

アキアカネの成虫は冬を越せず、卵か幼虫の姿で水の中だけが冬越しの場所です。
秋の田んぼや川沿いで群れ飛ぶ真っ赤なトンボ、アキアカネ。多くの方が「あのトンボはどこかで冬を越しているのでは?」と思うかもしれません。ところが実際には、成虫のアキアカネは冬を越すことができません。
アキアカネの成虫が生きられる気温の下限はおおよそ10℃前後とされており、気温が下がる11月以降には次々と命を落としていきます。秋の終わりに水田や池、湿地などの水辺で産卵を終えると、その役割を果たした成虫は短い一生を終えるのです。つまり冬越しは「卵」か「幼虫(ヤゴ)」だけです。
産み付けられた卵は水中や湿った土の中でじっと寒さに耐えます。卵の状態で越冬する場合と、すでに孵化した幼虫(ヤゴ)の状態で水底の泥の中に潜んで越冬する場合の2パターンがあります。ヤゴは水中に溶け込んだ酸素でえら呼吸を行い、ほとんど動かずに春を待ちます。
意外ですね。成虫が冬を越せないということは、毎年秋に見ているあの赤いトンボたちは、その年に生まれた「最初で最後の秋」を生きているわけです。
水田や池の底にある泥は断熱材のような役割を果たし、冬の外気温が氷点下になっても水底の温度は比較的安定しています。そのため、ヤゴにとって水の底は冬を生き延びるための最適な場所です。冬の水辺が「命のゆりかご」だということですね。
| 状態 | 冬越しできるか | 場所 |
|---|---|---|
| 🦟 成虫 | ❌ できない | —(秋に死亡) |
| 🥚 卵 | ✅ できる | 水田・池の水中・湿土 |
| 🐛 幼虫(ヤゴ) | ✅ できる | 水底の泥の中 |
アキアカネの一生は、大きく「卵→幼虫(ヤゴ)→成虫」という3段階で構成されています。この流れを知ると、冬越しの意味がよりくっきり見えてきます。
まず産卵は秋(9〜11月ごろ)に行われます。メスは水田や池の水面を飛びながら、水中や湿った泥の上に次々と卵を産み落とします。1回の産卵で数百個もの卵を産むこともあります。産卵後、成虫は短い時間でその命を終えます。
卵は水温が低い冬の間は発育が止まり、じっとした状態を保ちます。春になり水温が上昇し始めると孵化が始まり、幼虫(ヤゴ)となります。ヤゴは水の中で小さな水生昆虫や微小な生き物を食べながら成長します。これが基本です。
ヤゴの期間はおよそ1〜2ヶ月程度と比較的短く、何度か脱皮を繰り返した後、初夏(5〜6月ごろ)に水辺の植物の茎などを登って羽化します。羽化直後の成虫はまだ体が黄色っぽく、あの鮮やかな赤色にはなっていません。
羽化した成虫はその後、平地の暑さを避けるために高山へと移動します。高山で夏を過ごし、秋になって気温が下がると再び平地へ戻ってきます。そして産卵を経て、命を次の世代へとつなぐのです。
かつて日本の秋の風物詩といえばアキアカネの大群でした。しかし現在、そのにぎやかな光景を見る機会は大幅に減っています。1990年代と比較して、地域によっては個体数が最大で約10分の1以下にまで激減したという調査データもあります。
最も大きな原因として指摘されているのが、農薬(特に殺虫剤・除草剤)の影響です。水田に使われるネオニコチノイド系農薬は、ヤゴが主食とする水生昆虫を大幅に減らすだけでなく、ヤゴ自身にも悪影響を与えることが研究で明らかになっています。農薬が変わったということですね。
また、水田の乾田化(田植え後に水を張らない期間を長くする農法)も大きな影響を与えています。ヤゴが育つためには水田に水が張られている期間が十分に必要ですが、効率的な農作業のために水を早く落とす農家が増えたことで、ヤゴが育つ環境が失われました。
さらに、コンクリートで護岸された河川や池の整備も、産卵場所や幼虫の生育場所を奪う一因となっています。自然な泥底の水辺が失われると、アキアカネは産卵場所を見つけられません。
| 原因 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 🌾 ネオニコチノイド系農薬 | ヤゴの餌となる水生昆虫が激減、ヤゴ自体にも毒性 |
| 💧 乾田化・水管理の変化 | 水が張られる期間が短く、ヤゴの生育期間が不足 |
| 🏗️ 河川・水辺のコンクリート化 | 泥底の産卵・生育場所が喪失 |
| 🌡️ 地球温暖化 | 高山での夏の避暑環境が変化し、成虫の生存に影響 |
アキアカネの減少は、水田生態系全体の健全さを示すバロメーターとも言われています。水辺に関心を持つことは、身近な自然環境を守ることにもつながります。お子さんと近くの水田や公園の池を観察してみることで、地域の自然の変化に気づくきっかけになるかもしれません。
アキアカネの保全に取り組む団体として、公益財団法人日本自然保護協会などが情報を発信しています。地域の生き物観察会に参加する際の参考にしてみてください。
公益財団法人 日本自然保護協会(NACS-J)- 自然観察や生物多様性に関する情報
アキアカネの冬越しを語る上で、水田の存在は切っても切り離せません。日本の水田はアキアカネにとって、産卵・幼虫の育成・越冬を同時にまかなう、まさに「命のインフラ」と言える場所です。
水田に卵を産み付けるのは秋の稲刈り前後が中心です。稲が刈られた後でも水が残る水田では、孵化したヤゴが水中で越冬します。水深が浅くても、水底の泥の中はある程度の温度が保たれるため、ヤゴにとって十分な越冬環境になります。これは意外な事実です。
一方で、稲刈り後に水を完全に落として乾かした水田(乾田)では、卵が干上がったり、孵化したヤゴが死んでしまうリスクがあります。このため、「冬期湛水(とうきたんすい)」という農法が注目されています。これは稲刈り後も冬の間、水田に水を張り続ける方法で、ヤゴや水鳥など多くの生き物の越冬環境を意図的に守る取り組みです。
冬期湛水は環境保全型農業の一つとして位置づけられており、農水省も支援する「多面的機能支払交付金」の対象にもなっています。自然に配慮した農法だということですね。
地域によっては「冬水たんぼ」として観光資源にもなっており、長野県や新潟県などでは冬の田んぼに水鳥やトンボのヤゴが共存する風景が見られます。近くにそのような水田がある地域の方は、冬の散歩コースに加えてみると、自然の豊かさを実感できるはずです。
農林水産省 環境保全型農業直接支払交付金 - 冬期湛水など環境保全農法の支援制度について
ここからは、少し違う視点のお話です。アキアカネの生態を「知識」として持つだけでなく、実際に身近で観察する楽しみ方を紹介します。これは検索で上位に出てくる記事にはあまり書かれていない、主婦目線の実用的な視点です。
秋にアキアカネを見かけたとき、体の色に注目してみてください。鮮やかな赤色になっているのはオスだけで、メスは黄褐色のままです。オスが赤くなるのは性成熟のサインで、赤色が濃いほど繁殖期が近いことを示しています。これは使えそうです。
また、アキアカネが大量に飛んでいる日は「翌日は晴れ」という昔からの言い伝えがあります。これは気圧の変化を感知した昆虫が活発に動く現象と関連しているとも言われており、完全な迷信とは言い切れない側面もあります。お子さんと「明日の天気予報」として観察するのも一つの楽しみ方です。
庭の小さな池やビオトープにアキアカネが産卵しに来ることもあります。直径50cm程度(ちょうど丸い洗い桶くらい)の容器でも、底に泥を入れて水草を植えることで、産卵・幼虫育成の環境を作ることができます。専用の「ビオトープキット」はホームセンターやオンラインショップで3,000〜8,000円程度から販売されており、手軽に始められます。
水辺の自然を手元で再現することは、子どもの自然観察の教材にもなります。アキアカネの卵がヤゴになり、やがて羽化する過程は、命の循環を体感できる貴重な機会です。難しく考えず、小さな「水のある場所」を一か所作ってみるだけで始められます。
環境省 生物多様性センター - 国内の生物多様性・生態系情報の公式データベース