

ウミスズメのヒナは、巣で育てられずに生後1〜2日で海に出されます。
ウミスズメは全長約25〜26センチメートルほどの小型の海鳥で、体はずんぐりと丸みを帯び、首が短いシルエットが特徴的です。大きさのイメージとしては、ハトよりも少し小さく、スズメよりはずっと大きい、手のひらにのるくらいのサイズです。
体の色は頭部が黒っぽく、腹側は白く、背中は青みがかった灰色。白黒のコントラストがはっきりしていて、遠くから見ても識別しやすい鳥です。夏羽になると後頭部に白い模様が現れ、英名の「Ancient murrelet(古代のウミスズメ)」というのも、この白髪のような後頭部の模様を老人に例えたところから来ています。意外ですね。
嘴は短くてやや太く、淡い黄白色をしています。脚は体の後方についており、これは水中での遊泳に適した構造です。陸上では少し不格好な歩き方になりますが、水中では非常に機敏に動くことができます。
飛ぶ姿も独特で、空高く舞い上がることはほとんどなく、水面すれすれを低空で飛びます。翼は比較的小さく、飛行よりも潜水に特化した形になっているため、羽ばたき数が多い慌ただしい飛び方をします。これがウミスズメ科全般に共通した特徴です。
分類上はチドリ目ウミスズメ科ウミスズメ属に属し、学名は「Synthliboramphus antiquus」。北太平洋を広く分布域とし、アリューシャン列島や千島列島などで繁殖します。日本では北海道の天売島などごく少数の繁殖地が知られています。
サントリー愛鳥活動「日本の鳥百科」ウミスズメ:形態・生態の詳細説明ページ
ウミスズメの繁殖は非常にユニークです。繁殖期には夜行性になり、昼間は目立たないようにひっそりと行動します。繁殖地では木の根元・地面の穴・岩の隙間などに巣を作り、3月下旬から6月下旬にかけて2個の卵を産みます。
驚くべきはそのヒナの育て方です。ヒナが孵化してからわずか1〜2日で、親鳥は鳴き声でヒナを誘導し、巣から海へと連れ出します。まだ飛べないヒナが海へ飛び込み、以後は洋上で親から給餌を受けながら育ちます。巣には二度と戻りません。
これが冒頭の「驚きの一文」の背景です。つまり、ウミスズメのヒナは「巣で親に育てられる」という一般的な鳥のイメージとはまったく異なる育ち方をします。生後1〜2日で海という過酷な環境に出るのです。これは生存戦略として、陸上での天敵(カラスやネズミなど)から早期に逃れるためと考えられています。
普段の生活では、10羽前後の小さな群れで沖合の海上に浮かんで過ごします。潜水は翼を使い、魚類や甲殻類、アミ類などを捕食します。水深40メートル近くまで潜ることが記録されており、定置網や刺し網に混獲されて死亡するケースが週に数羽〜十数羽にのぼることもあります。
1997年に起きたロシアタンカー「ナホトカ号重油流出事故」では、日本海沿岸に漂着した死骸1,311体のうち約3分の1がウミスズメだったとされており、油汚染による被害がいかに大きいかがわかります。
繁殖期以外は非繁殖地の海上で小群をつくりながら過ごし、北海道から本州沿岸にかけて冬鳥として観察できます。環境省レッドリストでは「絶滅危惧IA類(CR)」に指定されており、保護が急務の種です。
Wikipedia「ウミスズメ」:分類・形態・生態・人間との関係まで詳細な情報がまとめられています
広い意味での「ウミスズメ」は、チドリ目ウミスズメ科(Alcidae)に属する海鳥の総称でもあります。この科には個性的な仲間が多く、日本でも複数の種類を観察できます。ここでは代表的な種類を紹介します。
まず「カンムリウミスズメ(Synthliboramphus wumizusume)」は、日本近海の固有種で全長約24センチメートル。頭部に黒いトサカ状の冠羽が生える特徴的な姿をしており、国の天然記念物に指定されています。推定個体数は5,000〜10,000羽と非常に少なく、ウミスズメ科の中で最も絶滅が心配される種類です。
「エトピリカ(Fratercula cirrhata)」は全長約39センチメートル。繁殖期になると目の後ろから長い飾り羽が伸び、カラフルなくちばしが非常に目立ちます。北海道東部の海上で観察でき、「えとぴりか」はアイヌ語で「くちばしが美しい」という意味です。これは使えそうです。
「ウトウ(Cerorhinca monocerata)」は全長約35〜38センチメートルで、北海道天売島では約80万羽が繁殖する大コロニーで知られています。夕方に一斉に帰巣する様子は圧巻で、観光名所にもなっています。
「ウミガラス(Uria aalge)」は「オロロン鳥」の愛称でも知られ、天売島の繁殖個体は絶滅寸前と言われるほど数が激減しており、現在は十数羽程度しか確認されていません。
これらはすべてウミスズメ科に属し、翼を使って水中を泳ぐ「翼脚潜水」という共通の特徴を持ちます。ペンギンに近い泳ぎ方をしながらも、空を飛ぶ能力を持つ点がペンギンとの大きな違いです。つまり「飛ぶ能力と泳ぐ能力を両立させた鳥」ということですね。
| 種類 | 全長 | 特徴 | 日本での状況 |
|---|---|---|---|
| ウミスズメ | 約26cm | 黒頭・白腹・灰背 | 冬鳥(北日本中心) |
| カンムリウミスズメ | 約24cm | 黒い冠羽・天然記念物 | 固有種・絶滅危惧II類 |
| エトピリカ | 約39cm | 派手なくちばし・飾り羽 | 北海道東部・冬鳥 |
| ウトウ | 約35〜38cm | 額に突起がある | 天売島・大繁殖地 |
| ウミガラス | 約38〜43cm | 直立姿勢・オロロン鳥 | 天売島・絶滅危惧 |
NPO法人エトピリカ基金「北海道にいる海鳥」:各種ウミスズメ科の特徴と生息地を解説
ウミスズメを実際に観察したいなら、まず「いつ・どこで」を押さえておくことが大切です。ウミスズメは日本では主に冬鳥として渡来し、北日本の海上や港で10月〜3月頃に見られます。これが基本です。
観察スポットとしては北海道が最も充実しています。根室の納沙布岬周辺では冬季に越冬中のウミスズメを観察でき、歯舞港のパノラマクルーズではウミガラス、ウミバト、ケイマフリ、コウミスズメなど複数のウミスズメ科の鳥を一度に見ることができます。北海道の羽幌沖に浮かぶ天売島は、8種類・約100万羽の海鳥が繁殖する「海鳥の聖地」で、4月〜7月が繁殖シーズンです。
カンムリウミスズメを目的にするなら、伊豆半島の伊東市・富戸港発着の「光海丸」海鳥クルーズがおすすめです。冬から春にかけて岸近くでカンムリウミスズメを観察できる数少ない機会です。厳しいところですが、海上での観察のため荒天時は欠航になります。事前の天候確認は必須です。
観察の際に役立つコツをいくつか挙げます。
観察マナーとして、野鳥に近づきすぎないこと、繁殖地では特に静かに行動することが重要です。カンムリウミスズメは繁殖地への人の立ち入りや騒音に敏感で、親鳥が巣を放棄してしまうことがあります。これに注意すれば問題ありません。
日本野鳥の会「カンムリウミスズメを見に行こう!」:観察クルーズの情報や観察のポイントを詳しく解説
カンムリウミスズメは日本近海だけに生息する固有の海鳥で、世界の個体数は最大でも約1万羽とされています。絶滅危惧種として国の天然記念物にも指定されているにもかかわらず、その数は減り続けています。
減少の主な原因は複数あります。まず、釣りや海洋レジャーの拡大によって繁殖地の離島に人が立ち入るようになり、卵や雛が踏まれたり、親鳥が巣を放棄してしまうケースが増えています。次に、釣り人が放置するゴミや撒き餌に引き寄せられたカラスが、卵や雛を食い荒らす被害もあります。さらに、漁業の刺し網への混獲や油汚染による死亡例も深刻です。痛いですね。
公益財団法人「日本野鳥の会」は2009年から保護活動を本格化させ、静岡県神子元島への人工巣の設置(2010年〜)や、繁殖地でのモニタリング調査を続けています。これは世界初の取り組みとして注目されました。
では、私たちにできることはあるのでしょうか? 大きく分けて次のような支援方法があります。
日本野鳥の会へのカンムリウミスズメ保護寄付については、会の公式サイトから確認できます。1,000円からでも支援が可能で、活動内容の報告書も公開されています。これは使えそうです。
日本野鳥の会「カンムリウミスズメってどんな鳥?」:現在の個体数・減少理由・保護活動の詳細
日本野鳥の会カンムリウミスズメ保護事業ページ:人工巣設置や支援方法の案内