歯科口腔保健法改正で変わる歯科従事者の役割と対策

歯科口腔保健法改正で変わる歯科従事者の役割と対策

歯科口腔保健法改正で歯科従事者が知るべき全ポイント

今の診療スタイルを続けると、20代・30代の患者が来院しても制度対応できていない歯科医院と判断されます。


この記事の3ポイント要約
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令和6年度から「第二次」がスタート

「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次)」として「歯・口腔の健康づくりプラン」が2024年度より開始。12年間計画で17項目の指標が設けられている。

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歯周疾患検診の対象が20・30歳に拡大

従来は40歳以上だった歯周疾患検診に、令和6年度から20歳・30歳が追加。歯科医師・歯科衛生士が対応できる体制整備が急務となっている。

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「かかりつけ歯科医」機能の強化が核心

ライフコースに沿った切れ目のない歯科口腔保健を実現するため、かかりつけ歯科医が乳幼児から在宅高齢者まで対応する体制が求められている。


歯科口腔保健法改正の背景と「第二次」プランの概要

「歯科口腔保健の推進に関する法律」(平成23年法律第95号)は、口腔の健康が国民の質の高い生活の基盤であるとして制定されました。この法律の第12条第1項に基づいて厚生労働省が策定するのが「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」です。第一次(平成25年度〜令和5年度)の最終評価が令和4年10月に行われ、その結果を踏まえて令和5年10月5日に全部改正が告示されました。


最終評価の結果は、歯科従事者として知っておくべき内容です。全19項目のうち目標に達したのはわずか2項目(10.5%)でした。改善傾向にある項目は6項目(31.6%)で、評価困難が9項目と全体の約半数を占めました。評価困難の理由の多くは、新型コロナウイルス感染症の影響により歯科疾患実態調査が中止されてデータが取れなかったことです。


第一次の反省を踏まえ、第二次では大きく2つの重点ポイントが設けられました。


  • ① 個人のライフコースに沿った歯・口腔の健康づくりを展開できる社会環境の整備
  • ② より実効性をもつ取組を推進するためのPDCAサイクルの適切な実施


計画期間は令和6年度(2024年)から令和17年度(2035年)までの12年間です。令和11年度を目途に中間評価、令和15年度を目途に最終評価が行われます。これは東京都全体の面積(約2,194 km²)と同じくらいの大きなスパンで考えるような、まさに長期的な国家計画です。


指標は全17項目にわたり、健康日本21(第三次)と共通する目標として「歯周病を有する者の減少」「よく噛んで食べることができる者の増加」「歯科検診の受診者の増加」の3項目が設定されています。歯科従事者にとって特に重要なのは、歯科検診受診率の目標が現状値52.9%から最終目標値95%へと大幅に引き上げられた点です。これは約1.8倍への拡大を意味します。


参考:厚生労働省「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の全部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001154214.pdf


歯科口腔保健法改正で変わった検診制度と対象年齢の拡大

今回の改正で歯科従事者の現場に最も直接的な影響を与えるのが、歯周疾患検診の対象年齢拡大です。これが核心です。


令和6年度より、健康増進法に基づく自治体の歯周疾患検診の対象年齢に、従来の40歳・50歳・60歳・70歳に加えて「20歳」と「30歳」が追加されました。令和6年5月に発出された「歯周病検診マニュアル2023」にも明記されています。


なぜ若年層が追加されたのか。令和4年歯科疾患実態調査によれば、歯周ポケット4mm以上を有する者(歯周病と見なす指標)の割合は15〜24歳で17.8%、25〜34歳では32.7%に達しています。つまり30代の約3人に1人がすでに歯周病を抱えているという現実があります。街を歩く30代の3人をイメージしてみてください。そのうち1人は歯周病というわけです。


この変更が歯科医師や歯科衛生士の業務に直接影響します。


  • 💡 20歳・30歳の歯周疾患検診を受け入れる体制整備が必要になる
  • 💡 若年層向けの歯科保健指導コンテンツの充実が求められる
  • 💡 検診をきっかけとした治療・予防への橋渡し対応が増加する


なお、現在の歯科健診体制でライフステージ別に義務化されているのは乳幼児歯科健診(1歳6ヵ月・3歳)と学校歯科健診のみです。成人以降は義務ではありません。歯周疾患検診はあくまでも健康増進法に基づく市町村の努力義務です。


ただし、骨太の方針2023・2024に「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた取組の推進」が明記されており、将来的な義務化の流れに備えた準備は今から始めておく必要があります。


歯科経営者を対象にした調査(クオキャリア社、2023年)では、歯科経営者の82%が国民皆歯科健診が医院経営に影響を与えると回答しています。準備は早いほど有利です。


参考:厚生労働省「歯科口腔保健の推進に向けた取組等について(令和7年3月)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001448480.pdf


歯科口腔保健法改正が求めるかかりつけ歯科医の新たな役割

歯・口腔の健康づくりプランのグランドデザインは、三層構造で描かれています。最上層に「生涯を通じた口腔機能の獲得・維持・向上」、中層に「歯科疾患の発症予防・重症化予防」、そして最下層の土台に「歯科口腔保健推進のための社会環境の整備」が置かれています。この最下層を担う主役が、かかりつけ歯科医です。


厚生労働省の「歯科医療提供体制等に関する検討会中間とりまとめ」では、かかりつけ歯科医の役割として、乳幼児期から高齢期まで「切れ目のない」対応を行うことが確認されました。具体的には次のような対応が求められています。


  • 🦷 妊産婦・乳幼児への口腔保健指導
  • 🦷 学齢期のう蝕・歯周病予防管理
  • 🦷 成人・就労世代の歯周病ケアと定期検診
  • 🦷 高齢者の口腔機能低下(オーラルフレイル)対応
  • 🦷 要介護・在宅患者への訪問歯科診療


一見すると「これまでも行ってきた業務だ」と感じるかもしれません。しかし改正後に変わった点は、これらをバラバラに提供するのではなく、ライフコースアプローチとして体系化し、かつ医科・介護・福祉との連携(医科歯科連携)の中で役割を担うことが明確に求められるようになったことです。これが新しいところです。


たとえば、糖尿病患者への歯科介入は、歯周病治療によるHbA1c改善効果が複数の研究で示されています。内科やかかりつけ医からの紹介を受け入れる体制を整えておくことは、今後の医院経営でも重要なポイントになります。


また、令和4年歯科疾患実態調査では、8020(80歳で20本以上の歯を保つ)達成者の割合が51.6%に到達したことが確認されました。1989年の運動開始時はわずか10.9%だったことと比べると、実に30年以上かけて5倍近くに増加しています。自分の歯を多く残した高齢者が増えるほど、歯周病・根面う蝕のリスクも高まり、高齢歯科患者への対応ニーズが増大します。


つまり「高齢者対応ができる体制」と「ライフコース全体のかかりつけ機能」が、今後の歯科医院運営の競争力を左右します。


参考:国立保健医療科学院「歯科口腔保健の推進に向けた社会環境の整備」
https://www.niph.go.jp/journal/data/73-5/202473050002.pdf


歯科口腔保健法改正で歯科衛生士に求められる具体的な変化

歯科衛生士の役割についても、今回の改正に伴い重要性が一層高まっています。意外ですね。


令和6年度改定の介護報酬では、特定施設入居者生活介護における口腔衛生管理体制の整備がこれまでの任意から義務化されました。つまり介護施設での歯科衛生士ニーズが急拡大しているということです。


実際に厚生労働省の資料(令和7年7月)でも「入院患者や在宅療養患者等への口腔健康管理ニーズが増加している一方、これらの業務を行う歯科衛生士が少ない」と指摘されています。これは歯科診療所だけでなく、病院・介護施設・在宅の場面で活躍できる歯科衛生士へのニーズがひっ迫していることを示しています。


歯科衛生士の三大業務(歯科予防処置・歯科診療補助・歯科保健指導)がすべての場面で求められるようになっています。業務範囲が広がります。


歯科衛生士専門学校の教員約85%が「国民皆歯科健診は教育に影響する」と回答した調査結果(クオキャリア社)もあるように、現場でも養成教育の面でも変化の波は確実に来ています。特に若年層への保健指導スキルとオーラルフレイル対応スキルは、今後のキャリア形成において重要な差別化要素になります。


就労世代向けの検診対応に不安がある歯科衛生士には、歯周疾患検診マニュアル2023(厚生労働省)の内容を確認しておくことをおすすめします。20歳・30歳向けの検診フローが新たに記載されており、現場対応の参考になります。


また、歯科衛生士を対象にした調査では78%が「国民皆歯科健診は自身の業務に影響する」と回答している一方で、23%が「業務負担の増加」を懸念しています。患者数増加への備えとして、予防処置プロトコルの標準化やSPT(歯周病安定期治療)管理体制の整備を早めに進めることが負担軽減につながります。


歯科口腔保健法改正後の目標値と歯科医院が今やるべきこと【独自視点】

第二次プランで掲げられた目標値は、一般的にはあまり注目されていません。しかしこの数字が、歯科医院の経営戦略を左右します。


最も注目すべき数字を整理します。


| 指標 | 現状値(ベースライン) | 令和14年度目標値 |
|---|---|---|
| 過去1年間に歯科検診を受診した者の割合 | 52.9%(平成28年) | 95% |
| 80歳で20歯以上の自分の歯を有する者の割合(8020達成者) | 51.6%(令和4年) | 85% |
| 40歳以上における歯周炎を有する者の割合 | 57.2%(平成28年) | 40% |
| 50歳以上における咀嚼良好者の割合 | 71.0%(令和元年) | 80% |
| 障害者・要介護施設での歯科検診実施率 | ー | 引き上げ目標 |


特に「歯科検診受診率95%」という目標は、現在の約58%から大幅な上昇を意味します。この水準は、全国民のほぼ全員が毎年歯科検診を受ける社会を意味します。国民皆歯科健診が段階的に実現した場合の話です。


この目標が達成に近づくほど、歯科医院への受診者数は増加します。一方で現状の問題もあります。就労世代の定期検診を受診しない理由の第1位は「時間がない」で、これは調査回答者の50%以上を占めています。かかりつけ歯科医として、夜間・休日対応や職場出張検診への参加といったアクセス改善の取り組みが求められます。


もうひとつ見落とされがちな重要な指標が、歯科口腔保健に関する事業の効果検証を実施している市町村の割合です。現状29.3%に対して目標値は100%です。これは地域の歯科医師会や歯科医院が、自治体のPDCAサイクルに積極的に参加することが期待されているということを示しています。


つまり地域の歯科保健行政のパートナーになることが、歯科医院の社会的地位を高める機会でもあります。これは使えそうです。


今から取り組むべき具体的なアクションとして、以下の3点が挙げられます。まず①20歳・30歳を含む歯周疾患検診を受け入れる院内プロトコルを整備することです。次に②医科歯科連携として近隣の内科・かかりつけ医との連携ルートを確認することです。そして③訪問歯科診療・介護施設への対応準備(または連携先の確保)を進めることです。この3つが条件です。


どの対応も一度に全部行う必要はありません。まず地域の歯科医師会の研修や行政からの情報提供に定期的にアクセスし、自院の強みを活かせる領域から順番に対応していくのが現実的な進め方です。


参考:厚生労働省「歯科口腔保健の推進に向けた取組等について(令和7年3月版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001448480.pdf


参考:国立保健医療科学院「歯・口腔の健康づくりプランの方向性とその実現に向けた論点」
https://www.niph.go.jp/journal/data/73-5/202473050001.pdf