

チモシーさえ与えておけばうさぎの歯は安心だと思っているなら、それで年間1〜2万円分の動物病院代を損しているかもしれません。
うさぎを飼っていると「牧草=チモシー」というイメージが強くなりがちです。しかし牧草の世界はずっと広く、フェスキュー(Festuca属)もその代表的な選択肢の一つです。フェスキューはイネ科に属する寒地型多年草で、ヨーロッパからシベリアにかけてが原産地とされています。
現在ペット用として流通しているフェスキュー牧草の99%以上はアメリカ・オレゴン州のウィラメット・バレー地区産です。実はこの牧草、もともとは種子採取後に残った茎(ストロー)を焼却処分していたものでした。環境規制の強化で焼却ができなくなり、その廃材を求めていた日本側の需要と一致したことで輸入が始まったという背景があります。これは意外ですね。
フェスキューには主に2つの品種があります。高さ0.5〜1.8mになる「トールフェスク」は夏の高温乾燥と湿地にも強く、もう一方の「メドウフェスク」は高さ0.6〜1.5mで冷涼多湿の気候を好み放牧用にも使われます。乾燥後の見た目はほぼ区別がつかないため、流通段階では一括して「フェスキューストロー」として取り扱われることが多いです。
チモシーとの大きな違いは茎の太さと硬さです。フェスキューはライグラスストローよりも茎が太く硬いため、繊維源としての質が高いとされています。成分で比較すると、フェスキューの粗繊維は約30%と高く、歯が十分に摩耗するくらいの歯ごたえがあります。つまり歯が伸び続ける草食動物にとって、咀嚼のチャンスが増えるということです。
日本には年間10万トン以上のフェスキューが輸入されており、その流通量はかなりのものです。以前は酪農・肉牛向けが中心でしたが、近年はペット向けとして小袋で小分け販売されるケースも増えてきました。選ぶ際はダブルベール(25〜50kg)の業務用と、ペット用の小袋タイプがあり、家庭で飼う場合は小袋タイプが使い切りやすく衛生的です。
参考:フェスキューストローの成分表と産地詳細
岡崎鉱産株式会社:フェスクスストローの特徴・成分値・産地情報
うさぎをはじめとする草食小動物にとって、牧草は「食べ物」以上の意味を持ちます。歯と消化器官という、2つの重要な器官を日々ケアする「ヘルスケアツール」としての役割があります。
うさぎの歯は一生伸び続けます。特に奥歯(臼歯)は1か月で約1mm前後伸びると言われています。硬い繊維質の牧草を左右にすりつぶして食べる動作そのものが、歯の摩耗を促して不正咬合(歯が歪む病気)を防ぐのです。フェスキューはチモシーよりも茎が太くて硬さがあるため、しっかりすりつぶす運動量が増えます。歯の摩耗が大事だということですね。
消化器への効果も見逃せません。うさぎの消化管は常に動いている必要があり、繊維質が不足すると「うっ滞」と呼ばれる消化器停止が起きることがあります。これは最悪の場合、命に関わるトラブルです。フェスキューの粗繊維含有率は約30.1%と高く、腸のぜん動運動を活発にする働きが期待できます。
さらに、フェスキューは低タンパク(粗蛋白質約7.9%)・低脂肪(粗脂肪約1.4%)という特性を持ちます。成長が終わった成体のうさぎやモルモットに高タンパクな牧草を与え続けると、肥満や尿路結石のリスクが上がります。フェスキューならその心配が少ないので、維持期の食事として向いています。
一方で注意点もあります。硬めの牧草なので、歯にトラブルがあるシニア期のうさぎや、病中病後で体力が落ちている子には向いていません。そういった子には柔らかいダブルプレスのチモシーや2〜3番刈り牧草の方が安心です。硬さ別に使い分けるのが原則です。
牧草の硬さで悩んだときは、ペット専門店のスタッフや動物病院の先生に相談するのが一番です。うさぎを診てくれる病院の多くが「うさぎの牧草相談」に対応しています。かかりつけ医に一度確認してみると安心できます。
参考:うさぎへの牧草の必要性と歯・消化器への影響
日本動物医療センター:うさぎに牧草は必要か(歯・消化器との関係)
「どのくらい与えればいいの?」という疑問は、牧草を初めて使う方にとって一番気になる点です。結論から言うと、牧草は基本的に食べ放題でOKです。
うさぎに与える牧草の量には、厳密な上限がありません。チモシーと同様にフェスキューも、いつでも食べられる状態にしておくのが理想的です。牧草を自由に食べられる環境があることで、うさぎは自分のペースで腸を動かし、歯をすり減らすことができます。チモシーと同じイネ科なので、与え方の基本は変わりません。
ただし、初めてフェスキューに切り替える際は少し注意が必要です。急な食事の変化はお腹の調子を崩す原因になります。最初の1週間は、これまで食べていたチモシーにフェスキューを2〜3割ほど混ぜて与えてみましょう。「混ぜながら慣らす」が基本です。食いつきや糞の状態を見ながら、1〜2週間かけて少しずつフェスキューの割合を増やしていくとスムーズです。
与え方の工夫も大切です。うさぎや小動物によっては牧草の置き方でも食いつきが変わります。
保管についても押さえておきましょう。牧草は自然素材なので、夏の暑い時期は虫が発生するリスクがあります。ペット用の小袋タイプは開封後、密閉できるジップロックや専用の保存袋に移して、風通しのよい涼しい場所に保管してください。使い切る目安は約1か月以内です。大量購入は鮮度の問題もあるため、月1回購入に留めておくのが無駄もなくて安心です。
「うちの子にはどっちが向いているの?」と迷う方のために、特徴別に整理してみます。チモシーとフェスキューはどちらもイネ科・低カロリー・高繊維という共通点がありますが、細かな特性に違いがあります。
まず、チモシー(1番刈り)は流通量が最も多く、品質が安定しています。茎が硬く穂が豊富で、繊維質も高い水準を保っています。多くの動物病院や専門家が「まず試してほしい牧草」として推奨するのがチモシー1番刈りです。これが基本です。
それに対してフェスキューは、以下のような場面で選択肢に入ってきます。
フェスキューは嗜好性という点ではチモシーより個体差があります。よく食べる子もいれば、最初は見向きもしない子もいます。「食べなかったら失敗」ではなく、「2種類以上を試して自分の子の好みを把握していく」という視点で取り組むと、牧草選びが楽しくなります。
また、モルモットとチンチラの場合、うさぎと同様にイネ科牧草が主食の基本です。成長期を過ぎた子には低カルシウムで高繊維のイネ科を中心に与えます。フェスキューはカルシウムが過剰になりにくい成分構成なので、泌尿器系が心配な子にも比較的安心して使える選択肢です。これは使えそうです。
なお、専門獣医師に相談する際は「うちの子はどんな牧草が向いていますか?」と聞くと、体重・年齢・健康状態に合わせたアドバイスをもらえます。年1回の健康診断の際にまとめて聞いてみることをおすすめします。
参考:牧草の種類と各動物への適合性
あにまるキャンパスオンラインストア:牧草の種類一覧(チモシー・フェスキュー・オーツヘイなどの比較)
「牧草は1種類だけ与えるもの」と思っていませんか。実は、複数の牧草を組み合わせる「ブレンド牧草」にすることで、食いつきが改善したり、栄養バランスが整ったりする場合があります。これはあまり知られていない活用法です。
フェスキューを軸にしたシンプルなブレンドの例を紹介します。
ブレンドする際は、あらかじめ牧草入れにランダムに混ぜておくのが手軽な方法です。ポイントは均等に混ざるようにすること。特定の牧草だけよりわけて食べる子もいますが、まず全体にまぶすように混ぜると自然に両方食べてくれることが多いです。
食いつきを確認する簡単な方法があります。朝与えた牧草を夜に確認し、どのあたりが減っているかを見てみましょう。フェスキューの太い茎だけ残っていればもう少し少なめに、逆によく食べているなら少し増やす、という調整が目安になります。
購入の際は、ブレンド用として少量ずつ試せる牧草セットを販売しているネット通販が便利です。いくつかのショップでは「食べ比べセット」や「サンプルパック」を提供しているため、まず100〜200g単位で試してみて相性を確かめてから、気に入ったものをまとめ買いするのがコスト面でも無駄がありません。1か月のまとめ買いが目安です。
参考:うさぎへの牧草の種類と選び方・与え方
うさぎのしっぽ:牧草の種類と特徴(チモシー・オーツヘイ・アルファルファなど)