

スパゲッティより2000年以上前から食べられていたパスタが、あなたの家のキッチンで今日から作れます。
「ラガネッレ(Laganelle)」という名前を初めて聞く方も多いかもしれません。でも実は、これはパスタの中で最も古い部類に入る、南イタリア発祥の手打ち平打ちパスタです。
イタリア南部、特にカラブリア州・カンパーニア州・バジリカータ州などの地域で長く食べられており、地方によっては「ラーガネ(Lagane)」「サーニエ(Sagne)」「トゥリア(Tria)」などとも呼ばれています。タリアテッレとよく似た平打ちの形ですが、最大の違いは「卵を使わない」点にあります。
タリアテッレは北イタリア・エミリア=ロマーニャ州発祥の卵入り生パスタ。一方ラガネッレは、デュラムセモリナ粉(または小麦粉)と水だけで作る、シンプルで素朴なパスタです。卵がないぶんシンプルな味わいで、もちっとした弾力と歯ごたえがあります。これが大きな特徴です。
形の目安としては、厚さ約2mm、幅3cm程度。ハガキの厚みよりやや厚いくらいのシートを切り分ける、いわゆる「極太平打ち」です。生地にはセモリナ粉100%を使う場合と、セモリナ粉+中力粉を半々に混ぜる場合があり、どちらもプロのレシピに登場します。
ラガネとひよこ豆(ラガネ・エ・チェーチ)の詳細レシピ・調理工程 — ricette.jp(イタリア料理レシピ)
ラガネッレの祖先にあたる「ラーガネ(Lagane)」は、現存する最古のパスタのひとつとされています。その歴史は、なんと紀元前1世紀にまでさかのぼります。
古代ギリシャ語の「ラガノン(laganon)」が語源とされており、「ひも・帯状のもの」を意味しました。古代ギリシャ人が南イタリアに移住した際にこのパスタ文化が持ち込まれ、ローマ時代に定着したとみられています。
歴史上の証拠も残っています。紀元前30〜35年頃に書かれた古代ローマの詩人ホラティウスの「風刺詩」には、こんな一節があります。「彼は、ポロネギとヒヨコ豆とラーガネで作ったスープを食べに家に帰るところだった」。これは当時すでに、ラーガネがひよこ豆と一緒に日常的に食べられていたことを示す記録です。驚くべきことに、この組み合わせ(ラガネ+ひよこ豆)は現代の南イタリアでも「ラガネ・エ・チェーチ」として今日もそのまま受け継がれています。
2000年以上、ほぼ同じ食べ方が続いているということですね。
さらに西暦3〜4世紀の料理書「アピキウスの書(De re coquinaria)」にも、肉・卵・香草とラガネを交互に重ねて焼く料理が登場します。これは現在のラザーニャとほぼ同じ構造。ラザーニャの直接の先祖がラーガネであるとも言われています。
ラーガネの歴史・ギリシャ起源の詳細解説 — SAPORITA(イタリア料理伝説シリーズ)
実はラガネッレは、家庭で作るパスタの中でもかなりハードルが低い部類です。なぜなら卵なし・シンプルな材料で作れるからです。
材料(2人分)の目安
| 材料 | 分量 | 補足 |
|---|---|---|
| デュラムセモリナ粉 | 100g | なければ中力粉でも代用可 |
| 中力粉 | 100g | セモリナ粉100%でもOK |
| 水(ぬるま湯) | 約100g | 少しずつ加えて調整 |
| 塩 | ひとつまみ | 生地に直接加える |
基本の手順
① ボウルに粉類を合わせ、中央にくぼみを作ってぬるま湯を少しずつ注ぎながら混ぜます。
② 生地がひとまとまりになったら台に移し、10〜15分かけて力強くこねます。
③ ラップで包んで30分以上寝かせます(これがもちもち感のポイント)。
④ 麺棒またはパスタマシンで厚さ約2mmに伸ばします。
⑤ 幅約3cm、長さ7cm前後に切り分ければ完成です。
生地を「30分以上寝かせる」のが基本です。この工程を省くと、のばす際に生地が戻ってしまい、均一な厚さに仕上げにくくなります。時間があれば冷蔵庫で1時間寝かせると、さらにのばしやすくなります。
茹で時間は塩を加えた湯で約1〜2分。ゆでたてのラガネッレはモチモチで、市販の乾燥パスタとは別次元のおいしさです。短いですね。
セモリナ粉100%で作るとよりもちっとした食感になり、中力粉を混ぜると扱いやすく、しなやかな生地に仕上がります。初めて作る場合は半々のブレンドがおすすめです。
バジリカータ州の郷土料理・ラーガネの本格レシピ — LCI イタリアカルチャースタジオ
ラガネッレに合うソースは幅広いです。ただ、どれも「ラガネッレの太さともちっとした食感」を活かすものが向いています。以下に代表的な3つを紹介します。
① ラガネ・エ・チェーチ(ひよこ豆のソース)— 最も伝統的な組み合わせ
前述の通り、ホラティウスの時代から続く定番です。ひよこ豆の半量をペースト状につぶしてスープ仕立てにし、残りのひよこ豆の食感を残すのがポイントです。グアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)を使うのが本場スタイルですが、ベーコンで代用できます。トマト・ニンニク・ローズマリーを加えて10分ほど煮込み、茹でたラガネッレと和えれば完成です。
これは使えそうです。
② 魚介の軽い煮込みソース
アサリ・ムール貝・タコなどを組み合わせた魚介ソース。オリーブオイル・ニンニクで炒め、白ワインを加えて蒸し焼きにしてソースを作ります。魚介のうまみがラガネッレの生地によく絡みます。イタリアンパセリをたっぷり仕上げに加えるのが爽やかでおすすめです。
③ ジェノヴェーゼ(南イタリアスタイル)
南イタリアのジェノヴェーゼはバジルの緑いろのジェノヴェーゼとは別物です。カンパーニャ州の「ジェノヴェーゼ」は玉ねぎと豚肉を長時間煮込んだ茶色いソースで、リッチな甘みがあります。ラガネッレの太さとの相性がとてもよく、東京・池ノ上の老舗イタリアン「ペペロッソ」でも提供されている一品です。
どのソースも、共通して「濃いめのソース」に向いているのがラガネッレの特徴です。細いスパゲッティよりも面積が広く、ソースがしっかり絡むためです。
日本イタリア料理協会公式レシピ:ラガネッレと魚介の軽い煮込みソース — 一般社団法人日本イタリア料理協会
ラガネッレは比較的シンプルなパスタですが、初めて作ると生地が固くなったり、切り口がバラバラになったりすることがあります。失敗しやすいポイントは3つに集約されます。
コツ① 水は「少しずつ」加えること
粉の種類や湿度によって吸水量が変わります。水を一度に加えると生地が水っぽくなりすぎて扱いにくくなるため、ぬるま湯を大さじ1ずつ加えながら様子を見ることが大切です。「まとまるかな?」という段階で加えるのをやめるくらいがちょうどよい状態です。
コツ② 打ち粉にもセモリナ粉を使う
台に振る打ち粉を薄力粉にすると、生地に吸収されて配合が変わってしまいます。使う粉と同じセモリナ粉か中力粉を打ち粉に使うと、生地の状態が安定します。これが条件です。
コツ③ カットは「生地を乾燥させてから」
伸ばしたシートがしっとりしすぎていると、切り口がくっつきます。伸ばした後に10〜15分ほど台の上で乾かしてから切ると、きれいな断面に仕上がります。くっついた麺は茹でると団子状になるので、切った後はセモリナ粉を振ってほぐしておくと安心です。
もちろん、パスタマシンがあれば生地を均一に伸ばすのがぐっと楽になります。ただし、ラガネッレの「手切りのざっくりした風合い」も魅力のひとつです。多少サイズが不揃いでも食感に変化が出て、それが手作りならではのおいしさにつながります。意外ですね。
ラガネッレを作り慣れてきたら、幅を少し変えるだけで食感の違いを楽しめます。幅2cmに細めるとソースの絡みがよくなり、幅4cmに太くするとモチモチ感が増します。自分好みを探すのも手打ちパスタの楽しみ方のひとつです。
本場の手打ちパスタ生地の作り方・配合解説(強力粉・セモリナ粉) — Bacchette e Pomodoro