認めるという厳格な内容になっています。
参考)https://www.alterna.co.jp/136341/
フランスでは、バイオ燃料用途でのパーム油利用を段階的に廃止する方針を打ち出しています。 また、ノルウェーは公的調達におけるパーム油使用を禁止しており、スウェーデンでも一部自治体でパーム油の公的調達を禁止する措置が取られています。
参考リンク:EU森林破壊防止規制の詳細について
EU森林破壊防止規制まで1年、対象はパーム油など7品目 | オルタナ
パーム油の生産拡大に伴い、インドネシアやマレーシアなどの熱帯地域で深刻な環境破壊が進んでいます。 インドネシアのスマトラ島では、1985年に2,490万ヘクタールあった熱帯林の面積が、2016年には1,110万ヘクタールと、およそ30年で半分以下にまで減少しています。
参考)https://palmoilguide.info/about_palm
森林伐採による影響は環境面だけではありません。熱帯雨林の減少によって、絶滅危惧種であるオランウータンは生息地の80%を失いました。 パーム油プランテーションの生物種の数は、熱帯雨林の生物種と比較すると15%しかいないという報告もあり、生物多様性の損失は極めて深刻なんです。
参考)https://eleminist.com/article/2484
さらに、アブラヤシ農園を作るために泥炭地の水を抜いて切り拓くことで、貯蔵されていた炭素が大気中に放出されてしまいます。 2015年にインドネシアで放出された二酸化炭素の量は17.50億トンといわれ、これは日本の年間排出量14.08億トンを大幅に上回る数値です。
参考)https://mygreengrowers.com/blog/climatechange-palmoil/
環境問題だけでなく、パーム油生産現場では深刻な人権問題も報告されています。マレーシアやインドネシアのアブラヤシ農園では、強制労働、児童労働、人身売買など深刻な人権侵害が指摘されているんです。
参考)https://palmoilguide.info/issue_of_fit/fit_labor_issues
米国労働省が2018年に発表した報告書では、マレーシアでは児童労働や強制労働、インドネシアでは児童労働のリスクを抱える産品としてパーム油が指定されています。 アムネスティ・インターナショナルの調査では、8歳の子どもを含む児童労働、除草剤による深刻な中毒症状の発症、最低賃金以下での長時間労働、過度なノルマ設定といった問題が報告されています。
参考)https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2020/07/post-201881.html
これらの問題を解決するため、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)は児童労働の禁止を含む児童保護のための正式なポリシーを要求しており、是正措置が整備されています。 ユニセフとRSPOは2016年に覚書を締結し、パーム油産業が子どもに与える影響について調査を実施しました。
参考)https://rspo.org/ja/protecting-local-labour-rights-in-the-palm-oil-sector/
参考リンク:パーム油産業における労働問題の詳細
労働問題 | パーム油調達ガイド
パーム油は植物由来でありながら、構成する脂肪酸のおよそ半分が飽和脂肪酸であることが健康面での懸念材料となっています。 飽和脂肪酸の過剰摂取は血中LDLコレステロール値を上昇させ、循環器疾患のリスクを高める可能性があるんです。
参考)https://www.yoshino-naika.com/blog/97120/
トランス脂肪酸の規制が進む中、パーム油は代替油として注目されていますが、米国農務省(USDA)は「食品事業者にとってパーム油はトランス脂肪酸の健康的な代替油脂にはならない」とする研究報告を公表しています。 農林水産省のホームページでも、パーム油への代替は「すでに平均的に見て取りすぎの傾向にある飽和脂肪酸の含有量を大幅に増加させてしまう可能性がある」と指摘されています。
参考)https://palmoilguide.info/archives/2712
また、パーム油は長期間の船上輸送による酸化を防ぐために、酸化防止剤としてBHA(ブチルヒドロキシアニソール)という食品添加物が用いられています。 このBHAは、1998年に食品衛生調査会で、ラットに対する発がん性が確認されており、健康への影響が懸念されています。
世界最大のパーム油輸出国であるインドネシアは、国内の食用油価格の高騰を抑えるため、2022年4月28日からパーム油の輸出を禁止する措置を取りました。 インドネシア商業省の市場モニタリングシステムによると、食用油1リットルの国内価格は、2021年1月が1万3,200ルピアだったのに対し、2022年3月は1万9,400ルピアと約5割上昇していたんです。
参考)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1911f8aa3abb05a31c58f3a6283c324724aa74a6
この輸出禁止措置は約3週間後の5月23日に解除されましたが、輸出再開の条件として、輸出業者に対し海外への輸出量の一定割合を国内市場に供給する義務(DMO)が再導入されました。 2022年1月からは輸出量の20%、3月からは30%を国内市場に供給することが義務付けられています。
参考)https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/05/0f01184cbfba157f.html
インドネシアはパーム油の総生産量の約83%(マレーシアと合わせて)を占める世界最大の生産国であるため、こうした輸出規制は国際市場にも大きな影響を及ぼしました。 さらに、インドネシア政府は2023年2月からディーゼル燃料にパーム油を混ぜる比率を引き上げ、国内消費を増やす政策を進めています。
参考)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB31CQR0R30C23A1000000/
参考リンク:インドネシアのパーム油輸出規制について
インドネシア、4月28日からパーム油の輸出禁止を決定 | JETRO
パーム油問題の解決策として、2004年に設立されたRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が重要な役割を果たしています。 RSPOは、世界自然保護基金(WWF)を含む関係団体が中心となり、持続可能なパーム油の生産と利用を促進することを目的とした国際NPOなんです。
参考)https://www.saraya.com/csr/env/rspo.html
RSPOでは2種類の認証制度が設けられています。 1つは農園や搾油工場を対象とした「P&C認証」で、持続可能な生産が行われているかを認証します。もう1つは、認証パーム油を使用する製品を取り扱う製造・加工・流通過程を対象とした「サプライチェーン認証(SCCS認証)」です。
参考)https://www.nj-chem.co.jp/rspo/
認証の基準には、生産地の環境や生態系に配慮した農園開発、労働者のジェンダー平等・待遇への取り組み、児童労働の禁止などが含まれています。 日本では2019年時点で157社がRSPO認証を取得しており、徐々に持続可能なパーム油への取り組みが広がっています。
RSPO認証とEU森林破壊防止規則(EUDR)の違いについても理解しておくことが重要です。EUDRは2020年以降に森林伐採が行われていないことを証明できるものに限り輸入を認めるという厳格な規則で、パーム油、牛、木材、カカオ、大豆、コーヒー、ゴムの7品目が対象となっています。
参考)https://www.alterna.co.jp/106894/
参考リンク:RSPO認証の詳細について
RSPO認証 | 環境への取り組み | サラヤ
パーム油問題への対策として、代替油の開発も進んでいます。日清食品が開発した代替油は、パーム油と近い性質を持つのに加え、広い土地を必要としないため、パーム油の代替油としての利用が期待されています。
参考)https://kuradashi.jp/blogs/kuradashi-magazine/175
また、スコットランドのリバイブ・エコ社が開発した、コーヒーかす由来の代替油も注目されています。 毎日出るコーヒーかすを利用することで、持続可能な代替油を食品や化粧品、ファッション分野などに提供できるんです。
米国のスタートアップ企業・C16バイオサイエンシズ社は2017年から、微生物を使ってパーム油の代替品「パームレス」を開発しています。 すでに「パームレス」を使った化粧品も発売されており、日本を含むアジアへの進出も目指しています。
参考)https://www.alterna.co.jp/98334/
消費者レベルでできる対策としては、以下のような方法があります。まず、RSPO認証ラベルの付いた商品を選ぶこと。 日本では157社がRSPO認証を取得しており、こうした企業の製品を選択することで持続可能なパーム油の生産を支援できます。
次に、本当にその商品が必要かどうかを吟味することも大切です。 たとえ少量でもパーム油が使われている以上、購入することはパーム油の生産に加担していることを意味します。購入を必要最低限に抑えることも、パーム油の消費を減らす重要な選択肢なんです。
また、代替油が使われた製品を購入することも効果的です。 加工食品を選ぶ際には、原材料表示を注意深く確認し、「植物油脂」「パーム油」「パーム核油」などの表示をチェックすることをおすすめします。
日本人が1年間に食べるパーム油の量はおよそ4kgで、洗剤や化粧品など非食品に使われるものも合わせると、日本人1人あたりの年間消費量は約5kgになります。 ただし、日本植物油協会によると、日本人一人当たりの消費量は18.5kgほどで、国際的にはむしろ少ない部類に入るんです。
参考)https://www.bctj.jp/palm-oil-and-our-life/
日本では、パーム油への認識自体がまだ消費者に広く浸透していないという課題があります。 その要因として、食品表示法におけるパーム油の表記が挙げられます。パーム油は通常「植物油」と記すのみでよく、パーム油と記載するのは義務ではないため、消費者が意識しにくい状況なんです。
欧米など多くの国・地域では、商品ラベルの中にRSPO認証や「パーム油不使用」などの表示がありますが、日本にはこうした背景もあり、まだパーム油の問題があまり知られていません。
バイオマス燃料についても、日本ではRSPO認証を得たパーム油に限り、電力の固定価格買取制度(FIT:補助金)の対象となっています。 世界の持続可能なパーム油の生産といった動きに伴い、パーム油の原料価格は高騰していますが、日本ではパーム油の燃料への活用の動きはまだ止まる気配が見られません。
油糧輸出入協議会へのヒアリングによれば、日本のパーム油消費のうち10万トンがエネルギー利用され、食用を含めた家庭用の利用は60-65万トン程度とされています。 今後、さらにパーム油への規制を求め、日本での使用量を減らすなど、思い切った動きも必要となるでしょう。
参考)https://www.maff.go.jp/j/budget/yosan_kansi/sikkou/tokutei_keihi/seika_R03/attach/pdf/itaku_R03_ippan-702.pdf
参考リンク:日本のパーム油消費の現状について
パーム油と私たちのくらし | 認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン