

環境ホルモンとは、正式には「内分泌かく乱化学物質」と呼ばれ、体内のホルモンの働きを妨げたり、模倣したりする化学物質のことです。環境省の研究班によると、現在疑われている物質は約70種類から150種類にのぼり、その種類は多岐にわたります。
参考)https://www.yuiclinic.com/information/10818/
これらの化学物質は用途別に大きく3つに分類されます。最も多いのが殺虫剤・農薬で全体の約60%を占め、DDTやアトラジン、シマジンなどが該当します。次に多いのがプラスチックの原材料・添加剤で約20%を占め、ビスフェノールAやフタル酸エステル類がこれに含まれます。残りの約20%は重金属、PCB、ダイオキシン、合成女性ホルモンなどその他の物質です。
参考)https://www.maolan.co.jp/information/environmental-hormone/
環境省が定める65項目のリストには、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール類(PCB)、ヘキサクロロベンゼン、ビスフェノールA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、DDT、ノニルフェノール、4-オクチルフェノールなど、私たちの生活に関わりの深い化学物質が含まれています。
参考)https://www.gls.co.jp/product/reagents/standard_reagent/00850.html
米国イリノイ州環境庁の分類では、これらの物質は影響の確実性から3段階に分けられています。「影響有り」とされるのはDDT、ダイオキシン類、PCB、ノニルフェノール、トリブチルスズなど20種類、「可能性大」とされるのはビスフェノールA、カドミウム、鉛、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、スチレンなど29種類、「疑わしき」とされるのはアジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチルなど25種類です。
ビスフェノールA(BPA)は、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の原料として広く使用されている化学物質です。この物質は、プラスチック製の食器やコップ、哺乳瓶、水筒などの容器に使用されるポリカーボネート、そして缶詰の内面塗装に使用されるエポキシ樹脂の主要原料となっています。
参考)https://www.sanko-shoji.jp/lecture/cn6/pg128362.html
缶詰容器には金属の腐食を防止するため、内面にビスフェノールAを原料とするエポキシ樹脂による塗装がされているものが多くあります。特にトマト缶や缶コーヒー、その他の缶詰類では、内側のコーティングからビスフェノールAが溶出する可能性があります。また、ペットボトルやサランラップ、プラスチック容器などにも含まれており、特に油や熱いもの(お茶など)を入れた場合に問題が大きくなります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kigu/topics/080707-1.html
国内で製造される缶詰容器については、ビスフェノールAの溶出濃度が飲料缶で0.005ppm以下、食品缶で0.01ppm以下となるよう、関係事業者による自主的な取り組みがなされています。食品衛生法の規格基準では、ポリカーボネート製器具及び容器・包装からのビスフェノールAの溶出試験規格を「2.5ppm」以下と制限しています。
参考)https://support.pal-system.co.jp/faqs/3014/
意外なところでは、歯の詰め物にもビスフェノールAが使用されているケースがあります。さらに、子どものカップやボトル、おもちゃにも含まれている場合があるため、特に小さなお子さんがいる家庭では注意が必要です。
厚生労働省のビスフェノールAに関する情報では、食品からの摂取に関する詳細なQ&Aが掲載されています。
フタル酸エステル類は、塩化ビニルを中心にプラスチックを柔軟にする可塑剤として広く使用されています。この化学物質は、プラスチック製品だけでなく、ひげそりローション、ネイルケア製品、化粧品、接着剤、香水、フローリングなどの建材、殺虫剤にまで使用されており、驚くほど身近な存在です。
化粧品業界では、フタル酸エステル類は香料の溶媒やネイル製品の可塑剤として利用されています。具体的には、ジエチルフタレート(DEP)は香料の持続性を高め、ジブチルフタレート(DBP)はネイルポリッシュの柔軟性や耐久性を向上させる目的で添加されています。シャンプー、化粧水、乳液、美容液、クリーム、マニキュア、香水など、数えきれないほどの製品で配合されています。
参考)https://note.com/concio_academy/n/nb4e44b9cdcea
食品関連では、プラスチック製の保存袋や食品トレイ、発泡スチロール容器にも含まれています。特に脂分が多い食べ物が入ったプラスチック容器を電子レンジで温める際や、脂分が多かったり熱い食べ物をサランラップで包む際に、フタル酸エステルが溶け出してくる可能性が高くなります。
さらに意外な使用例として、衣類、壁紙、バック、クッション材、断熱材、防音材、保護材、縄跳び用ロープ、電線の被覆、網戸、包装材料、水道パイプ、建築材料、農業用資材、消しゴムなど、生活のあらゆる場面でPVC(ポリ塩化ビニル)製品に可塑剤として使用されています。
欧州連合(EU)では、REACH規則に基づき、DEHP、DBP、BBP、DIBPの4種類のフタル酸エステルについて、0.1重量%以上含有する成形品の上市が2020年7月7日以降禁止されています。日本においても、食品衛生法に基づきおもちゃに対する含有量が規制されていますが、化粧品に関する具体的な規制は現時点で明確ではありません。
参考)https://lounge.dmm.com/detail/3590/content/41286/
農薬系の環境ホルモンとして最も知られているのがDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)です。DDTは1940年代から1960年代にかけて殺虫剤として世界中で使用されましたが、環境への影響が問題視され、1970年代以降、多くの先進国で使用が禁止または厳しく制限されるようになりました。
参考)https://pcb-perfect-guide.com/feature/ddt/
DDTは分解されにくい性質を持ち、環境中に長期間残留します。食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積される「残留性有機汚染物質(POPs)」として、特に鳥類では卵殻が薄くなり繁殖率が低下するなどの深刻な生態系への影響が確認されています。レイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」では、DDTが生態系や人体に与えうる悪影響が詳細に指摘されました。
現在でも、東南アジア、アフリカ、南米の国々では、マラリアを媒介する蚊を駆除するために使用を続けています。世界保健機関(WHO)は、感染症流行地域における室内残留噴霧(IRS)という限定的な用途に限りDDTの使用を認めています。
参考)https://www.gpc-gifu.or.jp/chousa/infomag/gifu/100/4-iguchi.html
PCB(ポリ塩化ビフェニル)も重要な環境ホルモンの一つです。かつては絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤として使用されていました。PCBは発がん物質であり内分泌攪乱物質でもあり、高脂肪乳製品や肉が汚染されている可能性があります。1970年代の中頃にPCBやDDT汚染の極大が見られ、その後濃度は低減しましたが、1980年代のPCB汚染は定常状態を示していました。
参考)http://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/mc/healthy/jsce/jjce9_1_1.pdf
その他の農薬系環境ホルモンとしては、アトラジン、アラクロール、シマジンなどの除草剤、カルバリル、クロルデン、エンドリンなどの殺虫剤があります。これらの化学物質のうち、40種類以上は農薬の有効成分であり、既に生産・使用が中止されたり、わが国では使用実績のないものも多くなっています。
ダイオキシン類は、塩素の数や付く位置によって形が変わるため、PCDD(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン)は75種類、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)は135種類、コプラナーPCBは十数種類の仲間があります。これらを総称してダイオキシン類と呼び、微量でも強力な内分泌かく乱作用を持つことで知られています。
参考)https://www.pref.kanagawa.jp/documents/1059/hormone_dioxins_motto.pdf
ダイオキシン類は、ゴミ焼却、金属精錬、紙の漂白などの過程で発生します。特にゴミ焼却はダイオキシンの主要発生源となっており、PVC(ポリ塩化ビニル)を含むプラスチック製品の焼却時に多く発生します。PVCに含まれる可塑剤(フタル酸)は内分泌攪乱物質であるだけでなく、焼却時にはダイオキシンの主要発生源となる二重のリスクを持っています。
参考)https://www.jalos.jp/jalos/qa/articles/010-354.htm
ダイオキシン類は環境中で長い間分解されずに残留し続け、食物連鎖を通じて生態系ピラミッド上位の生物に高濃度に濃縮されます。生態系の頂点に位置する人間に最も大きな影響を及ぼす可能性があり、WHO(世界保健機関)/IPCS(国際化学物質安全プログラム)が環境ホルモン問題に関する総合的評価報告書を出しています。
参考)https://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2022/06/%E8%B5%A4%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%8C%E5%8D%B1%E3%81%AA%E3%81%84_%E4%BF%AE%E6%AD%A30519-1.pdf
野生生物に起きた生殖異変とダイオキシンを含む環境ホルモンとの関連は、科学的に因果関係を完全に証明することは難しいものの、もはや疑いようがないレベルまで証拠が蓄積されています。
環境省の内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質リストでは、具体的な物質名と用途が詳しく掲載されています。
家庭内での環境ホルモン暴露経路は、想像以上に多様で身近なものです。最も一般的な暴露経路は、プラスチック製品からの溶出です。プラスチック弁当箱に脂分が多い食べ物を入れて電子レンジで温めると、ビスフェノールAなどの添加剤が溶け出してきます。
食品保存の際にも注意が必要です。サランラップや食品保存袋で脂分が多かったり熱い食べ物を包むと、フタル酸エステルなどの可塑剤が食品に移行する可能性があります。缶詰の内側はプラスティックでコーティングされているため、長期保存された食品から内面塗装のビスフェノールAが溶出することがあります。
意外な暴露源として、アイスクリームの容器も挙げられます。脂肪分が袋に触れることで、プラスチックに含まれる化学物質が溶け出す可能性があるのです。また、調理用使い捨て手袋(衛生用手袋)で脂分が多い物に触れる際にも、手袋からフタル酸エステルが食品に移行するリスクがあります。
飲料からの暴露も無視できません。ペットボトルは、特に油や熱い物(お茶など)を入れた場合に問題が大きくなります。暑くなる車内にペットボトルを置いたり、ホットで飲んだりすると、ビスフェノールAの溶出量が増加します。
参考)https://www.rindo-i.jp/1731/
化粧品や日用品も重要な暴露経路です。パラベンとフタル酸エステルは防腐剤や質感向上のために化粧品に配合されており、シャンプー、化粧水、乳液、美容液、クリーム、マニキュア、香水など、数えきれないほどの製品で使用されています。これらは皮膚から吸収され、体内に蓄積される可能性があります。
住環境からの暴露も見逃せません。家具や床材などには化学物質が含まれていることが多く、特にフローリング材にはフタル酸エステルが使用されていることがあります。壁紙、クッション材、断熱材、防音材などのPVC製品からも、可塑剤として使用されているフタル酸エステルが揮発する可能性があります。
参考)https://chibanian.info/20240429-38/
環境ホルモンは体内のホルモンの働きを妨げたり模倣したりすることで、様々な健康被害を引き起こす可能性があります。内分泌系は人の生体機能を複雑に制御しており、この系がかく乱された場合、種々の健康影響が生じる可能性が指摘されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/shingi/s9811/s1119-2_13.html
女性生殖器系への影響としては、子宮がん、子宮内膜症、乳がんなどが懸念されています。若い女性の子宮内膜症患者の著増が報告されており、環境ホルモンとの関連が疑われています。パラベンとフタル酸エステルが配合された化粧品を使用しないことで、乳がん発症のリスクが低下する可能性が最新の研究で示されています。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/end/endocrine/5column/c-8.html
男性生殖器系への影響も深刻です。若い男性の精子数の減少、前立腺がん、精巣がん、尿道下裂などが指摘されています。これらの影響は、直接暴露される親の世代だけでなく、次の世代にも及ぶことが危惧されています。
子どもへの影響は特に懸念されています。熊本大学が実施した「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」では、妊娠中のブチルパラベンの高度ばく露が子どもの喘息発症と関連することが明らかになりました。また、妊娠中の4-ノニルフェノールばく露は男児の喘息発症と関連することが示唆され、その影響には男女差があることも判明しています。
参考)https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2024-file-1/release240913.pdf
フタル酸エステル類は、内分泌かく乱作用を持つ可能性が指摘されており、生殖機能への悪影響や胎児の発育異常との関連が報告されています。動物実験では、妊娠ラットへの曝露により胎児の体重減少や奇形、雄ラットでの精子濃度減少、精細管萎縮、前立腺重量減少などが観察されています。
子供の喘息とアトピーの増加、注意散漫多動症なども環境ホルモンとの関連が疑われています。幼児期の神経発達の遅れは、学童期以降に神経発達の疾患になりやすくなる可能性があることも指摘されています。
参考)https://www.nies.go.jp/whatsnew/20220830/20220830.html
妊娠中の環境ホルモン暴露は、母体だけでなく胎児にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。内分泌かく乱作用が疑われているビスフェノールA、ノニフェノール、ゲニスタインなどの化学物質は、胎児期や乳児期の曝露により、出生児が成長した後に学習・精神障害、発がん、生殖機能の異常などが発現する可能性があります。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/5978
熊本大学のエコチル調査では、母親の尿中フェノール類測定結果と出生した子どもの喘息発症の関連が解析されました。その結果、妊娠中のブチルパラベン高度ばく露群では、低度ばく露群と比較して子どもの喘息発症オッズ比が1.62(95%信頼区間1.07-2.44)と高いことが分かりました。これは妊娠中のブチルパラベンの高度ばく露が子どもの喘息発症と関連することを示しています。
さらに注目すべきは、環境ホルモンの影響に性差があることです。妊娠中の4-ノニルフェノールばく露について、女児の喘息発症オッズ比が0.65(95%信頼区間0.25-1.70)であったのに対し、男児のオッズ比は2.09(95%信頼区間1.20-3.65)と高いことが判明しました。
妊娠中のメチル水銀やセレンばく露も子どもの神経発達の遅れに影響する可能性が海外の研究で指摘されています。日本では、メチル水銀の主要ばく露源は魚介類であり、多く蓄積している魚種と少ない魚種があるため、妊婦は魚の種類を選んで摂取する必要があります。
子どもは成人と比較して体重あたりの食事摂取量が多く、代謝機能も未発達なため、環境ホルモンの影響を受けやすいとされています。特に、子ども向けのプラスティック製品(食器、お弁当箱、水筒、おもちゃ、哺乳瓶など)が多く使用されているため、利便性を重視するあまり安全性が疎かになっているのが現状です。
参考)https://macrobiotic-daisuki.jp/bpa-kankyohorumon-90283.html
国立環境研究所の妊婦の血中水銀及びセレンと子どもの神経発達に関する研究では、詳細な調査結果が公開されています。
環境ホルモンの生殖機能への影響は、男女ともに深刻な問題として認識されています。これらの化学物質は、生体が本来持っているホルモンと同じような働きをして生体を撹乱したり、生体のホルモン量を変化させたり、生体のホルモンとレセプター(受容体)の結合を阻害したりします。
参考)https://www.ffcr.or.jp/kokkai/1998/04/41F483CF2112936F4925660F00225B28.html
女性では、環境ホルモンがエストロゲン(女性ホルモン)様作用を示すことが大きな問題です。女性のカラダでは、エストロゲンとプロゲステロンの2つのホルモンがバランスを取りながら、毎月の生理、妊娠準備、着床後の妊娠継続など、大きな変化に対応できるよう体調を整えています。しかし、疑似エストロゲンがあるとこのバランスが崩れてしまい、エストロゲンの刺激によって増殖するタイプのがんや、不妊症、生殖異常などに影響があるのではないかと言われています。
DDTは女性生殖器系への影響が特に懸念されている物質です。DDTは環境中で広く検出される残留性有機汚染物質(POPs)であり、内分泌かく乱物質として女性不妊や生殖器がんとの関連が指摘されています。動物実験では、DDTへの早期暴露が生殖器官の発達異常や繁殖率の低下を引き起こすことが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10536953/
男性では、精子数の減少が世界的な傾向として報告されています。動物実験では、フタル酸エステル類への曝露により、雄ラットでの精子濃度減少、精細管萎縮、前立腺重量減少などが観察されています。前立腺がん、精巣がん、尿道下裂なども環境ホルモンとの関連が疑われています。
ビスフェノールAの内分泌攪乱作用については、現在までのデータや報告から推測すると影響が懸念されています。その作用は非常に弱いものの、樹脂からの溶出量が微量であっても、長期的な暴露により生殖機能や学習・精神障害、発がん性などに影響を及ぼす可能性があります。
厚生労働省では、ビスフェノールAとフタル酸エステル類について、生体暴露量を検討する過程で、ビスフェノールAは代謝されて血中から速やかに消失すること、また、フタル酸エステル類は体内でモノエステル又はジエステル型に代謝されることが明確になりました。しかし、生体試料中の分析を進めると同時に環境中の値(バックグラウンド値)を経時的に観測することによって、生体暴露の影響を評価する必要があるとしています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/edc.html
環境ホルモンの野生生物に対する影響は、人間への影響を予測する上で重要な警告となっています。魚類、は虫類、鳥類といった動物で、生殖機能異常、生殖行動異常、雄の雌性化、ふ化能力の低下などが世界中で報告されています。
参考)https://www.id.yamagata-u.ac.jp/EPC/13monndai/18hormon/hormon/2007.html
最も有名な事例の一つが、DDTによる鳥類への影響です。DDTは油に溶けやすく分解されにくいため、食物連鎖の過程で濃縮されていきます。実際に、害虫駆除のためDDTに似た物質が散布されたアメリカの湖において、カイツブリという鳥が大量死したことが知られています。特に猛禽類では、卵殻が薄くなり繁殖率が低下するなどの深刻な生態系への影響が確認されました。
DDTの影響は、神経系や肝臓、ホルモン分泌組織、生殖、胎児の発育、免疫系など広範囲に及び、動物実験では肝臓での腫瘍形成も確認されました。これらの知見は、レイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」で詳細に報告され、世界中に環境ホルモン問題の深刻さを知らしめるきっかけとなりました。
PCBも野生生物に深刻な影響を与えてきました。PCBは環境中で長い間分解されずに残留し続け、食物連鎖を通じて生態系ピラミッド上位の生物に高濃度に濃縮されます。高脂肪の魚類や海棲哺乳類の組織からは、高濃度のPCBが検出されることがあります。
WHO(世界保健機関)/IPCS(国際化学物質安全プログラム)が2002年に出した環境ホルモン問題に関する総合的評価報告書、そして2012年にWHO/UNEP(国連環境計画)がまとめたその後の科学的進展を精査した報告書では、野生生物に起きた生殖異変と環境ホルモンとの関連はもはや疑いようがないと結論づけています。
これらの野生生物への影響事例は、生態系の頂点に位置する人間に最も大きな影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。科学的に因果関係を完全に証明することは難しいものの、予防原則に基づいて対策を講じることの重要性が認識されています。
環境ホルモンから身を守るためには、日常生活での具体的な対策が不可欠です。最も効果的な方法は、プラスチック製品の使用を減らすことですが、現代生活では完全に避けることは難しいため、リスクを最小限に抑える工夫が必要です。
参考)https://shineikasei.co.jp/2025/03/17/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%81%A8%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%EF%BC%9A%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E5%AE%9F%E8%B7%B5/
食品包装からBPAを除去すれば、成人も子供も影響が大幅に減少したという実験結果が出ています。実際に、パラベンとフタル酸エステルが入っていない化粧品に切り替えたグループでは、わずか28日後に発がんに関わる細胞のシグナル経路が真逆になり、発がんに関わる遺伝子が「普通の」遺伝子に変わったという驚くべき結果が報告されています。
参考)https://spaceshipearth.jp/bpafree/
プラスチック容器の使用を避けることが基本です。保存容器は、ガラス製やホーロー製、ステンレス製にすることで、ビスフェノールAやフタル酸エステルの溶出リスクを大幅に減らせます。特に、冷蔵庫に入れたプラスチックの保存容器をそのままレンジで温めることは避けるべきです。
参考)https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/g44260370/top-12-endocrine-disrupting-chemicals-in-your-home-20230719/
ラップの選び方も重要です。ラップは影響の少ないポリエチレン製を選び、直接食品に触れないようにすることが推奨されています。食品に直接ラップをくっつけると、特に脂分が多い食品の場合、可塑剤が溶出しやすくなります。
飲料容器にも注意が必要です。ペットボトルを暑くなる車内に置かない、ホットで飲まないことが重要です。買い物に行く時はエコバッグを持っていき、ペットボトルの飲み物の代わりに水筒を使うなど、小さな工夫から始められます。
調味料の選び方も工夫できます。ソースやケチャップ、ドレッシングなどは、プラスチック容器ではなく瓶詰めされた調味料を選ぶことで、ビスフェノールAの暴露を減らせます。
台所からプラスチックをなくすことは、環境ホルモン対策の最も効果的な方法の一つです。あらためて台所を見渡してみると、プラスチック製品の多さに驚くと思いますが、これらを段階的に安全な素材に置き換えていくことが重要です。
食器の選び方としては、以下のような優先順位で考えると良いでしょう。
| 素材 | 安全性 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ガラス製 | 最も安全 | 化学物質の溶出なし、耐熱性あり、電子レンジ可 | 重い、割れやすい |
| 陶器・セラミック製 | 非常に安全 | 化学物質の溶出なし、デザイン豊富 | 重い、割れやすい |
| ステンレス製 | 非常に安全 | 丈夫、軽量、割れない | 電子レンジ不可 |
| ホーロー製 | 非常に安全 | 化学物質の溶出なし、直火可 | 重い、衝撃に弱い |
| 木製 | 安全 | 自然素材、軽量 | カビに注意、耐久性やや低い |
| プラスチック製 | 要注意 | 軽量、割れにくい、安価 | 環境ホルモン溶出のリスク |
特にお弁当箱やカップ麺の容器、子ども用の食器やおもちゃには注意が必要です。プラスチック製品は軽くて壊れにくく、耐久性もあり、コストもかからないので非常に重宝しますが、利便性を重視するあまり、安全性が疎かになっているのが現状です。
調理器具も同様に見直すべきです。調理用使い捨て手袋(衛生用手袋)で脂分が多い物に触れると、手袋からフタル酸エステルが食品に移行するリスクがあります。できるだけ使い捨て手袋の使用を控え、調理後は手を洗うなどの対策が有効です。
缶詰の選び方も工夫できます。パルシステムでは「容器包装の取り扱い規定 材質別基準」を制定しており、缶において「内面塗装については環境ホルモン物質の削減タイプを採用します。内容物(フルーツ缶等)によっては無塗装缶を採用します」としています。このような基準を持つ事業者の製品を選ぶことも一つの方法です。
台所からプラスチックをなくす具体的な方法では、実践的なアドバイスが紹介されています。
化粧品や日用品の選び方を見直すことは、環境ホルモン対策として極めて重要です。パラベンとフタル酸エステルが配合された化粧品を使用しないことで、乳がん発症のリスクが低下する可能性が最新の研究で示されています。
化粧品選びのポイントは、成分表示を必ず確認することです。避けるべき成分は以下の通りです。
パラベン類。
フタル酸エステル類。
シャンプー、化粧水、乳液、美容液、クリーム、マニキュア、香水など、数えきれないほどの製品にこれらの成分が配合されています。特にネイルポリッシュや香水には高濃度で含まれていることが多いため、注意が必要です。
実際に、パラベンとフタル酸エステルが入っていない化粧品に切り替えた女性のグループでは、28日後に尿に含まれるフタル酸エステルとパラベンの濃度が大幅に低下し、発がんに関わる細胞のシグナル経路が真逆になり、発がんに関わる遺伝子が「普通の」遺伝子に変わったという驚くべき結果が報告されています。
合成香料入りの商品を避けることも重要です。香料には多くの場合フタル酸エステルが溶媒として使用されており、「香料」とだけ表示されている場合、具体的な成分が分からないため、できるだけ避けるのが賢明です。
制汗剤などに含まれるパラベンが乳がんに関与している可能性も疑われており、欧米では乳がん腫瘍組織からメチルパラベンが検出されています。脇の下など皮膚の薄い部分に使用する製品は、特に慎重に選ぶべきです。
日用品では、ビニール製品には断固「NO!」を。PVC(ポリ塩化ビニル)製品には可塑剤としてフタル酸エステルが使用されており、衣類、壁紙、バック、クッション材、断熱材、防音材などから揮発する可能性があります。
買い物の際の選択が、環境ホルモンの暴露量を大きく左右します。スーパーマーケットでの買い物から見直すことで、日常的な暴露を効果的に減らすことができます。
まず、エコバッグを必ず持参することです。レジ袋は薄いプラスチック製で、触れた食品にフタル酸エステルが移行する可能性があります。布製やしっかりした素材のエコバッグを使うことで、この リスクを避けられます。
食品選びでは、包装材料に注目することが重要です。可能であれば有機野菜や無農薬の食品を選び、加工食品はなるべく避けて、新鮮な食材を使った自炊を心がけましょう。魚介類や肉類を摂取する際には、環境汚染が少ないとされる地域のものを選ぶのが良いです。
調味料の選び方も工夫できます。ソースやケチャップ、ドレッシングなどは、プラスチックボトルではなく瓶詰めされた製品を選ぶことで、ビスフェノールAの暴露を減らせます。油もペットボトルではなくガラス瓶入りのものを選ぶべきです。
食品保存の工夫も大切です。以下のような方法が推奨されています。
📦 保存容器の選び方。
🌡️ 温度管理の注意点。
ラップの使い方も見直しが必要です。ラップは影響の少ないポリエチレン製を選び、直接食品に触れないようにすることが推奨されています。特に脂分が多い食品や熱い食品には、ラップではなく蓋付きの容器を使う方が安全です。
缶詰やレトルト食品の選び方にも注意が必要です。内面塗装に環境ホルモン物質の削減タイプを採用している製品や、無塗装缶を使用している製品を選ぶことが理想的です。購入時にメーカーに問い合わせるのも一つの方法です。
保存料や合成添加物の多い食品は環境ホルモンの排出を妨げるため、これを避けることも大切です。できるだけシンプルな原材料の食品を選び、加工度の低いものを優先的に購入しましょう。
家の中の環境整備は、環境ホルモンからの長期的な防御に不可欠です。住環境を整えることで、24時間体内に蓄積される化学物質の量を大幅に減らすことができます。
換気は最も基本的で効果的な対策です。換気を頻繁に行い空気中の化学物質を減らすことが大前提となります。特に新築やリフォーム後は、建材から揮発する化学物質が多いため、1日に数回、10分以上の換気を行うことが推奨されます。
家具や床材の選択も重要です。家具や床材などには化学物質が含まれていることが多いため、環境に優しい素材を選ぶと良いです。具体的には以下のような選択肢があります。
🏠 建材・内装材の選び方。
掃除用具も見直すべきです。掃除用具も含め、できるだけ自然派のものを使い、空気清浄機を設置するのも一つの手段です。合成洗剤には環境ホルモンが含まれている可能性があるため、石けん系の洗剤や重曹、クエン酸などの自然素材を使った掃除方法に切り替えることが推奨されます。
子ども部屋の環境整備は特に重要です。子ども用のおもちゃ、お弁当箱、水筒などはプラスチック製品が多く使われていますが、これらを木製、ステンレス製、ガラス製などに置き換えることで、子どもの環境ホルモン暴露を大幅に減らせます。
ファブリック製品の選び方も注意が必要です。カーテン、カーペット、クッション、ソファなどには、難燃剤や防汚剤として環境ホルモンが使用されていることがあります。できるだけ天然繊維で、化学処理の少ない製品を選ぶことが望ましいです。
空気清浄機の設置も有効です。HEPA フィルター付きの空気清浄機を使用することで、空気中に浮遊する化学物質を減らすことができます。特に寝室に設置すると、睡眠中の暴露を減らすことができます。
このように毎日を意識していくことで、体内の環境ホルモンの蓄積を防ぎましょう。できるところから少しずつ、生活環境を整えていくことが、長期的な健康維持につながります。