

水で洗うと菌が半径1メートル以上キッチン中に飛び散ります。
塩麹漬けの鶏肉を調理するとき、「焼く前に水で洗い流すべき?」と迷う方はとても多いです。結論からお伝えすると、塩麹漬け鶏肉の下処理の基本は「水で洗わない」です。
塩麹には米麹由来の「プロテアーゼ」という酵素が豊富に含まれています。このプロテアーゼが鶏肉のたんぱく質を分解することで、肉がやわらかくなり、アミノ酸(旨味成分)が増えるという仕組みです。水で洗い流すと、この旨味と酵素の働きを一緒に流してしまいます。つまり損なのです。
漬け込み時間の目安は、鶏もも肉や鶏むね肉なら30分〜一晩(約8〜12時間)が一般的です。30分でも効果は出ますが、一晩おくとプロテアーゼがより深く浸透し、ふっくらとやわらかな仕上がりになります。ただし、24時間以上漬けすぎると肉の弾力が失われてパサつくこともあるので注意が必要です。
塩麹の量の目安は、鶏肉の重量に対して約10%が基本です。たとえば鶏もも肉300gなら塩麹30g(大さじ2杯弱)が目安になります。これが原則です。
マルコメ公式:塩麹などの発酵調味料がお肉をやわらかくする理由(プロテアーゼの仕組みをわかりやすく解説)
多くの方が「鶏肉の臭みを取るために洗う」という習慣を持っています。しかしこれは、健康面から見ると逆効果です。
鶏肉には「カンピロバクター」や「サルモネラ属菌」などの食中毒菌が付着していることがあります。厚生労働省の調査では、市販の鶏肉のカンピロバクター汚染率は約20〜96%と報告されており、国産鶏肉でも40%前後が汚染されているというデータがあります。生の鶏肉を水で洗うと、この菌が水しぶきとともに周囲に飛び散ります。
その飛散範囲はなんと半径1メートル以上とも言われています。シンク周りに置いてあったサラダの野菜、洗ったお皿、まな板、さらに調理台の上の食材にまで菌が付着する可能性があります。これが「二次汚染」です。
二次汚染は危険です。加熱しない食材(サラダなど)に菌が付いてしまうと、その後いくら鶏肉を十分に加熱しても意味がありません。カンピロバクターは1〜7日の潜伏期間の後に下痢・腹痛・発熱などの症状を引き起こし、最悪の場合「ギラン・バレー症候群」という手足の麻痺を起こす疾患につながるケースもあります。臭みが気になる方は、水洗いではなくキッチンペーパーで表面のドリップ(赤い液体)を丁寧に拭き取る方法に変えましょう。
厚生労働省:カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)汚染率や予防法の詳細が記載されています
塩麹漬け鶏肉の処理方法は「全部同じ」ではありません。調理法に合わせて「拭く」「軽く洗う」を使い分けるのが正解です。
🍳 焼く・炒める場合 → キッチンペーパーで拭き取るだけ
焼き物や炒め物には、水洗いは不要です。キッチンペーパーで表面の塩麹を軽く押さえるように拭き取るだけで十分です。こすって取り切ろうとする必要はなく、「余分な表面部分だけを取る」イメージで行いましょう。塩麹の旨味は肉の内部にしっかり浸透しているため、表面を少し拭き取っても風味が大きく損なわれることはありません。
🥘 煮る場合 → 流水で軽く洗って水気を切る
煮物に使う場合は、表面の塩麹を流水で軽く洗い流してから使うのがおすすめです。煮汁の塩分調整がしやすくなるためです。煮汁に漬け汁を使う場合は、塩分が二重になって濃くなりすぎる可能性があるため、最初は薄めに仕上げて味を見ながら調整しましょう。
🍗 揚げる(唐揚げ)場合 → 軽く洗って水気をしっかり切る
揚げ物の場合は、表面のぬめりを軽く洗い流してから、水気をしっかりと切ることが大切です。水気が残っていると衣がはがれやすくなります。キッチンペーパーで念入りに水気を吸い取ってから粉をまぶすと、衣がきれいにつきます。
| 調理法 | 下処理方法 | ポイント |
|---|---|---|
| 焼く | キッチンペーパーで拭き取り | 焦げ防止+旨味キープ |
| 炒める | キッチンペーパーで拭き取り | 水気を飛ばして香ばしく |
| 煮る | 流水で軽く洗う | 塩分の調整がしやすい |
| 揚げる | 軽く洗って水気をよく切る | 衣のはがれを防ぐ |
調理法で使い分けるのが基本です。
「塩麹漬けの鶏肉を焼いたら真っ黒に焦げてしまった」という失敗はよくあります。これには明確な理由があります。
塩麹には米麹の糖分が含まれており、加熱するとその糖分が「カラメル化」を起こします。砂糖を強火で熱すると焦げるのと同じ現象が鶏肉の表面で起きるわけです。強火で一気に焼こうとすると、中まで火が通る前に表面だけ真っ黒に焦げてしまいます。
焦がさないためのポイントは3つです。
- 焼く前にキッチンペーパーで表面の塩麹を軽く拭き取る(全部取り切らなくてOK)
- 必ず弱火〜中火でじっくり焼く(強火は厳禁)
- フライパンを温めてから肉を入れる、または冷たいまま入れて弱火でゆっくり加熱する
特に鶏もも肉のように皮つきで厚みのある部位は、皮目を下にして弱火でじっくり5〜6分かけて焼くのがコツです。皮からじわじわと脂が出てきたらフライパンの余分な脂をキッチンペーパーで拭き取り、裏返してさらに4分ほど焼きます。これは使えそうです。
焦げが心配なときは、フライパンの下に野菜(もやし、キャベツなど)を敷いてから肉を乗せる方法もあります。野菜が火の当たりをやわらげてくれるため、焦げにくくなる上に同時に付け合わせも完成します。一石二鳥のテクニックです。
塩麹漬けの鶏肉は、下処理前の保存方法を間違えると傷みやすいため注意が必要です。
冷蔵保存の場合は、密封できるジッパー付き保存袋に入れて冷蔵庫のチルド室(もしくは最も冷える場所)で保存し、2〜3日以内を目安に使い切りましょう。塩麹には塩分と発酵の力があるため、普通の生肉よりはやや長持ちしますが、過信は禁物です。
冷凍保存の場合は、1回分ずつ小分けにしてラップで包み、フリーザーバッグに入れて空気を抜いて冷凍します。冷凍保存の目安は約1か月ですが、風味を保つためには2〜3週間以内に使い切るのが理想です。塩麹に漬けた状態で冷凍することで、解凍後もしっとりやわらかな食感が保たれやすいというメリットもあります。
解凍は冷蔵庫内でゆっくりと行うのが安全です。急ぐ場合は密封したまま流水解凍することもできますが、解凍後は速やかに調理してください。電子レンジでの解凍は、解凍ムラが生じて一部に火が通ってしまうことがあるため、できれば避けましょう。
調理時の加熱温度にも注意が必要です。鶏肉の中心部は必ず75℃以上で1分間以上加熱することが、カンピロバクターを死滅させる条件です。家庭に中心温度計がない場合は、竹串や細い箸を肉の一番厚い部分に刺し、透明な肉汁が出ればOKのサインです。ピンク色の肉汁が出る場合は、まだ加熱が足りない状態です。加熱に注意すれば問題ありません。
食品安全委員会:カンピロバクターによる食中毒の予防(家庭での具体的な対策が記載されています)
「鶏肉を洗わないと臭みが取れないんじゃないか」という不安を持つ方は少なくありません。実は、塩麹そのものに臭みを抑える働きがあります。これは意外ですね。
塩麹に含まれる酵素と有機酸(乳酸など)は、鶏肉の臭みの原因となる物質(アルデヒド類など)を分解・中和する作用を持っています。つまり、十分な時間漬け込んだ塩麹漬けの鶏肉は、漬けるプロセス自体が臭み取りになっているのです。
それでも臭みが気になるときは、以下の方法で対処できます。
- ドリップ(赤い液体)をキッチンペーパーで丁寧に拭き取る:これだけで臭みの大部分は抑えられます。ドリップは臭みの原因の一つです。
- 塩麹に漬ける際に、おろし生姜(小さじ1/2程度)やにんにく(少量)を加える:生姜やにんにくの成分がさらに臭みを抑えてくれます。
- 漬け込み時間を最低30分以上確保する:短すぎると塩麹の効果が十分に発揮されず、表面にしか味が入りません。
水洗いは行わず、ドリップの拭き取りと十分な漬け込み時間で対応するのが、旨味を守りながら臭みを除く最善策です。ドリップ拭き取りだけで十分です。なお、鶏肉を購入した際に袋の中にドリップがたくさん出ている場合は、鮮度が落ちているサインでもあります。購入後はなるべく早く塩麹に漬けるか、冷凍保存することをおすすめします。