

包丁を持つ前に皮を剥くと、アオリイカの刺身はゴムのように硬くなります。
アオリイカを上手に捌くには、道具選びと事前の準備が思いのほか大切です。包丁は出刃包丁が理想ですが、家庭にある三徳包丁(万能包丁)でも問題なく代用できます。ただし、切れ味が落ちた状態の包丁では身がつぶれて食感が悪くなるため、砥石やシャープナーで刃を整えてから作業に入ることをおすすめします。
準備するものをまとめると以下のとおりです。
まな板は、魚介類の臭いが移りにくい抗菌加工のものを1枚用意しておくと後片付けがぐっと楽になります。これは覚えておくと得します。
アオリイカは捌く直前まで冷蔵庫(3℃前後)で保管してください。温度が上がると墨袋が破れやすくなり、あっという間に全体が黒く染まります。墨が飛び散ると服やまな板が真っ黒になるため、エプロンの着用も忘れずに。
購入後すぐに使わない場合は、内臓(ワタ)だけを先に抜いて冷蔵保存すると、翌日まで鮮度が保てます。これが基本です。
アオリイカの捌き方で最初に行うのは、胴体・エンペラ(ひれ)・ゲソ(足)の3パーツへの分離です。手順を間違えると墨袋を傷つける原因になります。
まず胴体(外套膜)を左手で持ち、ゲソの付け根部分を親指と人差し指でつまみ、ゆっくりと引き抜きます。このとき勢いよく引くと内臓ごと破れて墨が飛び散るため、必ずゆっくり・まっすぐ引き出すことを意識してください。引き抜いたゲソ側には、透明な軟骨(うちわ状の甲)と内臓がついてきます。
内臓は根元をキッチンペーパーで包みながら外し、墨袋(青みがかった小さな袋)を傷つけないよう指先でそっと切り離します。墨袋は調理に使わない場合はそのまま捨てますが、イカ墨パスタなどに活用したい方はポリ袋に入れて冷凍保存が可能です。
| パーツ | 用途 | 注意点 |
|---|---|---|
| 胴体(外套膜) | 刺身・天ぷら・炒め物 | 薄皮を3層すべて除去する |
| エンペラ | 刺身・バター炒め | 胴体から丁寧に剥がす |
| ゲソ | 唐揚げ・塩焼き・酢味噌 | 吸盤の固い輪を取り除く |
| 内臓(ワタ) | 塩辛・イカ墨料理 | 墨袋を傷つけないよう扱う |
胴体からエンペラを外す際は、指先でエンペラの縁を胴体側から少しずつめくりながら引き剥がします。ここで無理に引っ張ると身が破れるため、丁寧に進めることがコツです。
分離が終わったらすぐに氷水に当て、温度上昇による鮮度低下を防ぎましょう。これが条件です。
アオリイカの皮は3層構造になっています。外側から「外皮(茶色いうろこ状)」「中皮(白く薄い層)」「薄皮(内側の透明な薄膜)」の順です。刺身にする場合は、この3枚すべてを丁寧に取り除くことが「柔らかくて甘い」食感を出す絶対条件になります。
外皮と中皮は、胴体の端をキッチンペーパーでつまんでそのまま引っ張ると、比較的きれいに一緒に剥けます。キッチンペーパーを使うことで滑らず力が均一に伝わるため、素手よりも格段に作業がしやすくなります。これは使えそうです。
問題は最も内側の薄皮です。この層は透明で非常に薄く、見落としがちですが、残っていると加熱・生食どちらの場合も食感がパリッと硬くなったり、噛み切りにくくなったりする原因になります。薄皮の除去方法は次の2通りです。
鮮度が高いほど薄皮は剥きやすく、購入後時間が経つほど身に密着して取りにくくなります。魚屋やスーパーで購入した当日に捌くのがベストです。
エンペラも同様に皮を剥きますが、エンペラの場合は身が薄くて破れやすいため、指で少しずつ端から慎重に剥がすのが基本です。エンペラの甘みはゲソよりも強く、刺身の盛り合わせに加えると見た目も華やかになります。
皮を剥いた胴体を開いたら、いよいよ刺身への切り付けです。アオリイカには縦方向に走る繊維があります。この繊維に対してどの向きで包丁を入れるかによって、食感が大きく変わります。
繊維に対して「垂直に切る」と、繊維が短く断ち切られるため柔らかくて噛みやすい刺身になります。一般的な薄造りや細造りはこの方向で切ります。一方「平行に切る」と繊維が長く残り、コリコリとした弾力のある食感になります。どちらが正しいというわけではなく、好みや料理に合わせて使い分けるものです。
切り方のバリエーションをまとめると以下のとおりです。
切るときは包丁を前後に引くように動かし、押しつぶさないことが重要です。これだけ覚えておけばOKです。
一般的なスーパーで購入できるアオリイカは胴体の長さが15〜20cm程度(A4用紙の短辺より少し長いくらい)あるため、刺身4人分程度は十分に取れます。切り付けた刺身はラップをかけて冷蔵庫で保存し、当日中に食べきるのが鮮度面でも食中毒予防の面でも重要です。
切った後に刺身が白く濁ってきたり、アンモニア臭が出てきた場合は傷み始めているサインです。絶対に食べないでください。
アオリイカを刺身で食べる場合に、見落とされがちなのが寄生虫対策です。意外ですね。アオリイカには「アニサキス」が寄生している可能性があります。アニサキスは体長2〜3cm(爪楊枝2本分程度)の寄生虫で、生食した場合に胃壁や腸壁に刺さり、激しい腹痛を引き起こします。
厚生労働省の統計では、食中毒の原因生物のうちアニサキスによるものは年間300件以上に達しており、実態はさらに多いとされています。特に内臓周辺の身に潜んでいることが多いため、内臓を取り除いた後に胴体の内側を流水でよく洗い流すことが第一の対策です。
冷凍による対策も有効です。-20℃で24時間以上冷凍するとアニサキスは死滅します。家庭用冷蔵庫の冷凍室は通常-18℃前後のため、24時間以上冷凍すれば概ね安全とされています。一度冷凍したアオリイカを解凍して刺身にする場合は、完全に芯まで解凍してから切り付けてください。
アニサキス対策として厚生労働省が推奨しているのは「加熱(70℃以上)または冷凍(-20℃で24時間以上)」です。刺身で食べる場合は冷凍処理が現実的な選択肢になります。
アニサキスは目視でも確認できることがあります。胴体の内側を強い光(スマートフォンのライトなど)で照らしながら確認する「光透過法」が家庭でも実践しやすい方法です。白くて細長いものが動いていたり丸まっていたりした場合は、その部分を大きめに取り除いてください。これに注意すれば大丈夫です。
参考として、アニサキス症の症状や対処法については以下のページも確認しておくと安心です。
東京都福祉保健局|アニサキス症について(症状・予防・対処法)
せっかく丁寧に捌いたアオリイカの刺身は、盛り付けと薬味の工夫で食卓の印象が大きく変わります。いいことですね。アオリイカは白く透明感のある見た目を持つため、薬味の色をうまく使うことで彩りが一気に豊かになります。
盛り付けの基本は、刺身を少しずつずらして並べる「波盛り」または扇形に広げる「扇盛り」です。どちらも15枚程度(4人分)あれば綺麗に仕上がります。白い器よりも黒や紺色の器を使うと、アオリイカの白さが引き立ってよりおいしそうに見えます。
薬味の組み合わせとしては次のものが定番かつ家庭でもすぐ使えます。
調味料のバリエーションとして「塩+オリーブオイル+粗挽き黒胡椒」の組み合わせも、アオリイカの刺身との相性が非常に良く、イタリア風のカルパッチョ仕立てにするとワインにも合うおつまみになります。普通の刺身に飽きてきたときの変化球として覚えておいて損はありません。
盛り付けた後は乾燥を防ぐため、出す直前までラップをかけて冷蔵庫で冷やしておくのが鉄則です。刺身が乾燥すると表面が白く固くなり、食感も見た目も損なわれます。ラップをする際は身に直接触れないよう、少し浮かせてかけるのがコツです。これがポイントです。
最後に、アオリイカは1杯(1尾)あたりの可食部が全体の約70%とされており、300gのアオリイカであれば約210g分の刺身が取れる計算になります。スーパーで購入する際の目安として覚えておくと、必要な量を無駄なく用意できます。