

パン屋さんのメニューで「クロックマダム」を頼んでも、目玉焼きをうまく崩せずシャツに黄身が飛んで悲劇になります。
クロックムッシュの歴史は、1910年代のフランス・パリまでさかのぼります。オペラ座の近くにあるカフェが発祥とされており、忙しいパリジャンが手早く小腹を満たせるようにと生まれたホットサンドイッチです。
フランス語で「croque-monsieur(クロック・ムッシュ)」と書き、「croquer(カリカリとかじる)」と「monsieur(紳士・男性)」を組み合わせた言葉です。直訳すると「カリカリとかじる紳士」。カリカリとした音を立ててかじる食べ物だから、この名前がついたという説が有力です。
基本的な構成はシンプルで、食パン(パン・ド・ミ)にハムとチーズを挟み、バターを塗ったフライパンまたはオーブンで焼き上げたものです。現代では表面にベシャメルソース(ホワイトソース)を塗り、その上にチーズを乗せてこんがり焼くスタイルが主流です。
「フランス料理といえばバゲット」と思う方も多いはずです。ところが、クロックムッシュに使うパンは食パン(パン・ド・ミ)が一般的なのです。諸説ありますが、1910年当時カフェでバゲットが足りなくなり、代わりに食パンで作ったところ大評判になったという説が広く知られています。
使うチーズは、グリュイエールやエメンタールが本場フランスの定番です。どちらもスイス原産のチーズで、チーズフォンデュでもおなじみ。グリュイエールは「スイスの女王」と呼ばれるほど格式ある品種で、ナッツのようなコクとマイルドな酸味が特徴です。日本のスーパーでは手に入りにくい場合がありますが、市販のとろけるスライスチーズで代用可能です。これで大丈夫です。
クロックムッシュとクロックマダムの違いというと、「目玉焼きが乗っているかどうか」と答える方が多いと思います。それは正しいです。ただし、違いはそれだけではありません。
以下の表で3つの違いを一覧できます。
| 比較項目 | 🧔 クロックムッシュ | 👩 クロックマダム |
|---|---|---|
| 目玉焼き | なし | あり(半熟が基本) |
| ベシャメルソース | たっぷりかけるのが定番 | 省かれることが多い |
| 食べ方 | 手でつかんで食べる | ナイフとフォークで食べる |
| 名前の意味 | カリカリかじる紳士 | (目玉焼きが)帽子をかぶった淑女 |
特に意外なのが「ベシャメルソース」と「食べ方」の違いです。クロックムッシュにはベシャメルソースがたっぷりとかかっているのがお決まりですが、クロックマダムでは省かれることが多く、目玉焼きの黄身がソース代わりになります。
食べ方の違いも面白いところです。クロックムッシュはパリジャンが手でガブリとかじる、いわゆる「男の食べ物」として広まりました。一方のクロックマダムは、半熟の目玉焼きが乗っているため手でつかんで食べるのが難しく、ナイフとフォークを使うのが一般的です。上品な淑女(マダム)の食べ方になるため、「クロックマダム」と名付けられたというわけです。
クロックマダムの名前の由来にはもう一つの説もあります。目玉焼きの丸い形が、貴婦人の帽子に見えることからマダムと呼ばれるようになったというものです。どちらの説もロマンがあっていいですね。
クロックムッシュとクロックマダムの食べ方の違いについて(野澤食品工業)
「ベシャメルソースを一から作るのは難しそう」と感じる方もいるかもしれません。これはよくある誤解です。実はとても簡単に作れます。
おうちでのクロックムッシュ作りに必要な材料はこちらです(2人分)。
ベシャメルソースは、電子レンジでも作れます。耐熱容器にバターを入れてラップなしで30秒加熱し、薄力粉を加えてよく混ぜます。続けて牛乳を少しずつ加えながらラップなしで1〜2分加熱し、そのつどよく混ぜるだけです。たったこれだけです。市販のポタージュスープの素で代用するという裏技もあり、忙しい朝でも十分に活用できます。
フライパンで焼くときは、バターをしっかり溶かしてから中火で焼くのがポイントです。表面がきつね色になったら裏返し、フタをして弱火で2〜3分焼けば中のチーズも溶けてとろとろに仕上がります。オーブントースターを使う場合は、ベシャメルソースと追いチーズをパンの上に乗せてから焼くと、より本格的な仕上がりになります。
パンは食パン以外にも応用が効きます。バゲットが余ったとき、カンパーニュが少し固くなってきたときは、クロックムッシュにリメイクすると立派な一品に変わります。実はパン屋さんでは、前日のパンのリメイクとしてクロックムッシュを販売しているケースがあることも知られています。食品ロスを減らす観点でも、家庭で取り入れやすいアイデアです。
クロックマダムの主役は、なんといっても「半熟の目玉焼き」です。黄身がとろりと流れ出す瞬間こそが、クロックマダムの醍醐味です。
半熟目玉焼きを作るための手順はシンプルです。まずフライパンに少量の油をひき、弱火で熱します。卵を割り入れたら、水を小さじ1杯ほど加えてフタをします。白身が白くなり、黄身に薄い膜が張ったら完成のサインです。目安は弱火で約3分。この3分が重要です。
黄身の状態を「固め・半熟・とろとろ」の3段階で調整するには、フタをする時間を変えるだけで対応できます。
クロックマダムに乗せるときは、目玉焼きを焼いている間にクロックムッシュ本体を先に仕上げておくとスムーズです。焼き上がったクロックムッシュの上に、熱々の目玉焼きをそっと乗せるだけで完成です。これが原則です。
食卓に出すときは、ナイフとフォークを忘れずに添えましょう。目玉焼きの黄身を中央からそっと崩して全体にからめながら食べるのが、本場フランス式の楽しみ方です。チーズと黄身が混ざり合うまろやかさは、クロックムッシュにはない独特のリッチな味わいになります。
黄身の色が鮮やかなオレンジ色になる「平飼い卵」や「放牧卵」を使うと、見た目もグッと華やかになります。週末のブランチや、ちょっとだけ贅沢したい朝ごはんにぴったりです。これは使えそうです。
クロックムッシュとクロックマダムは、材料費がとても経済的です。1人前の材料費は食パン・ハム・チーズ・卵を合わせても200〜250円程度に収まります。カフェでは1品あたり800〜1,200円前後で提供されていることが多いため、おうちで作れば約4〜5倍のコスパになります。
アレンジのバリエーションも豊富です。
子どもが食べるときはベシャメルソースを少し多めにして、チーズの塩気をマイルドに抑えるのがコツです。一方で大人向けには、仕上げに粗挽きブラックペッパーを少し多めにかけると、ぐっと風味が引き立ちます。
材料を買い置きしておくと、冷蔵庫の整理にも役立ちます。食パン・ハム・チーズはそれぞれほかの料理にも使いやすい食材です。余ったパンのリメイクとして活用できる点も、家庭向けメニューとして長く愛されている理由の一つです。クロックムッシュは「パンが余ったときの救済レシピ」としても優秀です。