

固くなったパンを捨てると、毎月500円以上を無駄にしているかもしれません。
パンツァネッラとは、イタリアのトスカーナ州で古くから作られてきた「パン入り野菜サラダ」のことです。日本語にするなら「パンのサラダ」とシンプルに表現されますが、その内容はとても個性的で、硬くなったパンを水やビネガー(お酢)に浸してやわらかく戻し、トマト・きゅうり・赤玉ねぎ・バジルなどの夏野菜とオリーブオイルで和えた料理です。
クルトンのようにカリカリした食感ではなく、水分をたっぷり吸ってしっとりしたパンが野菜と絡む、独特の口当たりが最大の特徴です。これは食べたことがないと想像しにくいかもしれません。
つまり「固いパン+野菜+ビネガー+オリーブオイル」が基本です。
もともとトスカーナのパン「パーネ・トスカーノ」は、塩もバターも使わない製法で作られており、作った翌日にはカチカチに硬くなってしまいます。そのまま食べられなくなったパンを何とかおいしく再利用しようと考えられたのが、このパンツァネッラです。捨てずに使い切るという精神から生まれた、まさに日本でいう「もったいない料理」といえます。
また、イタリア語の料理分野では「クチーナ・ポーヴェラ(cucina povera)」という概念があります。直訳すると「貧しい料理」で、限られた食材を工夫しておいしく食べるイタリアの食文化を指します。パンツァネッラはその代表格のひとつで、農民が家にある余りものだけで作る知恵料理として長く愛されてきました。
材料が少なく、火を使わずに作れるのも主婦にとっては魅力的です。
パンツァネッラの歴史は、驚くべきことに500年近くさかのぼります。16世紀に活躍したメディチ家の宮廷画家「アーニョロ・ブロンズィーノ(Agnolo Bronzino)」が、トーストにオイルと酢と玉ねぎを合わせたものや、玉ねぎ・スベリヒユ・きゅうりのサラダについて詩の中で語っており、これが現在のパンツァネッラの原型と解釈されています。
さらに遡ると、14世紀のボッカッチョの時代にも「pan lavato(水で洗ったパン)」という類似料理の記録が残っていると言われており、パンと水分を合わせて食べる文化はイタリアにとってとても古いものです。意外ですね。
現代の形になったのは比較的新しく、1928年頃の文献にトマトを使ったパンツァネッラの記述が登場します。トマトがヨーロッパに普及したのは近世以降のことであり、それまでのパンツァネッラにはトマトが入っていませんでした。つまり現在の「赤いサラダ」のイメージになったのは、約200年前のことです。
「panzanella」という名前の語源については、「pane(パン)+zanella(蓋つきのスープ鉢)」や「panzana(流動食・お粥)」から来ているという説があります。どちらの説が正しいかは現在も確定していませんが、どちらにせよ「やわらかくしたパンを器に盛った料理」というイメージが名前に込められていると考えられます。
歴史が深い料理だということですね。
トスカーナ以外にも、隣接するウンブリア州や中部イタリアの地域でも広く食べられており、漁師たちが海上で固くなったパンを海水に浸して食べていたという説も伝わっています。地域や家庭によって材料や作り方に少しずつ違いがありますが、「硬いパンを水とビネガーで戻す」という基本製法は変わっていません。
参考:パンツァネッラ〜イタリア発祥のパン〜の歴史と製法について詳しく紹介されています。
基本の材料はとてもシンプルです。以下が標準的な4人分の目安になります。
| 材料 | 分量(目安) | ポイント |
|---|---|---|
| 固くなったバゲット | 1/2本(約150g) | 2〜3日経ったものが◎ |
| トマト(熟したもの) | 大1〜2個 | 果汁が多いほど旨味が出る |
| きゅうり | 1本 | 薄切りにしておく |
| 赤玉ねぎ(アーリーレッド) | 1/4〜1/2個 | 水にさらすと辛みが和らぐ |
| バジル | 10〜15枚 | 手でちぎって香りを出す |
| 白ワインビネガー(または赤ワインビネガー) | 大さじ1.5〜2 | なければ米酢でも代用可 |
| エクストラバージンオリーブオイル | 大さじ2〜3 | 味の決め手なので良質なものを |
| 塩・黒こしょう | 各適量 | 仕上げに必ず調整する |
パンを戻すのが最大のポイントです。バゲットをひと口大(厚さ2cm程度)に切り、ボウルにたっぷりの水と白ワインビネガーを加えて約20分浸します。浸したパンは手でギュッと強めに絞り、余分な水分を確実に出してください。絞りが甘いと水っぽいサラダになってしまいます。
野菜はトマトをダイスカット(1cm角)、きゅうりを薄い輪切り、赤玉ねぎを薄くスライスして水にさらします。すべてをボウルに合わせ、絞ったパンをちぎりながら加えてざっくりと混ぜ、最後にオリーブオイル・ビネガー・塩こしょうで味を調えます。
冷蔵庫で30分〜1時間以上寝かせるのが基本です。
食べる15分前に冷蔵庫から取り出して常温に戻すと、野菜の風味とパンが一体化してぐっとおいしくなります。急いでいるときでも最低30分は休ませてください。「冷蔵庫で2日間保存可能」という特性を活かして、週末に多めに作っておくと平日の昼食や副菜として重宝します。
これは使えそうです。
参考:作り方のコツとレシピが非常に丁寧に解説されています。
フィレンツェガイド.net|トスカーナ名物『パンツァネッラ』超簡単レシピ付き
本場のパンツァネッラはトスカーナの無塩パン「パーネ・トスカーノ」を使いますが、日本ではなかなか手に入りません。代わりに使えるパンとしては、バゲットやカンパーニュなどのハード系パンがもっとも向いています。水分を吸ってもしっかりとした形を保てるからです。食パンも代用できますが、吸水が早く崩れやすいため、浸す時間を5〜10分と短めにするのが注意点です。
家庭にある余りものパンで十分です。
野菜のアレンジも自由度が高く、定番のトマト・きゅうりのほかにも次のような食材がよく使われます。
日本では夏に黄色いパプリカや焼きトマトを使ったアレンジも人気です。焼いたトマトは水分が飛んで旨みが凝縮されるため、サラダ全体の風味が豊かになるのでおすすめです。
また、オリーブオイルは料理の決め手として「エクストラバージンオリーブオイル」を使うことが推奨されています。エクストラバージンはオレイン酸をはじめ、ポリフェノールなど抗酸化成分が豊富で、地中海食の健康効果を語る際によく取り上げられる食材です。心疾患リスクの低下や糖代謝の改善にも関連するとされており、毎日の食卓に自然に取り入れられるのが嬉しいところです。
料理とヘルシーさが両立するというのは、まさに一石二鳥です。
市販のエクストラバージンオリーブオイルを選ぶ際は、「DOP(原産地名称保護)」マークが付いたイタリア産のものが品質の目安になります。カルディコーヒーファームやコストコなどで手頃な価格で入手できるため、パンツァネッラのためにひとつ常備しておくと重宝します。
参考:エクストラバージンオリーブオイルを含む地中海食の健康効果について医療専門家が詳しく解説しています。
そうじんかい|地中海食のメリットとレシピ、デメリットについて解説
パンツァネッラは「夏の料理」として語られることがほとんどです。確かに本場トスカーナでは猛暑の夏に食べるさっぱりした一品として知られており、「夏にしか作らないもの」という印象を持っている人も多いでしょう。しかし日本の家庭で考えると、むしろ「通年の作り置きサラダ」として活用できる料理です。
冬でも旬の食材を使えば十分においしく作れます。
たとえば冬のアレンジとしては、トマトをミニトマト(冬でも甘みがあるものが多い)に変え、きゅうりの代わりにセロリや根菜(薄切りのラディッシュや大根)を使う方法があります。ドレッシングをシェリービネガーや柑橘果汁(レモン・ゆず)に変えると、季節感のある風味になります。
食材を替えるだけで四季を通じて楽しめるということですね。
また、パンツァネッラは「残りもの解消レシピ」として非常に優秀です。週末に食べ切れなかったバゲット、トマトが少し傷みかけている、バジルが余っている…そういった状況こそ、このレシピが真価を発揮するタイミングです。食費の節約という観点でも、廃棄を出さないことは毎月の家計に直結します。日本の農林水産省の調査によると、家庭での食品廃棄(食品ロス)は年間約236万トン(2022年度)にのぼるとされており、こうした「余りものを活かす料理」を一品知っているだけで、家庭の食品ロスを減らす具体的な行動につながります。
「パンが余ったときのメニュー」としてレパートリーに加えるだけで、冷蔵庫の中が片付いてコストも節約できるのは、日々の献立を考える主婦にとって心強い知識です。火を使わないため、夏の暑い日だけでなく、体調が優れないときや忙しい平日の副菜としても役立ちます。
料理を知ることそのものが節約につながるということです。
参考:食パンやその他のパンを使ったパンツァネッラの実践的なアレンジ方法について紹介されています。
note|余ったパンでごちそうに。冬のパンツァネッラ|PAYSAGE