

「ひじきは鉄分が豊富」と信じて毎日食べても、今の市販品では鉄分が昔の約9分の1になっています。
スーパーに並ぶ海藻を選ぶとき、「これって何の仲間?」と意識したことはあるでしょうか。実はわかめや昆布、海苔、アオノリは、すべて異なるグループの海藻です。海藻は大きく「褐藻類(かっそうるい)」「紅藻類(こうそうるい)」「緑藻類(りょくそうるい)」の3種類に分けられます。この分類の基準は「生息する水深」と「含まれる色素」の2点です。
海の浅い場所には、地上の植物に近い光が届きます。そのため、もっとも浅瀬に生息するのが緑藻類で、クロロフィルaとクロロフィルbを多く含むため鮮やかな緑色をしています。代表的な食材はアオノリ・アオサ・ウミブドウです。もう少し深い場所では青緑色の光が届き、フコキサンチンという褐色の色素が発達します。これが褐藻類で、わかめ・昆布・ひじき・もずくなどがここに入ります。さらに深い場所でも光合成できるよう、赤・青の光を吸収するフィコエリスリンやフィコシアニンという色素を持つのが紅藻類です。つまり海苔ですね。
| グループ | 代表色素 | 主な食材 | 生息水深 |
|---|---|---|---|
| 🟢 緑藻類 | クロロフィルa・b | アオノリ・アオサ・ウミブドウ | 浅瀬〜数m |
| 🟤 褐藻類 | フコキサンチン | わかめ・昆布・ひじき・もずく | 数m〜数十m |
| 🔴 紅藻類 | フィコエリスリン | 海苔・テングサ・オゴノリ | 数十m以深 |
ひとつ面白いことがあります。わかめはスーパーで売られているときや味噌汁に入れると鮮やかな緑色ですが、海から採ったばかりのときは茶色っぽい褐色です。これは褐色の色素「フコキサンチン」が熱に弱く、加熱すると壊れてしまい、隠れていたクロロフィルの緑色が表に出てくるためです。「見た目が緑だから緑藻かな?」と思いがちですが、分類はあくまでも褐藻類です。分類は外見だけで判断できない、ということですね。
食用になる藻類は約50種類ほどで、日本では100種類以上の海藻が食されています。世界全体で見ると日本人は群を抜いて海藻を食べる民族であり、腸内に海藻を分解できる特有の酵素を持つ細菌がいることも研究で確認されています。
食卓でもっとも登場回数が多いのが褐藻類です。わかめ・昆布・ひじき・もずく・メカブなど、日本の食卓に欠かせない海藻がすべてここに集まっています。褐藻類の栄養上の最大の特徴は、「フコイダン」と「アルギン酸」という褐藻類だけが持つ特有の水溶性食物繊維です。
フコイダンはわかめやもずくのぬるぬるした成分の正体で、ぬめりを感じるたびに体に働きかける成分でもあります。現在、九州大学をはじめ複数の研究機関でフコイダンの健康効果が研究されており、「がん細胞にアポトーシス(自発的な細胞死)を誘導する」「免疫力を高める」「血管新生を抑制する」などの作用が動物実験や臨床研究で報告されています。これは使えそうです。ただし、現時点では「フコイダンでがんが治る」という段階ではなく、生活習慣病予防の補助的な役割として捉えるのが正確です。
アルギン酸もまた褐藻類に多く含まれる水溶性食物繊維で、消費者庁の特定保健用食品として「コレステロールが高めで気になる方」への効果が認められた成分です。具体的には、腸内でコレステロールや塩分を吸着して体外に排出する働きがあります。血中コレステロールが気になる方の食生活の改善に直結します。
ここで一点、知らないと損する情報があります。かつて「ひじきは鉄分の王様」と呼ばれ、食品成分表では100gあたり55mgという数値が掲載されていました。しかし2015年に文部科学省が成分表を改訂した結果、現在の主流であるステンレス釜で製造したひじきは100gあたりわずか6.2mgと、約9分の1に大きく下がりました。鉄分補給を目的にひじきを選んでいた場合は、ほぼ期待通りの効果が得られていない可能性が高いのです。
鉄分補給が目的なら、今日からは「あおのり(緑藻類)」を意識的に加えるのが賢い方法です。あおのりは乾燥品100gあたり鉄分77mgと、海藻の中で断トツ1位の含有量を誇ります。
「紅藻」と聞いてもピンとこない方が多いかもしれませんが、日本人が毎朝食べているおにぎりやごはんのお供である「海苔(のり)」は紅藻類です。見た目は黒いのに紅藻?と疑問に思うかもしれませんが、海苔の原料となるスサビノリは生育中は赤紫色をしており、乾燥・焼く工程で黒っぽくなります。
海苔(焼き海苔)は乾燥品100gあたりで見ると、ビタミンC160mg(レモン果汁の2倍以上)、ビタミンA、ビタミンB12(100gあたり56.7μg)を豊富に含みます。特にビタミンB12は動物性食品に多いビタミンとして知られているため、植物性食品である海苔にこれほど含まれているのは意外に感じます。焼き海苔1枚(約3g)でビタミンB12の1日推奨量の約70%をまかなえる計算です。毎朝おにぎりに巻くだけで、かなり効率的にビタミンB12を補給できるということですね。
テングサやオゴノリといった他の紅藻類から作られる「寒天」も、見逃せない食材です。粉寒天は100gあたり約79gが食物繊維という、桁外れの食物繊維密度を誇ります。カロリーはほぼゼロ(3kcal程度)なので、料理に少量加えるだけで食物繊維量を手軽に底上げできます。
寒天を料理に取り入れるハードルはじつは低く、みそ汁に粉寒天を小さじ1杯溶かすだけで食物繊維を手軽にプラスできます。腸内環境が気になる方や食後の血糖値が上がりやすいと感じている方の食生活の改善に、まず試してほしいアプローチです。
海苔に含まれるビタミンB12の量と健康効果(Medipalette by LOTTE)
緑藻類はアオノリ・アオサ・ウミブドウが代表格です。3種の中では最も浅瀬に生息し、地上の植物に近い色素構成を持ちます。食卓への登場頻度は褐藻類ほど多くありませんが、栄養価の高さは決して侮れません。
特筆すべきはアオノリ(すじ青のり)の栄養密度です。乾燥品100gあたりで比べると、鉄分77mg(あおのり)はひじきの最新値6.2mgの実に12倍以上。カルシウムも750mgとヒジキの1,000mgに次ぐ高水準で、牛乳(100mlあたり約110mg)と比べても約6.8倍です。ビタミンCも62mgと豊富で、この鉄分+ビタミンCの組み合わせは鉄吸収率を高めるうえで理想的です。結論は「貧血対策ならあおのり」です。
ただし、アオノリは使用量が数g単位と少量であることが多いため、100g換算の数値がそのまま日常摂取量に直結するわけではありません。毎日の料理にパラっとふりかけることで少量ずつ継続的に摂ることが現実的なアプローチです。卵焼き・冷やっこ・みそ汁・焼きそばなど、加える場所はいくらでもあります。
ウミブドウ(海ぶどう)は、緑藻類の中では異色のプチプチ食感が特徴で、沖縄の定番食材です。100gあたりのカロリーはわずか6kcalと非常に低く、ミネラルや食物繊維も含んでいます。ダイエット中のおかずの量増しにも使えます。アオサは乾燥品100gあたり食物繊維29.1g・カルシウム490mgと、こちらも栄養バランスに優れた食材です。
鉄分補給を意識するとき、以前なら「ひじきを食べなきゃ」と考えていた方も多いと思います。しかし今の知識では「あおのりをかけるほうが手軽で効果的」という選択肢が浮かびます。いいことですね。調味料感覚でふりかけるだけなので、続けやすさも抜群です。
海藻類の栄養素を品目別に比較した詳細データ(BEYOND FREE)
3種類の海藻がそれぞれ異なる栄養を持っていることが分かっても、「じゃあ毎日どうすれば?」と悩む方もいます。ここでは、毎日の食事に3種類の海藻をバランスよく取り入れる具体的な方法を整理します。
まず大前提として、海藻は食物繊維・ミネラル・ビタミン類が豊富な反面、ヨウ素の過剰摂取には注意が必要です。厚生労働省「日本人の食事摂取基準」では、成人のヨウ素摂取上限量は1日2.2mgとされています。昆布ダシを濃くとりすぎたり、複数の昆布製品を同時に大量摂取すると上限を超えやすくなります。昆布の食べすぎには注意が必要です。一方でわかめ・もずく・海苔・アオノリ程度の量であれば、通常の食事量で過剰になることはほとんどありません。
次に「栄養の吸収率を上げる」コツです。海藻に含まれるβ-カロテンやビタミンK・Aは脂溶性ビタミンのため、油と一緒に食べることで吸収率が大幅にアップします。海藻サラダにオリーブオイルのドレッシングをかける、アオサをごま油で炒めるなどが効果的な組み合わせです。また、海藻に含まれる植物性の鉄分は、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が高まります。アオノリ×ビタミンCたっぷりの野菜は相性が良い組み合わせです。
料理の順番も重要です。食事の最初に海藻サラダやわかめのみそ汁を食べると、食物繊維が腸内でのクッション役となり、その後に食べるご飯やパンの糖質の吸収を緩やかにします。血糖値の急上昇が気になる方は、「ベジファースト」ならぬ「海藻ファースト」を意識するだけで違いを感じられます。
加熱に関しても一点覚えておくと役立ちます。海藻のフコイダンやアルギン酸などの水溶性食物繊維は熱に弱い性質があります。みそ汁にわかめを入れるときは、沸騰したお湯で長く煮るのではなく、火を止める直前に加えてさっと温める程度にするのがベストです。栄養を逃がさない調理法が基本です。
食材を使い分ける意識がある方は、3種類の海藻をローテーションすることで特定の栄養に偏ることなく、幅広いミネラルとビタミンをバランスよく補給できます。わかめ・海苔・アオノリの3つだけを意識するところから始めるだけで十分です。
日本人の食事摂取基準(厚生労働省):ヨウ素の推奨量・上限量の根拠