

色が落ちた海苔こそポルフィランが最も豊富で、捨てると肝がん予防のチャンスを失います。
ポルフィランは、アマノリ属の海藻(いわゆる食用海苔)の細胞壁に含まれる硫酸化多糖類の一種です。海苔全体の乾燥重量のうち、実に約30%をポルフィランが占めています。ちょうどフリスビー1枚分の重さ(全形海苔1枚=約3g)のうち、約1gがポルフィランという計算になります。
「海藻ならどれも同じでは?」と思いがちですが、ポルフィランはわかめや昆布には含まれない、海苔だけが持つ特有の成分です。これが重要なポイントです。
海苔が海面で育つとき、強い紫外線・熱・乾燥という3つのストレスにさらされます。ポルフィランはそのような過酷な環境から細胞を守るために分泌される、いわば「海苔の鎧」のような存在です。高い粘性と保水力を持ち、細胞をコーティングして守る働きがあります。
水溶性食物繊維であるため、お湯や水に溶けやすい特性があります。つまり、海苔をそのまま食べたり、海苔を使った汁物などを飲むことでも体内に取り込める成分です。これは使えそうです。
ただし、固い細胞壁の中に守られているため、通常の食事だけでは吸収効率が高いとは言えません。食べ方の工夫や、後述するポルフィランを活用した食品・化粧品なども選択肢に入ります。
有明海産海苔から抽出したポルフィランの商品化可能性について詳しい情報(株式会社MMO公式サイト)
2025年6月20日、慶應義塾大学SFC研究所の渡辺光博教授らの国際共同研究チームが、非常に注目される研究成果を国際学術誌『iScience』(Cell誌の姉妹誌)に発表しました。その内容は、「海苔のポルフィランが、肥満・糖尿病・代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)・肝がんを予防する可能性がある」というものです。
研究ではマウスを使って実験が行われました。高脂肪食を与えつつポルフィランを投与したグループと、投与しなかったグループとを比較したところ、ポルフィランを与えたマウスでは肥満・糖尿病・脂肪肝炎・肝がんの発症がいずれも抑制されたことが確認されました。
そのメカニズムはこうです。ポルフィランが腸内の細菌バランス(腸内細菌叢)を良い方向に変化させ、バクテロイデス属の善玉菌を増やします。すると、腸内で作られる有害な「二次胆汁酸」が減少し、炎症や肝がんのリスクが下がるという好循環が生まれます。さらに、腸管でのセラミド合成を低下させる効果も示唆されており、健康寿命の延伸にも貢献できる可能性があると研究チームは述べています。
現時点ではマウス実験の段階であり、人間に対して同じ効果が得られるかは今後の研究が待たれます。ただ、その背景にあるメカニズムが科学的に解明されつつある点は、食材としての海苔の価値を大きく後押しするものといえます。
肝がんや糖尿病は、日本人の死亡原因の上位を占める重大な疾患です。毎日の食卓に「海苔1〜2枚」というシンプルな習慣が、長期的な健康の土台を作る可能性があるということです。これは健康に関心を持つ方にとって見逃せない情報です。
慶應義塾大学SFC研究所の公式発表ページ(ポルフィランと肝がん・糖尿病予防の研究詳細)
ここで知っておいてほしいのが、「色落ち海苔」の話です。
通常、海苔は鮮やかな黒緑色をしています。しかし、生育段階で海水中の栄養塩(窒素・リンなど)が不足すると、光合成に必要な色素タンパク質が減少し、海苔の色が黄色や茶色に褪せていきます。これが「色落ち海苔」と呼ばれる状態で、見た目が劣るとして通常は廃棄対象となっています。
ところが、この色落ち海苔こそ、ポルフィランが豊富に含まれているのです。
なぜかというと、ポルフィランは海苔が過酷な環境(栄養不足・乾燥・紫外線)にさらされるほど多く分泌されると考えられているからです。つまり、ストレスを受けた海苔がポルフィランをより多く作り出すという逆転現象が起きます。先述の慶應大の研究チームもこの点に着目し、「廃棄される色落ち海苔を活用することで食品廃棄物の削減と疾患予防の両立が可能」と提言しています。
食品ロスの観点でも非常に価値のある発見です。
一般家庭では、袋の中で変色した海苔を「悪くなった」と判断して捨てることがあると思います。しかし変色≠品質劣化ではなく、場合によってはポルフィランが豊富な可能性もあります。もちろん、カビや異臭があるものはNGです。見た目が少し褪せているだけなら、佃煮や汁物の具材として活用することを検討してみてください。つまり食べ方次第で損か得かが決まります。
海藻の発酵性食物繊維と腸内細菌叢の関係についての専門家コラム(発酵性食物繊維研究会)
「腸活」という言葉が広く知られるようになりましたが、腸内環境を整えるためには「何を食べるか」よりも「腸内の善玉菌にとって何がエサになるか」が重要です。ポルフィランはその「エサ(プレバイオティクス)」として非常に優秀な働きをします。
2010年に科学誌『Nature』に掲載されたフランスの研究チームによる報告では、ポルフィランを代謝できる酵素を持つ腸内細菌(バクテロイデス・プレビウス)が、日本人の腸には高い頻度で存在するのに対し、北米人にはほぼ存在しなかったことが明らかになりました。これは、日本人が古くから海苔を食べ続けてきたことで、腸内の細菌がポルフィランを分解する能力を獲得したと考えられています。まさに食文化と進化の産物です。
毎日の日本食に海苔を取り入れることで、この善玉菌を育てることができるというわけです。
海苔1枚(全形・約3g)には約1.1gの水溶性食物繊維が含まれています。厚生労働省が示す成人女性の1日の食物繊維推奨量は16g以上ですが、現代の平均摂取量は14g前後とされています。つまり毎日2〜3枚の海苔を食べるだけで、不足分の約2〜3gを手軽に補えます。ヨーグルトや納豆などの発酵食品と一緒に食べると、プロバイオティクス(善玉菌そのもの)とプレバイオティクス(善玉菌のエサ)のシナジー効果が期待できます。これが基本です。
腸内細菌が整うと、便秘の改善・免疫力向上・血糖値の安定化など、多くのメリットが連鎖します。海苔を「腸活の入口」として位置づけることで、日々の食習慣がより意味深いものになります。
海苔の食物繊維と腸活・便秘解消効果について(山本山公式コラム)
ポルフィランの魅力は健康効果だけではありません。美容・スキンケア面での活用にも注目が集まっています。
先述の通り、ポルフィランは海苔が紫外線・乾燥・高温という過酷な環境から自らを守るために生成する成分です。その高い保湿力・保水力は、実は肌への効果にも直結します。
2024年3月、株式会社西部海苔店と近畿大学薬学部が共同研究を発表しました。海苔から抽出したポルフィランを化粧品に応用する技術を確立し、「凍結乾燥」による高純度抽出に成功。ヒアルロン酸と比較して「ベタつきが少なくサラッとした使用感」という特徴があり、化粧品配合に非常に向いていることが示されています。
すでに「PORPHYNURSE+(ポルフィナース)」というポルフィラン配合のオールインワンジェルが商品化されており、アルコール・防腐剤・パラベン・合成香料フリーという自然派志向の製品として展開されています。
食べても塗っても体にやさしい成分といえます。
日頃から海苔を食べることで内側からポルフィランを摂取しつつ、ポルフィラン配合の化粧品で外側からもアプローチするという「インナー&アウターケア」の組み合わせは、日本の食材を活かした新しい美容習慣として広がっています。
なお、ポルフィランに含まれる硫酸基(硫酸化多糖)は、細胞の炎症を抑制する効果(ヒアルロニダーゼ阻害活性)も持つとされており、肌荒れや赤みの軽減にも期待が持てます。意外ですね。
食卓で毎日何気なく食べている海苔の中に、これだけの美容パワーが眠っているのです。
西部海苔店と近畿大学薬学部によるポルフィラン化粧品の共同研究発表(Be-Story)