

孵化したアルテミアを塩抜きせずに稚魚に与え続けると、水槽の塩分濃度が上がって稚魚が全滅することがあります。
アルテミア(ブラインシュリンプ)は、アメリカのユタ州ソルトレイクや中国・ブラジルなどの塩湖に生息する小型の甲殻類です。成体でも体長15mm程度と非常に小さく、乾燥させた耐久卵の形で市販されています。この耐久卵を塩水に浸すと、約24時間で幼生が孵化するという、生き餌にしては珍しいほど扱いやすい特徴を持っています。
稚魚の餌としてアルテミアが選ばれる理由は明確です。多くの魚の稚魚は生まれてすぐ、口がまだ非常に小さく人工飼料を食べられません。そんな時期でも動く生き餌なら食い付きが圧倒的に良く、栄養補給ができます。孵化直後の幼生はヨーサック(卵黄の入った袋)を持っており、この時期が最も栄養価が高い状態です。稚魚にこれを与えることで成長スピードが格段に上がり、餓死しやすい初期の危険な時期を短く乗り越えやすくなります。
栄養が高いのが基本です。
一方で、冷凍タイプやフリーズドライタイプも販売されています。冷凍ブラインシュリンプは孵化の手間が不要で保存も利きますが、動かないため生餌を好む魚には食いつきが落ちることがあり、サイズも大きいため稚魚向きではありません。フリーズドライはさらに手軽ですが、栄養価・嗜好性ともに生きた幼生には及びません。稚魚を元気に育てたいなら、卵から孵化させる方法がベストといえます。
アルテミアを孵化させるには、いくつかの道具を揃える必要があります。最低限必要なものは、孵化器(または清潔なペットボトル・タッパー)、エアーポンプとチューブ、食塩、水温計、スポイト、こし器(メッシュカップやお茶パック)です。専用の孵化セット(ニチドウの「ハッチャー24」など)を購入すれば一式揃うため、初めての方にはセット購入がおすすめです。
塩水は1Lの水道水に対して食塩20g(塩分濃度2%)を溶かして作ります。水道水はカルキが含まれているため、市販のカルキ抜き剤を使うか、沸騰・日光にさらすなどの方法で除去してから使いましょう。塩は食品用の食塩で問題ありませんが、精製塩より粗塩のほうが微量ミネラルを含むためやや孵化率が高いとされています。海水の素(人工海水)を使う場合は、製品の指示に従って希釈してください。
道具が揃えばあとはシンプルです。
孵化器に塩水を入れ、ブラインシュリンプの卵(エッグ)を水1Lに対して約1gを目安に加えます。卵を入れ過ぎると水が濁り孵化率が下がるため注意が必要です。エアーポンプを接続してエアレーションを行い、卵が沈殿せず全体が緩やかに循環する程度の空気量に調節します。エアーが強すぎると卵が壁面に張り付いて無駄になるため、分岐コックで調節するのが現実的です。
水温が孵化率を左右します。最適水温は28℃で、この温度を維持できれば約16〜24時間で孵化します。20℃を下回ると孵化しないこともあるため、冬場は孵化容器を水槽内に入れて水槽のヒーターで保温する方法が有効です。また、暗い場所では孵化率が下がることがあるため、水槽用ライトの近くに置いておくと光と熱の両方が確保できて一石二鳥です。
プロアクアリストが解説するブラインシュリンプの孵化方法と必要道具の詳細
孵化が確認できたら、まずエアレーションを止めて5〜10分ほど待ちます。エアレーションを止めると孵化した幼生が容器の下部や光の当たる部分に集まってきます。ブラインシュリンプは光に集まる習性(走光性)があるため、懐中電灯などで横から光を当てると幼生を効率的に集めることができます。
集まった幼生をスポイトで吸い取りますが、この時に注意すべき点があります。容器の底には孵化できなかった卵の殻や未孵化の卵が沈んでいるため、一番底の部分は吸わずに、底から少し上の部分を狙って吸い取るのがポイントです。殻を一緒に与えると稚魚や魚が消化できず、お腹を壊す原因になります。
殻は与えない方が安全です。
次に、吸い取った幼生を必ずメッシュカップやお茶パックに移し、水道水で軽く洗い流します。これが「塩抜き」の作業です。ここが最重要ポイントで、孵化水には塩分(食塩水)が含まれており、塩抜きせずに与え続けると水槽内の塩分濃度が少しずつ上昇します。淡水魚の稚魚は水換えができる時期になるまで長期間同じ水の中にいることが多く、塩分が蓄積されてある日突然全滅するケースが実際に報告されています。成魚に与える場合は定期的な水換えで薄まるため比較的問題ありませんが、稚魚への塩抜きは必須と覚えておきましょう。
塩抜き後の幼生は、スポイトで吸って稚魚の水槽にそっと投入するか、こし器ごとバシャッと水槽に広げて与えます。ブラインシュリンプを食べた稚魚はお腹がオレンジ色になるので、食べているかどうかが一目でわかります。与える頻度は最低でも朝・夕の1日2回以上が理想で、可能であれば1日3〜4回与えると稚魚の成長速度と生存率が上がります。
ブラインシュリンプの与え方・塩抜き方法の詳細(海水魚・淡水魚別の注意点も掲載)
アルテミア(ブラインシュリンプ)の栄養価については、多くの方が「生き餌だから栄養が高い」とだけ認識していますが、実はタイミングによって栄養価に大きな差があります。孵化直後の幼生はヨーサック(栄養の詰まった卵黄の袋)を体に持っており、この袋の中に豊富な脂質・タンパク質・必須脂肪酸が含まれています。これが稚魚にとっての最高の栄養源です。
しかし問題は、孵化後の経過時間です。孵化した幼生は自分の成長のためにヨーサックの栄養を消費し始め、孵化から1日経過するとヨーサックはほぼ消費されてしまいます。カインズの記事によると、餌として利用するなら「孵化してから半日以内が理想」とされており、2日も経過したブラインシュリンプは「栄養価がほとんどないカス同然」とまで表現されています。ここが盲点です。
つまり孵化直後が一番です。
さらに、時間が経つにつれてブラインシュリンプ自体が成長して縦に大きくなっていきます。孵化直後の幼生サイズは0.5〜1mm程度ですが、1〜2日で数mmに成長するため、ベタやカラシン類など口の小さい稚魚では食べられなくなるという問題も起きます。特にベタの稚魚や超小型魚の稚魚に与えている場合は、孵化後できるだけ早く(6〜12時間以内に)与えることが稚魚の成長に直結します。
この問題への現実的な対策として、孵化器を2台体制で運用する方法があります。1台目が孵化したらすぐに魚に与え、同時に2台目で新しい卵を孵かし始めます。1日交代で運用することで、常に新鮮な幼生を稚魚に供給できる体制が作れます。専門的なアクアリストの中には3〜4台体制で運用する方もいるほど、鮮度管理は重要視されています。
アルテミアを稚魚の「餌として使う」記事は多いのですが、アルテミア自身に何を食べさせるかという視点で書かれた情報は少ないです。実はアルテミアは微細な有機物を濾過摂食するため、飼育を続けようとするとアルテミア自身にも適切な餌が必要です。この「アルテミアへの餌」が間違っていると、水槽が濁り稚魚の環境が悪化するという見落とされがちなリスクがあります。
自由研究キットとしてアルテミア飼育セット(ニチドウなど各社から販売)を購入すると、付属の餌はきなこ(大豆粉)が多く使われています。きなこはアルテミアが食べられる粒径に近く、入手しやすいため代用品としても定番です。ただし、市販のきなこを代用する場合は「砂糖が含まれていない無添加のもの」を必ず選ぶことが条件です。砂糖入りのきなこを与えると水が急激に腐り、アルテミアが全滅するリスクがあります。
無添加のきなこが条件です。
きなこ以外の代用餌としては、プレコ用フードをすりつぶして粉状にしたものも有効です。アルテミアは非常に小さいため、粒径が大きいと食べることができません。ポイントは「できる限り細かい粉状にすること」で、市販の金魚の餌をすりつぶしたものでも対応できます。与える量は非常に少量で問題なく、水を白く濁らせる程度の量が目安です。3日に1回ほど、つまようじの先に少し付く程度から始めて様子を見るのが基本です。
本来、養殖場などではアルテミアの栄養強化のためにナンノクロロプシス(海産微細藻類)やキートセロス(珪藻類)を使います。これらを与えたアルテミアは体内にDHAなどの不飽和脂肪酸を豊富に含み、魚に与えたときの栄養価が飛躍的に上がります。一般家庭での藻類培養は難しいですが、市販のクロレラ液(液体タイプ)をほんの少量添加するだけでも栄養強化の効果が見込めます。これは知っていると得する情報です。
千葉県水産試験所によるアルテミア(各魚種の種苗生産・餌料生物)の解説ページ
ブラインシュリンプの乾燥卵(耐久卵)は、未開封の状態であれば5〜6年間にわたって孵化能力を保つとされています。これは耐久卵が乾燥・低酸素・低温の状態で休眠を続けられる特殊な性質によるものです。この保存のしやすさが、他の生き餌にはないブラインシュリンプ最大のメリットの一つです。
しかし、一度開封してしまうと話が変わります。開封後は湿気と酸素に触れることで卵が徐々に劣化し、孵化率が下がっていきます。使用する都度開けていると、1年も経てばほとんど孵化しなくなるケースもあります。開封後の保管は「空気をできる限り抜いて密閉し、冷暗所(常温の日の当たらない場所)に置く」が基本です。
冷蔵庫への保管は注意が必要です。日本動物薬品(ニチドウ)によると、冷蔵庫での保管は結露によって卵が湿り、腐敗する可能性があるため推奨されていません。冷凍保存については商品によって可否が異なるため、パッケージの指示に従うのが安全です。
| 保管方法 | 注意点 | 推奨度 |
|---|---|---|
| 未開封・常温の冷暗所 | 5〜6年保存可能 | ◎ |
| 開封後・密閉・冷暗所 | なるべく早く使い切る | ○ |
| 冷蔵庫保管 | 結露で腐敗リスクあり | △ |
| 開封後・常温放置 | 1年以内に孵化率激減 | ✕ |
孵化率が急に下がったと感じたら、まず卵の開封日を確認しましょう。開封から1年以上経過している場合は、買い直すのが最も手っ取り早い解決策です。また、産地によって孵化の最適な塩分濃度が微妙に異なります。ソルトレイク産(ニチドウ・テトラなど一般的な製品)は約2〜2.5%、ベトナム産は約3〜3.5%が目安とされています。商品ごとの説明書に記載された塩分濃度を守ることで、孵化率が最大限に引き出せます。これだけ覚えておけばOKです。
余ったアルテミアや孵化しなかった卵を海・川・池などの自然水域に捨てることは絶対に避けてください。アルテミアは在来生態系にいない外来種であり、環境に放出すると在来の水生生物への影響が懸念されます。使用後の塩水・残った卵はそのまま下水に流すか、燃えるごみとして廃棄するのが適切な処理方法です。
キョーリン(水産事業者向け)によるブラインシュリンプの保管・孵化率に関する解説