

さえずりの刺身、完全解凍してから切っていませんか?それだと1切れで脂まみれになって後悔します。
「さえずり」という名前を聞いて、鳥のさえずりを思い浮かべる方も多いかもしれません。実はこれは鯨の舌(タン)のことを指します。鯨が鳴き声を出す(さえずる)ときに使う器官であることからこの名前がついたとも言われており、食卓ではあまり見かけない珍しい部位です。
さえずりが希少とされる理由は、まず鯨1頭から取れる舌の量がごくわずかである点にあります。成体のミンク鯨でも、可食部の舌は限られており、流通量が少ないため通販でも品切れになることが珍しくありません。実際、専門通販サイトでは100gあたり1,000〜1,300円前後で取引されており、100gで5パックセットになると6,000円を超える商品もあります。
部位の特徴としては、脂肪分が非常に多く、コラーゲンが豊富に含まれていることが挙げられます。舌の根元と先端では肉質が異なり、根元に近い部分のほうが脂がのっています。生の状態では外側が赤く、茹でると見慣れた白っぽい色に変わります。見た目は「しまりのない寒天」のようにブルンブルンしており、初めて見る方は少し驚くかもしれません。
刺身として食べる場合、一般的にはボイル(塩茹で)してから冷やしてスライスするスタイルが多いです。生(未加熱)のまま刺身にするケースは非常に稀で、入手自体がほぼ困難です。つまり刺身と言っても「茹でてから冷やしてスライス」が基本ということですね。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 部位 | 鯨の舌(タン) |
| 別名 | サエズリ、鯨タン |
| 食感 | ぷるぷる・もちもち |
| 主な食べ方 | 刺身(お造り)・おでん・ハリハリ鍋 |
| 通販相場(100g) | 1,000〜1,350円前後 |
| 主な産地 | 南氷洋産ミンク鯨、北西太平洋産など |
東京・神田の鯨料理専門店「一乃谷」などでも定番メニューとして提供されており、長崎では正月の食卓に欠かせない食材としても親しまれています。
さえずりの下処理で最も重要なのが血抜きです。舌は内部に血管が無数に走っており、適切に血を抜かないと仕上がりが生臭くなってしまいます。血抜きの良し悪しで料理の味がほぼ決まると言っても過言ではありません。
血抜きの手順は次のとおりです。
骨抜きで血管を引き抜く工程は少し根気が要ります。ただし全部の血管を抜こうとすると舌の形が崩れてしまうため、ある程度大きめの血管だけ取り除けば大丈夫です。
血抜き期間は個体差があります。2日で十分な場合もありますが、個体によっては3〜4日かかることもあります。水の色がまだ濃い赤なら、もう1日延ばすのが原則です。
なお、鯨は捕獲直後に十分な血抜きができない動物です。家畜と違い、屠殺時に血抜きができないため、肉に血液が多く残ります。だからこそ家庭での血抜き工程が美味しさに直結します。これは知っておくと得する知識です。
参考:鯨の解凍・血抜き方法の詳細(くじらにく.com 鯨料理専門ページ)
さえずりのお造り レシピと解凍手順 | くじらにく.com
血抜きが完了したら、いよいよ茹でる工程に入ります。茹で方にも美味しく仕上げるためのポイントがいくつかあります。
まず鍋に水を張り、しっかり沸騰させてからさえずりを入れます。塩を適量(しょっぱさを感じるくらい)加えてください。さえずりは脂が多い部位なので、茹でている間に白い灰汁がかなり浮いてきます。こまめにすくい取ることが味のキメテになります。こまめにアク取りが必要です。
火が通ったかどうかは、鉄串を刺してスッと通れば完了のサインです。心配な場合は1箇所切って断面を確認しても構いません。断面が白くなっていれば火が通っています。
茹でたあとの冷やし方が独特です。普通の氷水ではなく、海水よりやや濃い塩分4%程度の塩氷水に漬け込みます。この塩氷水には「冷やしながら塩味を浸透させる」という二つの役割があります。漬け込み時間は3〜4時間が目安です。
冷やし終えたら水気をよくきり、ラップをして冷蔵庫で1日置くことで塩が均一に染み込みます。すぐに切らないことがコツですね。
保存する場合は冷凍でOKです。食べる際は半解凍(芯がまだ少し凍っている状態)になったタイミングを見計らってスライスします。
「完全に解凍してから切ろう」と思っている方は要注意です。さえずりは完全解凍すると非常に柔らかく、包丁がうまく入らなくなります。また、切ったあとに形が崩れてしまい、見た目も食感も台無しになります。
切るタイミングは半解凍がベストです。表面が少し溶けてきたと感じたころ、芯はまだ凍っている状態が一番切りやすくなります。
厚さについては、2〜3mm程度の薄切りが一般的です。ただし、歯応えを楽しみたい方はやや厚め(4〜5mm)に切るのもおすすめです。薄く切れば口の中でとろける食感、少し厚めにするともちもちとした食感を楽しめます。
一方で、「太く切ったら口の中が脂まみれになる」という指摘もプロの間では有名です。さえずりは脂分がとても多いため、1cmを超えるような厚切りはくどくなりやすく注意が必要です。スライスの厚さも美味しさの決め手です。
盛り付けの際は、大根ツマや大葉を器に敷くと見栄えが格段によくなります。薬味としておろし生姜・マスタード・和からしのいずれかを添えるのが定番です。付けダレはポン酢またはしょうが醤油が相性バツグンで、酢味噌でも美味しく食べられます。
食べる際は冷たい状態のまま食べるのがポイントです。常温になると脂が溶けてきてしまい、食感と風味が変わってしまいます。冷えた状態なら問題ありません。
さえずりは美味しいだけでなく、実は栄養面でも見逃せない食材です。鯨肉全般に言えることですが、いくつか注目したい成分が含まれています。
まず鯨肉特有の成分として知られるのがバレニンです。バレニンはイミダゾールジペプチドの一種で、疲労を回復したり疲れにくい体を作ったりする効果があるとされています。同じ成分は牛肉や豚肉にも含まれていますが、鯨肉における含有量は牛肉・豚肉の3〜6倍にのぼるという報告があります。家族の疲労回復に役立つ食材です。
さえずりに特に豊富なのがコラーゲンです。ぷるぷるとした食感がまさにコラーゲンの塊であることを示しています。鯨の畝須(ベーコンの原料)のコラーゲン含有量は28%という研究報告もあり、舌部位も同様に高コラーゲンな部位です。美肌や関節ケアが気になる方には嬉しい成分ですね。
さらに鯨肉はヘム鉄(吸収されやすいタイプの鉄分)が豊富です。女性に多い貧血対策として、鉄分サプリに頼る前に食事から取り入れるのも一つの選択肢です。そしてカロリーについては鯨赤身100gあたり約106kcalと、和牛ヒレ肉(約223kcal)の半分以下というデータがあります(文部科学省 日本食品標準成分表2015年版より)。さえずりは脂が多いため赤身ほど低カロリーではありませんが、良質なコラーゲン源として考えると非常にコストパフォーマンスが高い食材です。
参考:鯨肉の栄養成分について詳しく解説されています。
鯨肉の栄養(バレニン、コラーゲンなど) | くじらにく.com
参考:鯨のコラーゲン含有量に関する研究データが掲載されています。
さえずりはスーパーでほぼ見かけない食材です。入手するなら通販が現実的な選択肢になります。選び方のポイントをまとめました。
産地と鯨の種類で選ぶと失敗が少ないです。主に流通しているのはミンク鯨(南氷洋産・北西太平洋産)とニタリクジラです。ミンク鯨は鯨肉の中で最も美味しいと評価されることが多く、特に南氷洋(南極海)で捕獲されたものは「世界一綺麗な海で育った」と言われるほど上品な味わいが特徴です。
スライス済みかブロックかを確認することも大切です。スライス済み商品は解凍してすぐに食べられますが、ブロックは自分で切る手間が発生します。ただしブロックのほうが鮮度を保ちやすく、切り方の厚さを自由に調整できるメリットがあります。
加工済み(ボイル済み)か生(未加工)かも要チェックです。通販で「刺身用」として販売されているさえずりの多くは、すでにボイル・塩漬け加工されており、解凍してそのままスライスするだけで食べられます。一方、生のブロックを購入した場合は本記事で紹介した下処理(血抜き→茹で→塩氷水で冷やし)を自分で行う必要があります。初めての方にはボイル済みの商品が扱いやすいです。
保存は必ず冷凍で行います。解凍後は当日中に食べきるのが鮮度の面で理想です。再冷凍は風味と食感が落ちるため避けましょう。
購入先の一例として、「くじら日和(kujirabiyori.jp)」や「関太郎印のくじら(sekitaro.com)」などの専門通販サイトでは、産地や加工方法の詳細情報が明記されているので比較しやすいです。まず1パック(100g)から試してみると、さえずりがどんな食材か体験しやすいですよ。