

ハリームはカレーではなく、実は「胃腸の回復食」として使われてきた料理です。
「ハリーム(Haleem)」という名前は、ペルシャ語で「忍耐」を意味します。肉・豆・穀物が原形をなくすまで最大10時間かけてとろ火で煮込み続けることから、この名が付けられました。
ハリームの起源は、ムガール帝国時代(1526〜1858年)の宮廷料理にさかのぼるとされています。イエメンやイランなどからの移民によってインドのハイデラバードにもたらされ、その後パキスタン・バングラデシュ・中東各国へと広がっていきました。現在、ユネスコの無形文化遺産にも登録されており、歴史的に見ても価値の高い料理です。
日本のカレーとは根本的に異なります。日本でイメージするカレーは、具材の形が残るスパイス煮込みです。一方、ハリームは具材の形が一切残らない「ペースト状」が正しい仕上がり。色も赤みがなくクリーム色〜薄茶色で、パッと見では「カレー」とはわかりにくいのが特徴です。
辛さも大きく違います。一般的なインド・パキスタンカレーと比べると辛みはかなり控えめで、スパイスは効いているもののマイルドな味わいです。辛いものが苦手な方でも食べやすく、「スパイシーなポタージュ」と表現するとイメージしやすいかもしれません。
| 比較項目 | 一般的なカレー | ハリーム |
|---|---|---|
| 見た目 | 赤〜茶色、具材あり | クリーム〜薄茶、ドロドロ |
| 食感 | 具材の食感が残る | ペースト状・繊維状 |
| 辛さ | 中〜強 | マイルド |
| 食べ方 | ライス・ナン | ナン・チャパティが主流 |
| 調理時間 | 30分〜1時間程度 | 本場は10時間(圧力鍋で2〜3時間) |
つまり「ハリーム ≠ カレー」が基本です。
パキスタンを代表する情報サイトHotpepperの詳細記事はこちらが参考になります。
カレーでもビリヤニでもなく……パキスタン人の朝メシ「ハリーム」とは? – hotpepper mesitsu
ハリームを作るうえで欠かせないのが、豆の組み合わせです。本場パキスタンでは3種類の豆を使うのが基本とされています。
- マスール(レンズ豆):崩れやすく、ペースト状になりやすい。ハリームのとろみの主役。
- ムング(緑豆):淡白で甘みがあり、豆の風味を引き立てる。
- チャナ(ひよこ豆):ナッツのような風味と適度な粘りを加える。
家庭では入手しやすいひよこ豆(チャナ)とウラッド豆(黒い豆)の2種類だけで作っても、十分においしく仕上がります。圧力鍋を使えば豆の下処理が劇的に楽になります。
スパイスはカレーと共通するものが多いですが、ハリームならではのポイントがあります。
- ターメリック:黄色い色みとマイルドな風味のベース
- コリアンダーパウダー:消化を助け、全体に丸みのある香りをつける
- クミンパウダー:スパイスのまとめ役として不可欠
- ガラムマサラ:仕上げに加えることで深みが出る
- グリーンカルダモン:独特の清涼感と香りを加える
チリパウダーは少量でよく、入れすぎると本来のマイルドな味わいが損なわれます。これが肝心です。また、トッピングとして「生姜の千切り・フライドオニオン・レモン汁・青唐辛子」を添えると、各自で辛さや酸みを調整できてとても便利です。
スパイス専門の南インド屋のレシピが参考になります。
家庭でハリームを作る最大のハードルは「時間」です。本場では10時間以上かかりますが、圧力鍋を使えば2〜3時間に短縮できます。圧力鍋は必須です。
材料(4人分の目安)
- 鶏もも肉…約300g
- ひよこ豆(乾燥)…約200g / ウラッド豆(乾燥)…約200g
- 玉ねぎ(みじん切り)…大1個
- にんにく・生姜…各小さじ1
- カットトマト…大さじ2
- 油…大さじ5〜6
スパイス(各大さじ1):ターメリック・ガラムマサラ・クミンパウダー・コリアンダーパウダー、チリパウダー小さじ1、塩こしょう小さじ1〜2
手順のポイント
焦がすのだけには要注意です。豆のでんぷんが焦げつきやすいので、底からしっかり混ぜながら仕上げてください。
「ハリームマサラ」というスパイスミックスも市販されており、カルディやアジア食材店、Amazonで購入できます。これを使えばスパイスを個別に揃える手間が省けて、初めての方でも安心です。
クックパッドの家庭向けレシピも参考になります。
家庭で本格豆カレー!ハリーム – クックパッド by *Kashifa
ハリームは見た目の地味さとは裏腹に、栄養価が極めて高い料理です。肉・豆・穀物が1つの鍋に凝縮されており、まさに「流動食版の栄養完全食」と言えます。
1食(マトン使用、約200〜250g)の栄養目安
| 栄養素 | 量 | 特徴 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 約17.8g | 筋肉・免疫の維持に重要 |
| 炭水化物 | 約30.6g | 豆・穀物由来のゆっくり吸収される糖質 |
| 食物繊維 | 約5.8g | 腸内環境の改善に貢献 |
| 脂質 | 約17.7g | 動物性と植物性が混在 |
| カロリー | 約350kcal | 腹持ちが良い |
食物繊維5.8gは、ごぼう1本分(約100g)に含まれる食物繊維に匹敵する量です。豆類由来の食物繊維は腸内細菌のエサになり、腸内環境を整える効果が期待されます。
スパイスの健康効果も見逃せません。ターメリックに含まれる「クルクミン」は強い抗酸化・抗炎症作用で知られており、近年の研究でも注目されています。コリアンダーは胃腸の働きを助け、消化促進にも効果的です。
健康メリットが大きいということですね。一方で、チキンではなくマトンやビーフを使うとカロリー・脂質が増加します。ダイエット中の方や健康を意識している方はチキンで作るのがおすすめです。
なおハリームは「ラマダーン(断食月)明けの回復食」として中東・南アジアで長年食べられてきた背景があります。断食後の空腹状態でも消化しやすく、一度で多くの栄養を摂れる理にかなった料理設計です。これは使えそうです。
本場パキスタンではハリームは「朝食」として食べられています。これは日本人の感覚からすると意外かもしれません。実はカロリーが高く腹持ちが良いため、一日の活動エネルギーを朝にまとめて確保する文化的背景があるのです。日本で夕食に食べるとしたら少量が賢明です。
食べ方は「ナンに乗せてすくう」が一番合います。ハリームのドロドロとした食感には、ナンのもちもちした歯ごたえが最高の相性を発揮します。チャパティ(全粒粉の薄焼きパン)でも合いますが、日本ではナンの方が入手しやすいでしょう。「ハリーム丼」として白ご飯にかける食べ方も、実は南インド・バングラデシュスタイルとして存在します。
日本でのアレンジ・活用術
- 🍙 ハリーム丼:白ごはんにかけてカレー丼のように。トッピングにフライドオニオンと生姜をのせると風味が増す。
- 🥗 トッピングのレモン・コリアンダー:食べる直前にレモンを絞ると、重さが取れてさっぱりした味わいに変化する。
- 🥣 スープとして飲む:水分多めに仕上げれば、朝のスープ代わりに。子どもや高齢者にも食べやすい形になる。
日本でハリームを食べられるお店は、東京・上野公園周辺、埼玉・八潮市(通称ヤシオスタン)、富山・射水市(イミズスタン)のパキスタン・バングラデシュ系レストランに多く存在します。特に八潮市と射水市はパキスタン人コミュニティが形成されており、本格的な味が楽しめると食通の間で話題です。
レトルトのハリームもAmazonやカルディ・アジア系食材店で手に入るものがあります。「Shan(シャン)」ブランドのハリームミックスは、スパイスがあらかじめブレンドされておりアジア食材店で購入可能です。初めてハリームに挑戦するなら、まずレトルトや市販ミックスで味を確かめてから、本格的に自作するのがおすすめの流れです。
ハリームを含む本格パキスタン料理を家で楽しむなら、国内のハラル食材専門店(中野・大久保・西川口など)でも豆やスパイスがまとめて揃います。スーパーでは手に入りにくい「マスール(レンズ豆)」や「ウラッド豆」も、これらの専門店なら比較的安価で購入できるのでコスト面でも助かります。