口腔機能向上加算の算定要件を厚生労働省基準で完全解説

口腔機能向上加算の算定要件を厚生労働省基準で完全解説

口腔機能向上加算の算定要件を厚生労働省基準で徹底解説

歯科衛生士を外部から「業務委託」しても、この加算は1円も取れません。


📋 この記事の3つのポイント
(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いを押さえる

単位数の差は1回10単位。最大の違いはLIFEへのデータ提出義務の有無です。両方を同時算定することはできません。

⚠️
算定できない対象者を必ず確認

医療保険で摂食機能療法を算定中の利用者や、他事業所で既に算定されている利用者には、たとえ口腔機能が低下していても算定不可です。

📝
実地指導で指摘されない計画書のポイント

アセスメント・目標・プログラム内容の3点が論理的に連動していることが最大の評価基準。「継続します」だけの記録は実地指導で即指摘されます。


口腔機能向上加算とは:厚生労働省が示す目的と背景

口腔機能向上加算は、2006年(平成18年度)の介護報酬改定で創設された加算です。口腔機能の低下が認められる利用者、または低下するおそれのある利用者に対して、専門職が計画的にサービスを提供した場合に算定できます。


この加算が生まれた背景には、高齢者の「オーラルフレイル」と健康リスクの深刻な関係があります。厚生労働省および公益社団法人日本歯科医師会が示したデータによると、オーラルフレイルの状態にある高齢者は、身体的フレイル発症リスクが2.41倍に上昇し、要介護認定に至るリスクも2.35倍高くなるという結果が出ています。これはがんのリスク要因と比較しても見劣りしない数字です。歯を失ったり、むせやすくなったりすることは、単なる口の中の問題ではなく、全身の健康状態を左右する重大なサインなのです。


誤嚥性肺炎は高齢者の死因の上位を占めており、口腔機能の維持・向上はその予防に直結します。にもかかわらず、通所介護事業所における算定率は依然として低く、厚生労働省の調査(令和5年度)では、加算(Ⅰ)が7.9%、(Ⅱ)が6.0%にとどまっています。これはすなわち、多くの事業所でまだ活用しきれていない加算であると同時に、正しく要件を把握すれば競合他社との差別化になりえるチャンスでもあります。


2021年(令和3年度)の改定では、科学的介護情報システム「LIFE」の活用を前提とした口腔機能向上加算(Ⅱ)が新設されました。算定の仕組みが2段階になったことで、各要件の理解が一層重要になっています。


参考:厚生労働省「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(令和5年度介護給付費等実態統計)」
厚生労働省|通所介護の加算算定状況に関する資料(PDF)


口腔機能向上加算(Ⅰ)(Ⅱ)の算定要件と単位数の違い

加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の単位数は以下のとおりです。


区分 単位数(1回あたり) 要支援者(月あたり) 要介護者(月あたり)
口腔機能向上加算(Ⅰ) 150単位 月1回まで 月2回まで
口腔機能向上加算(Ⅱ) 160単位 月1回まで 月2回まで


単位数の差は1回あたり10単位ですが、(Ⅰ)と(Ⅱ)を同時に算定することはできません。
(Ⅱ)を算定する場合は(Ⅰ)の要件を満たした上でLIFEへのデータ提出が求められます。


📌 加算(Ⅰ)の算定要件


厚生労働省が示す算定要件は次の4点です。


  • 人員配置:言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員のいずれかを1名以上配置すること(非常勤・兼務可)
  • 計画の作成:利用開始時に口腔機能を把握し、多職種が共同して「口腔機能改善管理指導計画」を作成すること
  • サービスの実施と記録:計画に沿って専門職が口腔機能向上サービスを行い、利用者の状態を定期的に記録すること
  • 定期的な評価:口腔機能改善管理指導計画の進捗状況を定期的に評価すること


ここで重要なポイントが2点あります。まず、人員配置は「非常勤・兼務可」です。つまり、週に数日だけ来てもらっている歯科衛生士でも、当該事業所に雇用されていれば要件を満たします。これが条件です。


ただし、ここに大きな落とし穴があります。「業務委託」で外部の歯科衛生士に依頼した場合は算定できません。厚生労働省のQ&Aでも明確に「委託することは認められない」と示されており、この点は実地指導でも厳しくチェックされます。派遣については「紹介予定派遣」に限り認められています。


📌 加算(Ⅱ)の追加要件


加算(Ⅱ)は加算(Ⅰ)の要件をすべて満たした上で、次の追加要件が必要です。


  • 利用者ごとの口腔機能改善管理計画等の情報を厚生労働省のLIFEに提出すること
  • LIFEから得られるフィードバック情報を、口腔衛生管理の実施にあたって活用していること


LIFEへの提出頻度は原則として「計画書作成または変更の翌月10日まで」、その後は少なくとも3か月に1回以上の更新が必要です。単にデータを送るだけではなく、フィードバックを受け取りケアに反映させることが要件の核心です。


参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定について(通所介護)」
厚生労働省|令和3年度介護報酬改定における算定要件(PDF)


口腔機能向上加算の対象者の選定条件と算定できないケース

加算の対象者は「利用者全員」ではありません。算定には、以下のいずれかの条件に該当し、かつ口腔機能向上を目的としたサービス提供が必要と認められることが前提となります。


✅ 算定できる対象者の条件


  • 📋 認定調査票の「嚥下」「食事摂取」「口腔清潔」の3項目のいずれかで「1(自立・できる)」以外に該当する方
  • 📋 基本チェックリストの口腔関連3項目(13:固いものが食べにくい、14:むせる、15:口が渇く)のうち2項目以上で「はい」に該当する方
  • 📋 その他、口腔機能が低下またはそのおそれがあると認められる方


認定調査票の基準に満たない場合でも、ケアマネジャーがケアプランに必要性を明記し、利用者の同意が得られれば算定できるケースもあります。これは意外と知られていない点です。


❌ 算定できない対象者のケース


要件に該当する利用者であっても、以下に当てはまる場合は算定できません。


  • 医療保険において歯科診療報酬点数表の「摂食機能療法」を算定している者
  • 複数の事業所を利用しており、他の事業所ですでに口腔機能向上加算を算定している
  • 口腔機能向上加算の算定に対して同意を得られない者


ここで注意が必要なのが、「医療保険で摂食機能療法を算定している者」の扱いです。2009年(平成21年)の改定以前は、歯科医療を受診中の利用者には一律算定できませんでした。現在はルールが変わっており、医療保険で摂食機能療法を算定していない場合で、かつ介護保険の口腔機能向上サービスとして「摂食・嚥下機能に関する訓練の指導または実施」を行っていれば算定できます。


つまり「歯科通院中だから算定できない」という思い込みは、17年前の古いルールに基づいた誤解です。現行ルールでは歯科通院中の利用者でも算定できるケースが多くあります。


複数事業所の利用者については、それぞれの事業所で同時に算定することは「基本的に想定されない」と厚生労働省Q&Aに明示されています。ケアマネジャーとの情報連携を必ず行いましょう。


口腔機能改善管理指導計画書の作成で実地指導に備える方法

実地指導での指摘事例で最も多いのが、計画書の記載内容です。「訓練実施」のスタンプ一つ、「前回同様継続します」の一文だけの記録では、要件を満たしていないとみなされる可能性があります。


計画書作成の核心は、「①アセスメントの結果」「②目標」「③プログラム内容」の3点が論理的につながっていることです。


項目 良い記載例 NG記載例
アセスメント お茶摂取時に週3回のむせあり。反復唾液嚥下テスト(RSST)30秒で1回。 口の動きが悪い。
短期目標 3か月後にRSSTを30秒で3回に改善し、むせ込みをなくす。 嚥下機能を向上させる。
実施内容 嚥下おでこ体操10回×2セット・唾液腺マッサージ(耳下腺・顎下腺)実施。 口腔体操、嚥下訓練。
モニタリング記録 RSSTが1回→3回に改善。短期目標達成のため、次の目標は〇〇とする。 特変なし。継続します。


数値による評価が鍵です。「RSSという反復唾液嚥下テストで30秒に3回できること」を目標に設定すれば、達成・未達成の判断が客観的にでき、計画の継続・終了もスムーズになります。


算定の流れについても整理しましょう。


  1. スクリーニング・アセスメント:口腔機能の低下または低下のおそれがある利用者を評価し、解決すべき課題を特定する
  2. 計画書の作成:多職種が共同して「口腔機能改善管理指導計画」を作成する
  3. 利用者・家族への説明と同意取得:目標と内容を説明し、同意を得てから算定を開始する
  4. サービスの実施と記録:計画に基づき専門職がサービスを提供し、内容と変化を具体的に記録する
  5. モニタリング・再評価:3か月ごとに課題と目標の進捗を評価し、継続・終了を判断する
  6. ケアマネジャーへの報告:評価結果を居宅介護支援事業所へ報告し、ケアプランに反映させる


計画書の様式例は厚生労働省が公開しており、事業所独自の様式や介護ソフトの帳票でも、必須項目が網羅されていれば問題ありません。


参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について(計画書様式例ダウンロード)」
厚生労働省|令和6年度介護報酬改定に関する資料(計画書様式あり)


算定率が低い理由と歯科医従事者が今すぐ取り組むべき理由

通所介護における口腔機能向上加算の算定率が約14%にとどまる背景には、4つの共通した障壁があります。専門職の確保の難しさ、書類作業の負担、関係者からの同意取得の煩雑さ、そして個別プログラムの立案への不安、です。これは本当に多くの事業所が直面している壁です。


それでも今取り組むべき理由がいくつかあります。


まず収益面です。月2回の算定(加算Ⅱ)では、1人の要介護利用者に対して160単位×2回=320単位が毎月加算されます。1単位あたり10円換算で計算すると、1人あたり月3,200円。利用者50人が対象なら、月16万円の収益増加につながります。2024年度の基本報酬が引き下げられた分を補える、有力な加算のひとつです。


次に差別化です。算定率が低いということは、逆に言えば「口腔ケアに力を入れている事業所」というだけで際立った存在になれるということです。これは事業所の選択肢として利用者やケアマネジャーから評価される強みになります。


そして地域連携という観点もあります。口腔機能向上加算を算定し実績データをLIFEに蓄積することで、地域の歯科医院・歯科医師会との連携がしやすくなります。歯科従事者にとっては、介護事業所と協力関係を築くうえで「加算算定の実態を知っている」ことは大きな武器になります。


同意取得については、「機能低下を防ぎます」ではなく「いつまでもおいしく食べ続けるためのサポートです」という伝え方に変えるだけで、利用者・家族の反応が変わります。口腔機能の低下は生活の質に直結すると、具体的に伝えることが大切です。


職員の負担感については、訓練を食事前の「みんなの習慣」として位置づけ、音楽に合わせたパタカラ体操など楽しさを演出する工夫が有効です。「やらされ感」がなくなると、職員のモチベーションも継続記録の質も上がります。


参考:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第219回)口腔機能向上加算の算定状況」
厚生労働省|通所介護における口腔機能向上加算の算定実態(PDF)