

マイクロ波治療は、周波数2400~2500MHzの電磁波を照射して体内の水分分子を振動させ、深部組織に熱を発生させる温熱療法です。しかし、ペースメーカーなどの体内植込型医療機器を使用している方には絶対禁忌とされています。マイクロ波が発する電磁波がペースメーカーの誤作動を引き起こし、心臓のリズム調整機能に重大な影響を及ぼす可能性があるためです。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_11606
金属探知器から発生する電磁波でさえペースメーカーの誤作動につながるおそれがあることから、医療用マイクロ波のような強力な電磁波は極めて危険です。医療機関では治療前に必ずペースメーカーの有無を確認し、装着者には代替療法を提案しています。電磁波による影響は予測が困難で、一度でも誤作動が起きれば生命に関わる事態となりかねません。
体内に人工関節、金属プレート、ボルトなどの金属を埋め込んでいる方も、マイクロ波治療は禁忌とされています。マイクロ波は電子レンジと同様の原理で作動し、金属部分に電流が生じて加熱されたり、ショートしたりする危険性があるためです。金属成分を含む装飾品や衣服にも照射してはならず、指輪、ネックレス、ベルトの金具、ファスナーなども治療前に取り外す必要があります。
参考)安全情報
マイクロ波照射エネルギーは金属に集中しやすく、体内金属周辺の組織が過度に加熱されて熱傷を引き起こします。湿布やカイロを貼った状態での照射も、同様に火傷の危険性が高まります。チタン合金のような低磁性・低導電性の医療用金属であっても、40Wのマイクロ波照射で2.82~4.0℃の温度上昇が確認されており、長時間の照射や高出力設定では組織損傷のリスクが存在します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3784417/
マイクロ波治療では、照射部位およびその周辺に皮膚温上昇、発赤、ひりひり感といった副作用が生じる可能性があります。重篤な副作用の報告例は少ないものの、照射範囲や時間管理を誤ると正常細胞にまで影響が及ぶリスクがあるため、安全設計とモニタリング体制が重要です。
参考)マイクロウエーブ(温熱)療法 - ふるたクリニック
がん治療におけるマイクロ波焼灼術では、発熱、腹痛、倦怠感、食欲低下、一時的な肝機能低下といった症状が数日から1週間程度続くことがあります。また頻度は低いものの、腹壁の熱傷、出血、気胸、胆管炎、肝膿瘍などの合併症が発生する可能性もゼロではありません。ラジオ波焼灼術やマイクロ波焼灼術は外科手術より安全とされていますが、数パーセントの症例で合併症が起こり、特別な処置や手術、数ヶ月の入院が必要となる場合や、死亡事例も報告されています。
参考)肝細胞がんの患者さんへ
知覚障害のある方は感覚が鈍くなっているため火傷の危険性が高く、急性炎症のある方は温熱刺激により炎症が悪化するため、いずれも使用禁忌です。
妊娠中の女性に対するマイクロ波治療は、安全性が確立されていないため禁忌とされています。電磁波が胎児の発育に与える影響について十分な臨床データが存在せず、予防原則に基づいて使用を避けるべきとされています。治療時の温熱効果が子宮内環境に変化をもたらし、胎児に予期せぬ影響を及ぼす可能性が懸念されるためです。
参考)https://ic-clinic-ueno.com/column/miradry-side-effect/
骨端軟骨(成長軟骨)が閉塞していない成長過程の子どもも、マイクロ波治療の対象外です。成長軟骨は骨の成長を司る重要な組織であり、熱刺激によって軟骨細胞の分化や増殖に悪影響が出る可能性があります。成長期の骨格形成に不可逆的な影響を与えるリスクを避けるため、骨の成長が完了するまでは代替療法を選択する必要があります。授乳中の方についても、治療を慎重に検討すべき対象に含まれます。
参考)マイクロ波治療(温熱治療)
マイクロ波焼灼術とラジオ波焼灼術は、ともに熱エネルギーでがん組織を凝固壊死させる治療法ですが、作用機序が異なります。ラジオ波焼灼術(RFA)は460kHzの電流を通電して加熱するのに対し、マイクロ波焼灼術(MWA)は2450MHzの電磁波を照射します。
参考)次世代マイクロ波焼灼術(MWA)
マイクロ波焼灼術は、ラジオ波焼灼術と比較して1回で焼灼できる範囲が広く、治療時間を短縮できる利点があります。焼灼範囲の調整がしやすく、過度・過小な治療を避けやすい特徴もあります。また、大血管に隣接する腫瘍では血流によるヒートシンク効果でラジオ波焼灼術が最適温度に到達しないことがあり、そのような状況ではマイクロ波焼灼術が有利です。
参考)がん情報サイト
一方で、両治療法とも合併症発生率は外科手術より低いものの、ラジオ波焼灼術よりマイクロ波焼灼術のほうが合併症発生率がやや高い傾向が報告されています。発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害などの合併症リスクを考慮し、腫瘍の大きさや位置、患者の全身状態に応じて適切な治療法を選択する必要があります。
参考)肝臓がん(肝細胞がん) 全ページ:[国立がん研究センター が…
家庭用電子レンジも医療用マイクロ波と同じ周波数帯(2450MHz)の電磁波を使用しており、日常的に利用する際にも安全意識が求められます。電子レンジ内に金属製の容器やアルミホイルを入れると火花が散り、発火の危険があることは広く知られていますが、これは医療用マイクロ波治療における金属禁忌と同じ原理です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6000685/
時短調理を重視する方ほど電子レンジを頻繁に使用する傾向がありますが、扉のパッキンが劣化している電子レンジからは微量の電磁波が漏れ出す可能性があります。ペースメーカー装着者は電子レンジから一定の距離を保つよう推奨されており、医療機関でも電磁波を発する機器の周辺での注意喚起が行われています。また、極超短波治療器を使用する医療施設では、公衆的曝露の基準を超える電磁波が0.5m離れた位置でも検出されたという報告があり、周囲への影響も考慮が必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/43/2/43_190/_pdf
調理器具選びにおいても、金属製の容器や装飾が施された食器は電子レンジ使用を避け、電子レンジ対応と明記された製品を選ぶことが安全の基本です。時短と利便性を追求する一方で、電磁波機器の正しい使用法を理解し、家族の健康を守る知識を持つことが、現代の調理環境では不可欠となっています。
ペースメーカー装着者に電気を用いた経穴刺激療法は行えるか? - 日本医事新報社
肝臓がん(肝細胞がん) 全ページ表示 - がん情報サービス
マイクロ波について|健診会 メディカルコラム - けいて|健診会 メディカルコラム - けんこうNote