

合成洗剤の主成分である界面活性剤は、使用後に排水として河川や海洋に流れ出ることで水質汚染の原因となります。現在の下水処理能力は向上しており、90%以上の有機物と界面活性剤を除去できるようになっています。しかし残りの10%近くは処理されずに環境中に排出され、水生生物への影響が懸念されているのです。
参考)https://ecotopia.earth/article-2433/
特に非イオン界面活性剤やアルキルフェノールエトキシレート(APEs)といった一部の合成界面活性剤は、環境中で分解されにくく、長期間残留する傾向があります。東京都環境科学研究所の調査では、代表的な陰イオン界面活性剤であるLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)が湖沼の底質深さ30cm前後まで検出された事例もあり、水中濃度の数倍から数十倍が底質に蓄積していることが判明しました。
参考)https://www.amubelle.jp/blog/850.html
界面活性剤は水に膜を張る性質があるため、水面に泡が発生しやすくなり、水中への酸素供給を妨げる現象も起こります。この泡が長時間残ることで、魚や微生物が呼吸しにくい環境を作り出してしまうのです。
参考)https://yasashiikurashi.jp/blogs/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/%E7%95%8C%E9%9D%A2%E6%B4%BB%E6%80%A7%E5%89%A4%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E7%94%9F%E3%81%8D%E7%89%A9
かつて日本では合成洗剤による「泡公害」が深刻な社会問題となりましたが、現在は生分解性の高い界面活性剤への改良が進んでいます。
合成洗剤に含まれる界面活性剤は、魚や水生生物に直接的な毒性を示すことが多くの研究で明らかになっています。魚が死亡する主な原因は、界面活性剤がエラに吸着して水中での酸素吸収を妨げるためです。特に魚はエラ呼吸をしているため、界面活性剤がエラに付着すると酸素をうまく取り込めなくなり、窒息や成長不良を起こします。
参考)https://jsda.org/w/03_shiki/sekken-qa_c-1.html
東京都公害研究所(現・東京都環境科学研究所)の実験では、死なない程度の薄い合成洗剤を加えた水中に一日魚を飼っておくと、合成洗剤が肝臓、すい臓、腎臓、胆のうなどの内臓に高濃度で蓄積することが確認されています。特に胆のうに溜まった洗剤成分は、清水中に戻して二日経過しても消えないという結果が出ており、生物濃縮の可能性が指摘されています。
参考)https://www.live-science.com/bekkan/toba/keimei/keimei13.html
メダカやウニの卵、ノリの芽など海や川の成育初期段階にある生物は、特に合成洗剤の影響を受けやすいとされています。界面活性剤の「油と水をなじませる作用」が、生き物の細胞膜や魚のエラを傷つけてしまうためです。
参考)https://miyaf.sakura.ne.jp/sextuken1.html
また、河川には水質を浄化するバクテリアやプランクトンが存在しますが、界面活性剤がこれらを死滅させると、微生物のバランスが崩れて水質が悪化し、富栄養化(アオコ発生など)が進む原因にもなります。
合成洗剤(界面活性剤)の水辺環境に及ぼす影響の詳細研究データはこちら(東京都環境科学研究所)
合成洗剤の環境への影響を考える上で、生分解性は極めて重要な要素となります。生分解性とは「微生物によって分解される性質」のことで、この性質が高いほど環境中で速やかに水と二酸化炭素に分解され、環境負荷が低くなります。
参考)https://biofuturejapan.com/wpbio/column/20220927-2626
日本では合成洗剤の界面活性剤について、JIS K 3363「合成洗剤の生分解度試験方法」により生分解度が測定されています。JIS K 3370「台所用合成洗剤」やJIS K 3371「洗濯用合成洗剤」では、この試験による生分解性の基準が設けられており、試験期間は最大6ヶ月間とされています。
参考)https://www.jfrl.or.jp/download/135
しかし、生分解性が高いとされる界面活性剤でも、完全に分解されるまでには一定の時間が必要です。その間、環境中に残留した界面活性剤は水生生物に影響を与え続ける可能性があります。特に微生物によって分解できない成分の場合、その物質が自然環境に長期間留まり、生物の体内に蓄積したり、毒性を示したりすることで環境汚染を引き起こします。
参考)https://www.kimurasoap.co.jp/a/c/journal/l/tips/think-about-biodegradability
現在の合成洗剤は、過去の製品と比較して生分解性が大幅に改善されています。かつて問題となった泡公害の原因物質は、現在では分解しやすい界面活性剤に改良されました。それでも、下水処理で完全に除去できない残留成分が水環境に与える影響はゼロではないのです。
富栄養化とは、水中に窒素やリンなどの栄養塩類が過剰に流入することで、プランクトンが異常増殖し、水質が悪化する現象です。かつて合成洗剤には助剤としてリン酸塩が多く配合されており、1977年以降に琵琶湖で発生した赤潮など、富栄養化の深刻な原因となっていました。
参考)https://www.live-science.com/bekkan/intro/fueiyou.html
この問題を受けて、日本では洗濯用合成洗剤の無リン化が進められ、現在ではほとんどの製品がリン酸塩を含まない無リン化洗剤に切り替わっています。しかし近年、ボディソープやシャンプーには、リンを含むアルキルリン酸塩や、窒素を含むアミノ酸系、ベタイン系の界面活性剤を主成分にしている製品が増えてきています。
台所用洗剤にも、窒素を含むアルキルアミンオキシドや脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸メチルグルカミドなどが使われている製品が増加傾向にあります。窒素やリンは現在の下水処理では十分に取り除くことができず、そのまま放流されてしまうのです。
これらの量は、かつての洗濯用洗剤に含まれていたリンと比べるとずっと少なく、ただちに富栄養化を起こすとは言えませんが、窒素やリンを含む洗剤が増えている現状は注目すべき点です。富栄養化が進むと、水中の酸素が不足して周辺に生息する生物の生態系に悪影響を与え、水が濁り悪臭が発生する原因にもなります。
合成洗剤と富栄養化の関係について詳しく解説(石鹸百科)
環境への影響を最小限に抑えるため、家庭でできる合成洗剤の使用量削減方法をいくつかご紹介します。まず基本となるのは、適正量の使用です。多くの人は、洗浄力を高めようと規定量以上の洗剤を使ってしまいがちですが、過剰な洗剤は汚れ落ちを良くするどころか、すすぎ残しの原因となり、環境負荷も高めてしまいます。
参考)https://jsda.org/w/02_anzen/senzai_anzensei_03.html
台所では、洗い物をする前に汚れを拭き取る習慣をつけることで、洗剤の使用量を大幅に減らせます。食器に付着した油汚れは、古新聞紙やキッチンペーパーで拭き取ってから洗うだけで、洗剤の量を半分程度に削減できることもあります。また、流し(シンク)の排水溝に細目のネット(水切りストッキング)を装着し、小まめに取り換えることで、パイプ洗浄剤の使用量も削減できます。
参考)http://water-solutions.jp/domestic_wastewater/jyokaso/jyokaso-detergent-trouble/
洗濯においても工夫が可能です。洗濯物の量に応じて適正な洗剤量を計量すること、予洗いや部分洗いを活用して頑固な汚れを落としてから洗濯機を回すことで、洗剤使用量を減らせます。また、すすぎ1回で済む洗剤を選ぶことも、水使用量と時間の節約になり、環境負荷の軽減につながります。
バスルームの浴槽や床の洗浄は、排水速度が低下したら排水溝のパーツを取り出して、頭髪やヌメリをブラシ等で物理的に除去する方法が効果的です。強力な洗浄剤に頼る前に、まずブラシやスポンジでこすり洗いすることで、洗剤使用量を極力削減できます。
| 場所 | 削減方法 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 台所 | 油汚れを拭き取ってから洗う | 洗剤使用量が約50%削減 |
| 洗濯 | 適正量を計量・予洗い活用 | 過剰使用防止・すすぎ残し防止 |
| 浴室 | ブラシで物理的に汚れ除去 | 強力洗剤の使用頻度減少 |
| 排水溝 | 細目ネットの小まめな交換 | パイプ洗浄剤の使用削減 |