

ラグザーノチーズの1ホールは12kgもあり、料理に使う分だけ削ると塩分の摂りすぎで夕食が台無しになります。
ラグザーノ(Ragusano)は、イタリア・シチリア島の南東部に位置するイブレイ山地(Monti Iblei)周辺で作られている、歴史あるセミハードタイプのチーズです。その名前はシチリアの古都ラグーザ(Ragusa)に由来しており、「シチリアのパルミジャーノ」とも呼ばれるほど現地の料理文化に深く根付いた存在です。
外見の特徴はとにかくユニーク。一般的なチーズといえば丸型や円筒型を想像しますが、ラグザーノはまるで大きな角食パンのような直方体(平行六面体)の形をしています。しかもサイズが圧倒的で、1ホールあたりの重さは10〜16kgにもなります。はがき(横幅148mm)を縦に4〜5枚並べたくらいの大きさを想像していただくと、その存在感が伝わるでしょう。
表面はなめらかで、熟成が進むにつれて色が黄金色から茶褐色に変わっていきます。内部はパスタフィラータ(Pasta Filata)製法特有の、繊維が整ったしっかりとした食感です。つまり原理的にはモッツァレラチーズと同じ湯練り製法で作られています。
モッツァレラとの決定的な違いは、熟成させる点です。
熟成期間は大きく2種類に分かれており、熟成4〜6ヶ月の「セミスタジョナート(Semi Stagionato)」と、6ヶ月以上の「スタジョナート(Stagionato)」があります。最高品質とされるものは最低8ヶ月以上じっくり寝かせます。熟成が浅いうちはマイルドでほんのり草の香りが感じられ、熟成が進むとよりシャープで力強い風味と、はっきりとした塩味が出てきます。
2001年にEUのDOP(Denominazione di Origine Protetta:原産地呼称保護)認定を取得しており、シチリア州特定地域内でのみ製造が認められています。これは本物のラグザーノを選ぶ際の重要な目印となります。
参考:ラグザーノのDOP認定や産地に関する詳細情報
カチョカヴァッロラグサーノチーズ – Oliva Sicula オリーバシクラ
ラグザーノを語る上で絶対に外せないのが、原料となる牛乳の存在です。本来のラグザーノは、シチリア固有の在来種「モディカーノ牛(Modicana)」の生乳だけを使って作られます。これが一般的なチーズとはまったく異なる風味の深さを生み出す秘密です。
モディカーノ牛はシチリアのイブレイ高原に自生するキンセンカ、ゼラニウム、ジャスミンといった芳香のある草を食べて育ちます。その乳はタンパク質と脂肪分が非常に高く、濃厚でクリーミーな味わいが特徴です。シチリアの太陽を浴びた多様な牧草の香りがそのまま乳に移り、それがラグザーノの個性的な風味につながります。
しかし現在、モディカーノ牛は飼育頭数が激減している希少品種です。牛乳価格の低下などの経済的な理由から、農家がより生産効率の良い品種に切り替えてきた結果、かつては数万頭いたモディカーノ牛が大幅に減少しています。そのため100%モディカーノ牛の乳で作られたラグザーノは、今や大変希少になりました。
これは重要な点です。
市場に出回るラグザーノの中には、他品種の牛乳と混合されたものも存在します。本来のモディカーノ牛100%のラグザーノを手に入れたい場合は、購入時に生産者情報や原材料を確認することが大切です。ラグザーノDOPの「生産の旬」は春(11月〜5月)とされており、牧草が豊富な時期に集中して作られます。旬を外れた時期の在庫は非常に少なく、希少価値がさらに高まります。
また、ラグザーノはその独特の形状を生み出すために「天井から吊るす」という熟成方法をとります。直方体のチーズをロープで縛り、洞窟のような熟成庫の天井から吊るして数ヶ月かけてじっくりと乾燥・熟成させるのです。完成したチーズにはロープの跡がくっきりと残り、これがラグザーノの証でもあります。
参考:モディカーノ牛の希少性とラグザーノの製法について
Caciocavallo『RAGUSANO』 シチリア産ラグサーノチーズ – il ricottaro
ラグザーノは熟成期間によって、風味・食感・塩味がまるで別物のように変わります。これを知っておくと、用途に合った選び方ができるようになります。
若い熟成(3〜5ヶ月程度/セミスタジョナート) のラグザーノは、内部がしっとりと弾力があり、モッツァレラに近い食感が残っています。塩味は比較的マイルドで、モディカーノ牛の乳由来の草の香りとミルクの甘さが前面に出ます。そのままスライスしてかじっても美味しく食べられます。初めてラグザーノを試す場合は、若い熟成のものから始めるのがおすすめです。
長い熟成(6〜12ヶ月以上/スタジョナート) になると、水分が抜けてより硬くなり、塩味とうま味が凝縮されます。日本人の口には塩気が強すぎると感じることも多く、そのままがぶりと食べるよりも料理に使う方が活きてきます。特におろして料理に振りかける使い方が現地流です。
選ぶ際の注意点として、ラグザーノは塩味の強さが生産者によってかなり差があります。日本に入ってくる多くのものは塩気がかなり強い傾向があるため、初購入時は「比較的マイルドな塩味」と記載・説明されている生産者のものを選ぶと失敗しにくいです。
保存方法はチーズ専用の保存袋や、ラップで包んでからさらに密封袋に入れて冷蔵庫のチルド室に保管します。真空パックのものは半年程度持つとされています。一度開封した後はなるべく早めに使い切るか、密封して保管しましょう。乾燥が進むとどんどん風味が変わっていくので注意が必要です。
また、ラグザーノには独特の製造ルールがあります。
DOPの規定により、使用できる道具は昔ながらの木製の器具のみとされています。プラスチックや金属の大型機械による大量生産は認められておらず、すべて職人の手仕事で作られます。この伝統製法へのこだわりが、あの風味を守っています。
ラグザーノの食べ方は思っているよりずっと幅広いです。
おろしてパスタに振りかける使い方が最もポピュラーで、現地シチリアでも「シチリアのパルミジャーノ」と呼ばれるほどパスタとの相性が抜群です。パルミジャーノ・レッジャーノのようにチーズおろし器でおろして、茹でたてのパスタに振りかけるだけで、香り豊かな一品になります。パスタ・アッラ・ノルマ(トマトソースにナスが入るシチリアの代表的パスタ)との組み合わせは特に相性が良いとされています。
ピザやグラタンのトッピングとしても優秀です。加熱するとパスタフィラータ製法由来の伸びを見せます。ただし本来のラグザーノは熟成が進んでいるため、モッツァレラのようにやわらかく溶けるというよりも、風味豊かな旨みを加える役割が強くなります。ピザに乗せる場合は薄くスライスまたは細かく砕いて使うのがポイントです。
そのまま食べるおつまみとしての楽しみ方は、若い熟成のものが向いています。ビールや白ワイン、スパークリングワインとの相性が良いとされており、はちみつをつけて食べるとチーズの塩気とはちみつの甘みが絶妙にマッチします。シチリア産のはちみつと合わせるのが現地流です。
野菜や卵との組み合わせも試してみる価値があります。熟成が進んだものを細かくおろして炒めたインゲンや卵に振りかけると、ミルクの甘い香りが加わって食欲をそそる一皿になります。日常のおかずにほんの少し加えるだけで料理の格が上がります。
塩味が強いラグザーノを日常使いする場合は、入れすぎに注意が必要です。
料理の塩加減を先に決めずにラグザーノを加えると、出来上がりが想定より塩辛くなることがあります。まず少量だけ振りかけて味を確認してから量を調整する習慣をつけると、料理を失敗しにくくなります。
参考:ラグザーノを含むシチリアチーズの料理活用について
シチリア島のチーズ天井から吊るして熟成させる「ラグザーノ」 – チーズ倶楽部AKARI-YA
ラグザーノは日本のスーパーでは見かけることがほとんどありません。入手するには主にチーズ専門店か通販を活用することになります。
チーズ専門店・百貨店では、フェルミエ(東京・品川の駅ナカecuteなどに店舗あり)やチーズ王国のような専門店で取り扱いがある場合があります。ただし常時在荷があるわけでなく、仕入れ状況によって在庫が前後します。購入前に電話やWebサイトで確認しておくと確実です。
通販での購入の場合、ilricottaro(イル・リコッタロ)のようなシチリアチーズ専門の通販サイトでは、モディカーノ牛100%のラグザーノが取り扱われています。122gカット単位での販売がされており、まとまった金額(2万円以上)で国内送料無料になる場合があります。ピアッティ(Piatti)やOliva Sicula(オリーバシクラ)もオンラインで取り扱いがある専門店として知られています。
購入時に確認したいポイントを整理します。
- 🏷️ 「DOP」の表示があるか:DOP認定品であれば産地と品質が保証されています
- 🐄 モディカーノ牛100%か否か:他品種混合品より風味が格段に異なります
- 📅 熟成期間の記載:用途(そのまま食べる/料理に使う)に合わせて選びましょう
- 🧂 塩味の強さに関する説明:初購入ならマイルドタイプが失敗しにくいです
日本に入荷するラグザーノは量が限られており、希少品ほど在庫が少ないのが現状です。見つけたときは少し多めに購入して、真空パックのまま冷蔵保管しておくのも一つの選択肢です。真空パック未開封であれば半年程度は品質を保てるとされています。
チーズ専門のオンラインショップを初めて利用する際は、配送方法(クール便など)や到着日の指定可否を確認しておくと安心です。生チーズの性質上、温度管理が重要になります。これが基本です。
参考:チーズ専門店フェルミエのイタリアチーズ取り扱い情報
生産国・イタリア一覧 – チーズ専門店フェルミエ オンラインショップ