

アボンダンスチーズを「高級すぎて自分には関係ない」と思うと、1kg分の製造に10Lのミルクが必要な希少チーズを見逃します。
アボンダンスチーズは、フランス語で「豊穣・豊富」を意味する言葉を名前に持つ、スイス国境に近いフランス・オート=サヴォワ県のチーズです。その歴史は深く、11世紀ごろにアボンダンス渓谷の修道院で、修道士たちが品質を追求して専門的に作り始めたのが起源とされています。
単なる食材というより、歴史を持つ「文化財」のようなチーズです。
なんと1381年、カトリック教会の教皇を決めるコンクラーヴェ(教皇選挙会議)の際の食事に出されたという記録が残っており、当時からその美味しさが広く認められていました。現代でも1990年にAOP(EU原産地呼称保護)の認定を受け、産地・製法・使用できる牛の品種に至るまで、非常に厳しい規定のもとで生産されています。
チーズの形は直径38~43cm、高さ7~8cmほどの大きな円盤形で、重さは6~12kgにもなります。外皮はしなやかで弾力があり、濃い黄色から茶色をしています。内部はクリーム色に近い淡い黄色で、栗を思わせるような甘みと力強いコクが特徴です。ハードタイプに分類されながら、「セミハードとハードの間」と議論されるほど、口に含んだときのなめらかさがあります。
使用できる牛の品種は、アボンダンス種・モンベリアルド種・タランテーズ種の3種のみに限定されています。これらの牛には、夏には牧草地の生草、冬には乾し草を与えることと定められており、品質を損なうサイレージ(発酵飼料)を与えることは禁止されています。厳しい規定が、あの濃厚な風味を守っています。
アボンダンスチーズをはじめて口にした人が驚くのが、「チーズなのにこんなに香り豊かなの?」という感想です。これは理由があります。チーズを1kg作るために、なんと約10kgものミルクが必要で、それを最低100日間(約3ヶ月)かけて熟成させるからです。ちなみに一般的な牛乳パック10本分のミルクがたったの1kgのチーズになる、とイメージするとそのコクの濃さが想像できます。
旨みが凝縮されています。
熟成によって生まれる香りは、ヘーゼルナッツやパイナップルのようなフルーティーな香り、そして干し草やナッツのような風味が特徴です。チーズ職人の山口潮久さんによれば「ミルクやナッツの風味は、適切に熟成した状態で感じられるもの」とのことで、熟成が浅いと生まれない香りなのです。
| 特徴 | 詳細 |
|------|------|
| 味わい | 栗を思わせる甘み+力強いコク |
| 香り | ヘーゼルナッツ・パイナップル・干し草 |
| 塩分 | 程よい塩気、塩辛さはあまり感じない |
| 脂肪分 | 固形分中48%以上 |
| 熟成期間 | 最低100日間(約3ヶ月) |
さらに、外皮をモルジュ液(古いチーズの外皮を塩水で溶かしたもの)で週に2〜3回こすって育てるため、ウォッシュタイプのチーズのような独特の奥行きある香りも感じられます。熟成が進むほど旨みが増し、長期熟成のものは醤油のような芳醇な旨みが出てくるという、日本人の口に合う面白い個性も持っています。
塩辛いというよりコクがある、これが基本です。
また、チーズの熟成度は中心部と外側で異なります。外側になるほど熟成が進み味が濃く、中心に近いほど熟成が浅くマイルドです。このため、チーズを食べるときはホールケーキのように中心から外側に向かって放射線状にカットすることで、熟成度の異なる部分をバランスよく楽しめます。
アボンダンスチーズの楽しみ方はいくつかあり、それぞれで違った顔を見せてくれます。まず一番シンプルで、最も香りと味を楽しめるのが「そのまま食べる」方法です。薄くスライスするか、小さめのブロックにカットして口に含むと、栗の甘みに似た旨みがゆっくりと広がります。クラッカーやバゲットとあわせてワインのおつまみにしたり、フルーツ(特にリンゴやぶどう)と一緒に食べるチーズプレートにするのも上品な楽しみ方です。
これは使えそうです。
食べる30分前に冷蔵庫から出して常温に戻してから食べるのが大切なポイントです。冷えたままでは香りが閉じてしまい、本来の風味が十分に感じられません。チーズの温度管理はコーヒーのドリップと同じくらい味に影響します。
次に、ぜひ試してほしいのが「ベルトゥー」です。これはアボンダンスチーズを白ワインに浸してオーブンで焼くサヴォワ地方の伝統料理で、家庭でも比較的かんたんに再現できます。
🍷 ベルトゥーの基本手順
- 耐熱容器(グラタン皿)の内側をにんにくの切り口でこすりつける
- アボンダンスチーズを薄くスライスして並べる
- コショウ・ナツメグを軽く振りかける
- サヴォワ産の白ワイン(なければ辛口の白ワイン)をチーズが半分浸るくらい加える
- 180〜200℃のオーブンで約10分焼き、表面がきつね色になれば完成
チーズフォンデュのようにパンや野菜につけて食べると、チーズの濃厚な旨みとワインの酸味が見事に合わさって絶品です。特別な鍋も器具も不要なので、おもてなし料理にもぴったりです。
さらに、アボンダンスチーズはラクレット料理(チーズを溶かして料理にかけるサヴォワ料理)にも使えます。電子レンジで加熱すれば手軽にとろとろのチーズが作れるので、茹でたじゃがいもや蒸し野菜にかけるだけで一気に本格的なアルプス料理に変身します。グラタンやチーズフォンデュの材料としても優秀で、熱を加えるとコクと香りがさらに際立ちます。
ハードチーズには赤ワインを合わせるのが定番だと思っている方も多いですが、アボンダンスチーズは実は白ワインの方がよく合います。フルーティーな香りと栗のような甘みを持つこのチーズには、辛口の白ワインのさわやかな酸味が絶妙に重なり合うからです。特に同じサヴォワ地方で作られる「ルーセット・ド・サヴォワ」や「ヴァン・ド・サヴォワ」といった白ワインはペアリングの王道で、産地でそろえると間違いなしです。
地元産どうしのペアリングが基本です。
赤ワインを選ぶなら、重厚な赤よりも「コート・シャロネーズ」や「コトー・デュ・ロワール」のような比較的軽めで辛口のものを。タンニンが強すぎると、チーズの繊細な甘みを打ち消してしまいます。
実は、アボンダンスチーズは日本酒とも意外なほど相性がよいです。チーズを料理に使って和の食材(醤油・山芋・きのこなど)と組み合わせた場合は特に、濃厚な旨みを持つ純米酒や吟醸酒がチーズの旨みと共鳴します。チーズ×日本酒という組み合わせは、チーズ通の間でも話題のペアリングです。
食材との相性で言えば、以下のような組み合わせが特におすすめです。
- 🍎 フルーツ:リンゴ・洋梨・ぶどう(チーズの甘みを引き立てる)
- 🍞 パン・クラッカー:バゲット・全粒粉クラッカー(チーズの旨みを受け止める)
- 🥜 ナッツ:くるみ・ヘーゼルナッツ(香りがシンクロする)
- 🍯 はちみつ・ジャム:アカシアはちみつ・いちじくジャム(甘みがチーズのコクを引き立てる)
- 🥩 生ハム・サラミ:スパイスのある塩気がチーズとバランスをとる
アボンダンスチーズは生産地・製法に厳しい規定があり、フランス国内でも生産量が年間約2,400トンと多くはないため、日本では入手しにくいチーズの一つです。スーパーの売り場ではほぼ見かけません。それでも近年はネット通販で入手できる機会が増え、チーズ専門のオンラインショップを使えば自宅まで届けてもらえます。
入手方法が変わってきています。
主な購入先は、楽天市場・ Yahoo!ショッピングなどのECサイトで取り扱いのあるチーズ専門店(フロマージュ・ランマスなど)、または成城石井やデパートの輸入食品売り場です。価格は100gあたり約1,690〜2,140円が相場で、スーパーのプロセスチーズとは異なる価格帯です。ただし、少量ずつ切り売りで購入できるため、まず100gから試してみるとよいでしょう。
購入したらすぐに気をつけてほしいのが保存方法です。アボンダンスのようなハードチーズは、直接ラップで巻いて冷蔵室に入れるだけでは風味が落ちてしまいます。正しい保存の手順は次のとおりです。
🧀 ハードチーズの正しい保存手順
1. 切り口に浮いた水分や油分をキッチンペーパーでやさしく拭き取る
2. チーズをオーブンシート(クッキングシート)でまず包む(呼吸させるため)
3. さらにラップで二重に包み、空気を抜く
4. ジッパー付き保存袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存(適温は5〜10℃)
5. 3〜4日に一度は包みを開けて空気に触れさせ、水分を拭き取る
最大のポイントは「直接ラップだけで包まない」こと。チーズは生きた発酵食品なので密閉しすぎると蒸れてカビが出やすくなります。開封後の目安は1〜2週間ですが、オーブンシートを使った正しい保存をすれば風味を損なわずに保てます。
食べきれない分が出た場合は、すりおろしてグラタンやパスタのトッピングに使うのがおすすめです。熱を加えることでさらに香りが立ち、少量でも料理のクオリティをぐんと上げてくれます。「少しずつ料理に使いながら楽しむ」というスタイルが、コストパフォーマンスを最大化する使い方です。

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