イギリスEU離脱理由と背景を解説

イギリスEU離脱理由と背景を解説

イギリスEU離脱理由と背景

ブレグジット決定の主要要因
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移民流入への不安

EU域内の人の移動自由化により、年間20万人の純増で雇用への懸念が拡大

💰
財政負担問題

週350万ポンドのEU拠出金削減により、国内医療などへの予算増額を主張

⚖️
主権回復への願望

「テイクバックコントロール」スローガンで自国決定権の重要性を強調

イギリスEU離脱を決めた移民問題の深刻さ

2016年のブレグジット決定において、移民問題は最も大きな要因の一つでした。特に東欧諸国のEU加盟後、イギリスに住むポーランド人は2001年の約5万8千人から2016年には100万人を超え、15年間で約94万人も増加しました。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%80%A3%E5%90%88%E9%9B%A2%E8%84%B1

 

EU域内の人の移動自由化により、経済的に豊かなイギリスへ多くの外国人労働者が流入し、離脱決定直前の2016年頃には毎年EU各国からの移民だけで年20万人が純増していました。この状況に対して、イギリス国民の間で以下のような不安が広がりました:
参考)https://meirin-zemi.jp/blog_juken/2020/02/post-398.html

 

離脱派はこれらの国民の不満を巧みに吸い上げ、その矛先をEUに向けることで支持を拡大させました。

イギリスEU離脱による支出削減の経済的魅力

Brexit離脱派が強力な武器として使用したのが、EUへの財政拠出に関する議論でした。Vote Leave(離脱派キャンペーン団体)は、イギリスがEUに支出している公的予算の額を「週あたり約350万ポンド以上」と主張し、この金額は「毎週新しい国民保険サービス病院を建設する」程度の規模に相当すると訴えました。
参考)https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-36628343

 

離脱派の経済的メリットに関する主張は以下の5点に集約されました:

項目 具体的内容
支出削減 週350万ポンドのEU拠出金削減
経済的利益 国内投資への予算回帰
自由貿易 EU外諸国との独自貿易協定
テロからの保護 国境管理の自主性確保
国民保険サービス保護 医療制度への予算増額

しかし実際には、イギリスはこの拠出金の「半分以下しか回収できていない」上、ブリュッセル(EU本部)が使途を決定するため、イギリス政府がコントロールできないという問題も指摘されました。

イギリスEU離脱派が訴えた主権回復論

ブレグジット推進派の中核的メッセージは「Take Back Control(主権を取り戻そう)」というスローガンでした。これは単なる政治的標語ではなく、イギリスの歴史的アイデンティティと深く結びついた概念でした。
参考)https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3681

 

イングランド・ナショナリズムの影響
離脱派エリートがアングロ圏を提唱する背景には、イングランド中心史観に根ざした地域ナショナリズムの存在がありました。ベン・ウェリングス(モナシュ大学)の研究によれば、EU離脱を推進する政治家や知識人は、イングランドの歴史や文化を重視した議論を展開していました。
大英帝国の誇りと現実のギャップ
かつての大英帝国としての誇りを持つ高齢者層は、EUに規制・支配されることに強い抵抗感を示しました。「わたしたち(英国)がEUを必要とする以上に、EUはわたしたち(英国)を必要としている」というフレーズが繰り返され、イギリスの自立性と重要性が強調されました。
政治的主導権の問題
2016年国民投票の地域別結果を見ると、連合王国を構成する4地域で最大規模を誇るイングランドの意思が決定的でした。スコットランドと北アイルランドではEU残留支持が過半数だったにもかかわらず、総人口の約84%を占めるイングランドで離脱票が約53%に達したことが、全体の結論を規定しました。

イギリスEU離脱を後押しした格差拡大と経済不安

ブレグジット決定の背景には、深刻な経済格差の問題がありました。2008年の世界金融危機以降、イギリス政府は銀行救済のために公的資金を投入し、その結果生じた巨額の財政赤字に対処するため、戦後最大規模の緊縮財政を実施していました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8483423/

 

格差の実態と社会的影響
国際NGOオックスファムの調査では、2017年に世界で新たに生み出された富の82%を、世界で最も豊かな1%が手にしたことが明らかになりました。階級社会が色濃く残るイギリスでは、この格差問題が特に顕著で、以下のような社会層で不満が高まっていました:

  • 労働者層 - EU諸国からの移民に職を奪われているという実感
  • 低所得者層 - 自分たちの社会保障費削減と移民予算への疑念
  • 地方住民 - 金融中心のロンドンと地方の経済格差

「恐怖作戦」の逆効果
残留派は経済専門機関による警告を集中的に展開しました。CBI(英産業連盟)、IMF、OECD、イングランド銀行などが次々と離脱による経済的打撃を警告したものの、国民はこれらを「私利私欲から英国を批判する無責任な金持ちエリート」として一蹴しました。
さらにオバマ米大統領の「離脱すれば通商協定で列の最後尾に並ぶ」という警告も、かえって反発を招く結果となりました。

イギリスEU離脱決定に見る現代政治の複雑な構造

ブレグジット決定は、単純な離脱・残留の二択を超えた複雑な政治構造を浮き彫りにしました。2016年の国民投票は「議会対国民」という構図で捉えられ、ポピュリズム的な物語を生み出し、イギリスの主権がどこにあるべきかという根本的な問題を提起しました。
参考)https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/603206F87FAEFFCC9F98A3F4B25DB01B/S1049096523000367a.pdf/div-class-title-brexit-as-an-identity-political-identities-and-policy-norms-div.pdf

 

政党内分裂と政治的不安定
キャメロン首相(当時)は保守党内のEU離脱派を封じ込め、党内基盤を固める目的で国民投票を実施しましたが、結果的にこの戦略は裏目に出ました。保守党内の欧州懐疑派の圧力、右派メディアの反EU論調、イギリス独立党(UKIP)の伸張などが背景にありました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaianzenhosho/48/4/48_39/_pdf/-char/ja

 

「Leavers」と「Remainers」のアイデンティティ形成
国民投票の結果、イギリス社会に「離脱派(Leavers)」と「残留派(Remainers)」という新しい政治的アイデンティティが生まれました。これらは既存の政党支持を横断する形で形成され、有権者が深い感情的愛着を持つようになりました。
地政学的考察の重要性
長期的な地政学的視点から見ると、イギリスとEUの関係には反復的な問題と危機のパターンが存在していました。特にNATOや中東エネルギー安全保障をめぐる地政学的環境が、イギリスの欧州統合への参加姿勢に継続的な影響を与えてきました。
参考)https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/709B5DBD83B5B5B3D30E66380E3CF246/S0017257X21000014a.pdf/div-class-title-the-european-geopolitical-space-and-the-long-path-to-brexit-the-span-class-italic-government-and-opposition-span-leonard-schapiro-lecture-2020-div.pdf

 

ブレグジット決定は、グローバリゼーションの進展に対する国民の複雑な反応を示すとともに、民主主義社会における政治的意思決定の難しさを改めて浮き彫りにした歴史的出来事として位置づけられます。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/23311886.2021.1962585?needAccess=true