

研修医なのに、施設を変えるだけで月7万円以上手取りが増えます。
歯科医師国家試験に合格した後、ほぼ全員が受けることになる「歯科医師臨床研修」。この期間中の給料について、「とにかく安い」というイメージを持っている人は多いでしょう。実際、全国的な相場は月10〜15万円程度とされており、一般的な大卒新入社員の平均初任給(約22万〜23万円)と比べると、かなり低い水準です。
ただし、ひと口に「月10〜15万円」といっても、施設の種類によって給与の差は相当大きくなります。大学病院での研修の場合、月額18万〜25万円程度が多く見られます。一方、一般開業医(診療所)では、月額25万〜40万円程度という求人も少なくありません。地方の診療所では人材確保の観点から、意識的に高い給与を設定するケースが目立ちます。
| 施設の種類 | 月額給与の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 国立大学病院 | 月10〜18万円 | 日給制が多い。教育体制は充実。 |
| 私立大学病院 | 月18〜25万円 | 月給制が比較的多め。研究活動あり。 |
| 一般診療所 | 月25〜40万円 | 診療参加型で実践経験が多い。 |
| 病院(労災・総合病院等) | 月25〜30万円 | 手当込みの月給制が多い。 |
さらに注意すべきは、「日給制か月給制か」という違いです。日給制の場合、休暇を取ったり研修日が祝日と重なったりすると、その分だけ収入が減少します。例えば東京科学大学病院(旧・東京医科歯科大学病院)は2025年度実績で日給9,515円。月20日勤務で約19万円になる計算ですが、連休が重なる月は15万円台に落ち込む可能性もあります。月給制と比べた実質の年間収入差は想定以上に広がることがあるため、施設選びの際には給与形態も必ず確認しましょう。
つまり、施設の種類と給与形態の両方を見ることが基本です。
参考:歯科医師臨床研修制度における処遇・給与に関する厚生労働省の方針
厚生労働省「研修歯科医の処遇」編 – 給与は臨床研修施設ごとに決定・社会保険加入の原則について
額面の給与だけを見て「この施設に決めよう」と思うのは、実は危険です。手取り額は額面から所得税・住民税・社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)を差し引いた金額になるため、額面より必ず低くなります。
おおよその目安として、年収の約20〜25%が各種控除として引かれます。例えば月額15万円の施設に勤めた場合、手取りは10〜13万円程度になります。一人暮らしをしていれば家賃・食費・光熱費だけで7〜10万円はかかりますから、生活が非常に厳しくなる計算です。これは厳しいところですね。
さらに、施設が社会保険に加入しているかどうかによっても手取りは変わります。厚生労働省の通知では、臨床研修施設は原則として研修歯科医を健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険に加入させる必要があると定めています。しかし、実態として社会保険の整備状況は施設によって差があります。社会保険に加入している施設では折半で保険料を負担してもらえるため、実質的な手取りが高くなる傾向があります。
手取りを考えるときは「額面÷0.8」が最低ラインの目安です。
月額15万円の施設なら手取りは約12万円、月額25万円の施設なら約20万円になる計算になります(個人差あり)。1万円の差が大学病院と診療所では月10万円以上に広がることもある点は、施設を比べる前にしっかり認識しておく必要があります。
参考:歯科医師の給与と手取り額の関係、控除の仕組みについて
「給料が少ないのなら、アルバイトで補えばいいのでは?」と考えるのは自然なことです。しかし、これは実行できません。法律上の制約があります。
歯科医師法および臨床研修に関する省令では、研修歯科医は「臨床研修に専念しなければならない」と定められています。厚生労働省が作成した「歯科医師臨床研修制度に関するQ&A」にも、「研修期間中にいわゆるアルバイト診療をすることはできません」と明記されています。これは医師の場合と同様の制約であり、違反した場合には研修の継続や修了証の交付に影響する可能性があります。
禁止されているのは「診療行為を伴う副業」です。つまり、塾講師や飲食店のアルバイトなど、歯科診療と無関係な副業については法律上の明示的な禁止規定はありません。ただし、多くの臨床研修施設の就業規則では副業全般を制限しているため、施設ごとの規定を事前に確認することが必要です。
結論は「診療アルバイトはできない」が原則です。
この制約があるからこそ、施設選びの段階で給与水準と生活費のバランスをしっかり計算しておくことが重要です。一人暮らしの場合は特に、月額15万円以下の施設を選ぶと生活費が赤字になるリスクがあります。事前に住居費・食費・交通費などを計算し、生活できるラインを超えているかを確認してから志望順位を決めましょう。
参考:アルバイト禁止の根拠と研修専念義務について
内閣府・厚生労働省「歯科医師臨床研修制度に関するQ&A」PDF – アルバイト禁止の法的根拠を明示
給料の差は施設の「種類」だけでなく、「プログラムの設計」によっても生じます。これは意外と知られていない点です。
例えば、同じ大学病院でも「単独型プログラム」(1施設でのみ研修)と「管理型プログラム」(大学病院+協力型クリニックの複数施設を経験)では、配属先が変わるタイミングで給与の規程が切り替わることがあります。大学病院では日給9,515円だった給与が、協力型クリニックに移った期間は月給30万円という形で切り替わるケースも実在します。
マッチングシステムでは、研修希望者の希望順位と施設側の希望を照らし合わせてマッチングが行われます。大学院研修との組み合わせや、2年目の扱いについてもプログラムによって異なります。1年目は研修医として月給制、2年目は「拡張プログラム」として雇用形態が変わり待遇が上がるケースもあります。
🔍 施設選びで給与以外に確認すべき主なポイント
全国29大学の研修施設比較情報(給与・試験日程・プログラム)は、歯科学生向け専門メディアや各大学のD-REIS掲載情報で一覧確認が可能です。最低〜最高の施設で月7万600円以上の差がある事実を踏まえると、「なんとなく大学病院にしよう」という選択は年間84万円以上の損につながる可能性があります。施設比較は必ず複数の情報源を使いましょう。
参考:29大学研修施設の給与・試験日程・プログラム比較一覧
BRUSH(歯学部生向けメディア)「2026年度募集完全版 歯科医師臨床研修マッチング」– 施設別給与比較と選び方の解説
研修医期間の給料は低くても、その後の収入は大きく変わります。研修期間はあくまで1年間の「土台づくり」であり、その後のキャリアに応じて年収は段階的に上昇していきます。
研修終了直後(後期研修・勤務医1年目)では、月給が一気に30〜50万円前後になるケースが多く見られます。後期研修医の年収は施設によって差はありますが、650〜850万円程度が目安とされています。さらに、歯科医師としての専門性が高まり、認定医・専門医の資格を取得した段階では、勤務医でも月80万円を超える求人も存在します。
研修中に積んだ症例数と技術の幅が、後期研修先の選択肢の広がりに直結します。
具体的に言えば、研修中に矯正・口腔外科・歯周病など特定分野を集中的に経験できた人は、その分野に特化した後期研修先に採用されやすくなり、そこでの収入が早期に上がる傾向があります。一方で、基本処置しか経験できなかった場合、後期研修後も一般的なクリニック勤務にとどまりやすく、収入の上昇が緩やかになりがちです。
つまり、研修先は「1年間の給料」ではなく「10年後の収入設計」で選ぶことが重要です。
開業を目指すなら、診療所での経営目線・患者対応・実技の幅広い経験が得られる施設を選ぶと、独立後の収益化スピードに大きな差が生まれます。実際、開業歯科医師の場合は年収1,000万円以上を目指せるレンジに入る割合も高く、厚生労働省の賃金構造基本統計調査では勤務医平均が約810万円(2022年)であるのに対し、開業医はそれ以上の収益構造になるケースが多く報告されています。
研修施設の候補を絞る際には、歯科専門の求人・情報サービス(1D、DentAL-Happy、D-REIS等)を活用して、給与・症例数・指導体制を横並びで比較するのが効率的です。いくつかに絞ったら見学に行き、実際の指導歯科医や先輩研修医から話を聞くことが、ミスマッチを防ぐ最善策です。
参考:研修医の給与と将来キャリアの関連について

レジデントノート 2023年8月 Vol.25 No.7 栄養療法 ひとまずこれだけ!〜栄養剤・食形態、投与方法の選択、患者背景別の注意点など最低限おさえておきたい知識を集めました