

エゾライチョウが絶滅危惧種のレッドリスト(環境省「情報不足DD」)に載ったまま、今も合法的に狩猟できる鳥だと知ったら驚きませんか?
エゾライチョウは「ライチョウ」という名前を持ちながら、本州の高山に暮らす特別天然記念物のライチョウとはまったく別の話です。日本では北海道だけに生息し、標高200〜800mの針葉樹と広葉樹が混在する山林を住処にしている鳥です。アイヌ語では「フミルイ(その音、はげしい)」と呼ばれ、飛び立つ時の迫力ある羽音が名前の由来になっています。
北海道のハンターたちは昔からこの鳥を「ヤマドリ」と呼んで親しんできました。本州のヤマドリとは別種ですが、同じように山の中で出会う身近な鳥として食文化に深く根付いてきたのです。
驚くべき歴史があります。大正時代(1920年代)から昭和初期にかけて、エゾライチョウは年間5〜6万羽も捕獲され、アメリカやヨーロッパへ輸出されていました。当時のアメリカではまだ七面鳥が普及しておらず、クリスマスのメインディッシュとしてエゾライチョウのローストが珍重されていたのです。1967年には約6万羽という記録が残っており、シベリア鉄道で樽詰めにされてヨーロッパへ運ばれたという文献記録まであります。
そういった歴史的・文化的背景から、北海道ではエゾライチョウを「狩猟鳥獣」として指定した法律がそのまま続いているのです。これが基本です。
その一方で、現在の捕獲数は年間150〜400羽程度にとどまり(環境省、2021年度報告)、かつての6万羽とは比べものにならない水準に激減しています。環境省のレッドリストでは「DD(情報不足)」として記載されており、北海道独自のレッドデータブックでは「留意種」に指定されています。
今でも道東地方を中心に生息は確認されていますが、道央や道南では姿を見かけることがほとんどなくなりました。生息地が減った理由は、平地の森が農地・牧草地に開発されたこと、キタキツネやタヌキ・アライグマといった天敵が増えたこと、針広混交林が造林地に変わったことなどが重なっています。
このような状況だからこそ、狩猟に関わるすべてのルールと保全意識が重要になってくるのです。
北海道の狩猟鳥獣リストや関連規則については、北海道庁の公式ページが参考になります。
北海道庁「野生鳥獣を捕まえることは、原則禁止です」(鳥獣保護管理法の概要・狩猟鳥獣リスト掲載)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/syuryo/236583.html
野生鳥獣の捕獲は原則禁止されています。これが原則です。鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)に違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という罰則が定められています。
エゾライチョウを合法的に狩猟するには、以下の手順が必要です。
| 手順 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| ①狩猟免許の取得 | 銃猟(第一種・第二種)または網猟・わな猟の免許 | 有効期間3年(更新制)、申請手数料5,200円 |
| ②狩猟者登録 | 猟期ごとに北海道へ登録申請 | 免許種別ごとに毎年必要 |
| ③猟期内に狩猟 | 北海道の狩猟期間:10月1日〜翌年1月31日 | 猟区内は9月15日〜翌年2月末日 |
エゾライチョウを銃で狙う場合、空気銃を使う「第二種銃猟免許」でも対応可能です。空気銃(エアライフル)は小型鳥獣の狩猟に適しており、エゾライチョウのような小型の鳥をターゲットにする場合に実際に多く使われています。装薬銃(火薬を使う銃)も使いたい場合は「第一種銃猟免許」が必要です。
銃以外の方法として、「網猟免許」を取得して網を使う方法もゼロではありませんが、実際のエゾライチョウ猟は銃(特に空気銃)とコール猟の組み合わせが主流です。
狩猟が禁止されている区域には注意が必要です。鳥獣保護区・休猟区・公道・自然公園特別保護地区・社寺境内・墓地などは、狩猟期間であっても銃猟ができません。知らずに立ち入ってしまうと法律違反になります。
狩猟者登録についての詳細は北海道庁の公式ページで確認できます。
北海道庁「狩猟者登録について」(登録手続きの案内)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/syuryo/touroku.html
コール猟とは、エゾライチョウの鳴き声を笛で模倣し、縄張りを持つ個体を呼び寄せて捕獲する方法です。現在の日本で笛(コール)を使う猟法が認められているのは、エゾライチョウとエゾシカ(一部期間限定)くらいだと言われており、非常に特殊な狩猟スタイルです。
エゾライチョウの鳴き声は「ピィーッ、ピッ、ピッ、ピッ!」という独特のか細い口笛のような音で、一度聞けば耳に残る特徴的なものです。この声を笛で真似ると、縄張り意識のある個体が近づいてきます。驚くことに、上手く笛を吹くと2メートルほどの距離まで近寄ってくることもあります。
コール用の笛はいくつか入手方法があります。
- 市販の専用鳥笛:エゾライチョウ専用品として販売されており、再現性が高い。価格は数千円〜。バードウォッチングにも活用できます
- 5円玉2枚で自作する方法:5円玉を2枚隙間を開けてテープで巻くだけで完成する、昔から北海道のハンターが使ってきた方法。5円玉と5円玉の間隔で音の高さが変わります
自作笛の音の精度には限界もありますが、ベテランハンターのなかには「5円玉で十分だ」という声も多く、道具への費用を抑えたい入門者にとっても気軽に試せる点が魅力です。
コール猟の実践では、針葉樹と広葉樹が混在する林道沿いをゆっくり歩きながら笛を吹き、沢が近くにある場所で重点的に試すのが基本的なアプローチです。エゾライチョウは地上を歩いていることも多く、林道を走る車の横をのんびり歩いていることもあるほど、比較的警戒心が低い鳥です。
ただし、捕獲数には明確な上限が設けられています。猟区外では1日あたり2羽という制限があります(鳥獣保護管理法施行規則に基づく数量制限)。これは資源保全の観点から非常に重要なルールです。このルールが原則です。
ベテランハンターのなかには「同じ林道で2羽獲ったら翌年まではその林道でのエゾライチョウ猟はしない」という自主的な配慮を続けている方もいます。生息数が激減している現状を踏まえれば、ルール内であっても乱獲は厳禁です。
狩猟免許を取得し、狩猟者登録を済ませ、猟期内であっても、場所を間違えると即違法です。これが最も見落とされやすいポイントです。
鳥獣保護管理法では、以下の区域での狩猟が明確に禁止されています。
- 🚫 鳥獣保護区(国設・都道府県設の保護区)
- 🚫 休猟区
- 🚫 公道上
- 🚫 自然公園特別保護地区
- 🚫 区域が明示された都市公園
- 🚫 原生自然環境保全地域
- 🚫 社寺境内・墓地
国有林や道有林では、作業員の安全確保のため「銃猟立入禁止区域」が別途設定されることがあります。林野庁北海道森林管理局は毎年、猟期前に銃猟安全管理の方針を公表しており、その内容が毎年変わる点にも注意が必要です。
「地図で見るとただの山林なのに、実は鳥獣保護区だった」というケースは現実に起きています。厳しいところですね。
対策として、狩猟に出かける前に以下の確認を習慣にしましょう。
1. 北海道庁の「鳥獣保護区等位置図」でGIS(地図情報)を確認する
2. 林野庁の入林情報(特に国有林内への入林に関するお知らせ)を事前にチェックする
3. スマートフォン用の狩猟マップアプリを活用する(「狩猟マップ」などのアプリで位置情報と照合できます)
確認ひとつで違法リスクを避けられます。一読して状況が理解できれば問題ありません。出発前の10分が後悔のない猟につながります。
林野庁北海道森林管理局の狩猟期間中の注意事項ページも定期的に更新されています。
林野庁「一般入林者の皆様へ〜狩猟期間における注意事項〜」(禁止区域・安全確認の参考)
https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/apply/nyurin/ippan_syuryoukikan.html
エゾライチョウはジビエのなかでも特別な存在です。体重は約400グラム(はがきを4枚重ねた程度の軽さ)と小型ですが、その肉質は「白身で赤身のカモ類と違ってクセがない」と評されており、狩猟鳥の中でも人気の高い食材です。
下処理の基本は「早さ」にあります。狩猟後はできるだけ早く腸抜き(内臓除去)を行うのが鉄則です。内臓から腐敗が進むため、山の中でもその場で処理するのが理想とされています。現地処理の後、自宅では以下の手順を踏むと肉質が引き立ちます。
- 羽毛をていねいに抜く:熱湯に10〜15秒ほど漬けると抜きやすくなります
- 血抜き:冷水に30分〜1時間ほど漬けて血を抜きます
- 部位ごとに分ける:モモ肉・胸肉・内臓(砂ずり)に分けると調理しやすくなります
白身でクセが少ないため、初めてジビエ料理に挑戦する方にもおすすめできる食材です。これは使えそうです。
北海道の食文化では、エゾライチョウを使った郷土料理がいくつか伝わっています。道東の一部地域では今も年越しそばの出汁にエゾライチョウを使うという風習が残っており、バードウォッチングの専門家も「思いのほか北海道の食文化に強く根付いている」と記述しています。
| 料理名 | 特徴・ポイント |
|---|---|
| 🍜 年越しそば(出汁仕立て) | 道東地方に残る伝統。骨ごとじっくり煮出すと上品な旨味のだしが取れる |
| 🍲 お雑煮 | 白身の淡白な味わいがお雑煮の澄まし汁と相性抜群 |
| 🍗 ロースト(丸焼き) | ヨーロッパのジビエ文化から伝わる伝統的な調理法。骨付きで焼くと風味が増す |
| 🥘 コンフィ(モモ肉) | オリーブオイルとタイムでゆっくり火を入れると、しっとり仕上がる |
白身ならではのさっぱりとした味わいを活かすには、強い香辛料を使いすぎず、素材の風味を大切にしたシンプルな調理法が向いています。
エゾライチョウの専用鳥笛は、合法的なバードウォッチングにも活用できる点が見逃せません。猟期外の春〜夏にかけて笛で呼び寄せると、鳥の愛くるしい姿を至近距離で観察できます。狩猟だけにとどまらず、自然体験の道具としても非常に優れています。
エゾライチョウの生態や北海道の食文化における位置づけについては、YAMAP Magazineの大橋弘一さんのエッセイが非常に詳しくまとめられています。
YAMAP Magazine「大橋弘一の『山の鳥』エッセイ Vol.7 – エゾライチョウ」(生態・歴史・保全問題を専門家視点で解説)
https://yamap.com/magazine/47993