

実はヒドリガモのオスは、冬に「メスそっくりの地味な姿」に変身して見分けられなくなります。
ヒドリガモのオスを初めて見た人は、その頭の赤みがかった色合いに驚くことが多いです。オスの成鳥は、頭部から首にかけてが赤茶色(赤褐色)で覆われており、額から嘴の付け根にかけてだけクリーム色の明瞭な帯が入っています。この額のクリーム色は、離れた距離からでも白っぽく目立つため、識別の大きなヒントになります。
胸は頭部よりもやや薄い赤褐色で、背中から脇にかけては白い羽に黒い細かい縞模様が入っており、少し離れて見ると全体がグレーがかった印象になります。嘴(くちばし)は青灰色で先端が黒く、脚は灰黒色です。
飛んでいるときは、翼の雨覆(あまおおい)部分が白く大きく目立ちます。これが一番わかりやすいポイントです。
翼をたたんでいるときでも、脇と翼の境目あたりに純白の横ラインがうっすら見えることがあります。これはオス成鳥だけに見られる特徴で、メスや幼鳥には出ません。
全長は約48~53cmほどで、A4用紙の長辺が約29.7cmですから、そのほぼ2倍近い大きさです。街中の公園の池でもよく見られるサイズ感で、マガモよりひとまわり小さく、コガモよりは大きい中型のカモです。
| 部位 | オスの特徴 | メスの特徴 |
|---|---|---|
| 頭部 | 赤茶色、額だけクリーム色 | 全体が均一な褐色 |
| 体の上面 | 灰色(白羽に黒い縞) | 黒褐色の斑点がある |
| 嘴 | 青灰色・先端黒 | 青灰色・先端黒(同じ) |
| 脚 | 灰黒色 | 灰黒色(同じ) |
| 翼の雨覆 | 純白でくっきり目立つ | 白い羽縁があるが目立ちにくい |
この表を頭に入れておくと、公園の池でカモを見かけたときにすぐ役立てられます。
バードウォッチング初心者の方には、双眼鏡を使うのがおすすめです。「ニコン モナーク」シリーズや「ビクセン アルテス」シリーズなどは、倍率8倍で視野が広く、初めての観察にも適しています。
ヒドリガモの羽色や生態の詳細はサントリーの鳥百科で詳しく確認できます
メスのヒドリガモは、全体が均一な褐色に覆われており、一見するとどのカモも同じに見えてしまいがちです。これはバードウォッチャーが「メスの識別は難しい」とよく口にする理由のひとつでもあります。
メスは頭から背中にかけて黒褐色の斑模様が入っており、全体が褐色に見えるものと、頭から背にかけてやや黒みが強いものの2タイプが存在します。過眼線(目を横切る線)はなく、全体の色調が均一なのが特徴です。
似たような外見のカモと混同しやすいので注意が必要です。特にアメリカヒドリのメスとは見分けが難しく、顔の部分がヒドリガモよりやや灰色がかっていること、背中の模様の違いが識別ポイントになります。日本ではアメリカヒドリは非常に希少で、全国調査ではヒドリガモ13万5,833羽に対してアメリカヒドリは59羽という記録があります。見分けが難しいのはまさにこのメスどうしです。
もうひとつ見分けにくい種類として、オカヨシガモのメスがあります。ヒドリガモのメスより全長が5cmほど大きく(全長約53cm)、くちばしに橙色の縁取りがある点が違います。
「どれも同じ茶色のカモに見える」というときは、まず大きさを比べてみましょう。コガモ<ヒドリガモ≦ハシビロガモ≦オカヨシガモ<マガモという順番で大きくなります。ヒドリガモはカラスとほぼ同じサイズ感と覚えておくと便利です。
つまり「大きさ→頭の色→嘴の色」の順に確認するのが基本です。
ヒドリガモを観察していると、秋口(9〜10月)に「あれ、この群れ全員メスばっかり?」と感じることがあるかもしれません。
これは「エクリプス(Eclipse)」と呼ばれる現象によるものです。繁殖期を終えたオスは、8〜10月頃にかけて全身が地味な羽衣に変化し、メスとほぼ同じ見た目になります。英語の「eclipse(日食・月食)」と同じ言葉で、鮮やかな色が「隠れる」ことをたとえています。
なぜそうなるのでしょうか? オスは繁殖期が終わるとメスに選ばれる必要がなくなります。そのため、天敵(タカやキツネなど)に見つかりにくい地味な羽衣に変わることで、渡りの移動中も安全を保ちやすくなるのです。これは自然界のカモが持つ、とても合理的な仕組みです。
エクリプスのオスとメスを見分けるには、翼の雨覆の色に注目するのが効果的です。成鳥オスは、エクリプス中でも雨覆が純白のままです。一方、メスや幼鳥の雨覆は白い羽縁があるものの、純白ではなく褐色がかっています。この「白いラインの有無」がエクリプス期のオスを見分けるための決め手です。
エクリプスの期間は短く、日本の越冬地に渡ってくる頃(11月以降)には、多くの個体がすでに生殖羽(繁殖羽)に戻り始めています。意外ですね。
冬が本格化する12月〜1月にかけて、公園の池で赤茶色の頭をしたきれいなオスを見かけたら、それはもうエクリプスを抜け出した成鳥です。
日本野鳥の会 埼玉によるエクリプス解説ページ。カモ類のエクリプス識別の詳しいポイントが写真付きで紹介されています。
ヒドリガモは、カモの中でもとくに鳴き声が特徴的なことで知られています。オスは「ピューウ、ピューウ」または「ヒューィヒューィ」という澄んだ笛のような高い声で鳴き、メスは「ガーガー」という低い声で鳴きます。
オスの声が「ピュー」と甲高いのはとても覚えやすく、川沿いや公園の池でこの音が聞こえたら、ヒドリガモが近くにいる可能性が高いです。オスの鳴き声がとくに印象的です。
食性については、ヒドリガモは「陸上でも草を食べるカモ」として知られています。水中の水草(アマモ・エビモ・アオノリなど)を好みますが、陸にあがって草本の新葉を食べる姿も頻繁に観察されます。水元公園(東京都葛飾区)ではヒドリガモが群れで岸に上がって陸地の植物を食べる様子が「冬の風物詩」になっているほどです。
実は、ヒドリガモの短い嘴は陸上の草をついばむのに特化した構造になっており、草丈が3cmのときに最もついばみ速度が速くなるという研究データもあります。葉巻くらいの高さの草が最も食べやすいということですね。
また、有明海の養殖海苔や、埼玉・石川・香川などの麦畑への食害が報告されているのも、陸上での採食行動が盛んだからこそです。
平均寿命は約3年と短く(日本野鳥の会の記録より)、野生下では幼鳥の生存率が低いことが知られています。
| 項目 | 内容 |
|------|------|
| 英名 | Eurasian Wigeon |
| 全長 | 約48〜53cm |
| 鳴き声(オス)| ピューウ、ピューウ(笛のような高音)|
| 鳴き声(メス)| ガーガー(低い声)|
| 食性 | 水草・海藻・陸上の草本の新葉 |
| 平均寿命 | 約3年 |
| 日本での確認数(2015年)| 164,494羽 |
ヒドリガモは繁殖地をユーラシア大陸北部(北緯50〜70度)に持つ冬鳥で、シベリアやスカンジナビア半島、アイスランドなどで繁殖し、秋になると越冬のために南下します。日本には主に11月〜3月の間に飛来し、全国の湖沼・河川・都市公園の池などで観察できます。
渡りのルートは主に北海道経由で、風蓮湖・濤沸湖・コムケ湖(北海道東部)では最大1万羽を超える群れが記録されています。東京ドームのグラウンド面積は約1.3万㎡ですが、この広大な湖に1万羽のヒドリガモが集まる光景は圧巻です。
渡りの経路は個体によって異なり、2007年に宮崎県で発信器を装着した個体の追跡調査では、本州に沿って北上してロシアに向かう個体と、日本海を直接横断してロシアに渡る個体の両方が確認されています。1羽の鳥がそれだけの距離を飛ぶという事実は、改めて驚かされます。
観察しやすい場所としては次のようなスポットが有名です。
観察は晴れた日の午前中がベストで、光が順光になる向きから見ると羽の色が鮮やかに見えます。双眼鏡は8倍程度のものが使いやすく、スマートフォン向けのスコープアダプターを使えば写真撮影も手軽に楽しめます。
子連れでの観察なら、水元公園のような整備された公園の池が安心です。冬休みや年末年始の散歩がてらに立ち寄ってみると、意外な発見があるかもしれません。
ホンダウッズによる「冬のカモ類大図鑑」。公園の水辺で見られるカモの種類と見分け方が写真付きで紹介されています。