

毎日水やりをすれば夏も枯れずに乗り越えられると思っていませんか?実は夏の過剰な水やりがベントグラスを枯らす最大の原因のひとつです。
クリーピングベントグラスは、イネ科ヌカボ属に属する寒地型の芝草で、「ベントグラス(bent grass)」の中でも特に長い地上ほふく茎(クリーピングストーロン)を持つことが最大の特徴です。「クリーピング(creeping)」とは「這う」という意味で、その名の通りほふく茎を横に這わせながら密な芝面を作り上げます。
日本のゴルフ場グリーンで使用される芝の実に90%以上がこのベントグラスであり、その中でもクリーピングベントグラスがほとんどを占めています。これほど選ばれる理由は、葉の細さとやわらかさにあります。
葉幅はわずか1〜2mm程度と非常に細く、葉質もやわらかいためきめ細かな芝面が生まれます。この密度の高さが、ゴルフボールをスムーズに転がす「パッティングクオリティ」を生み出すのです。
また、5mm以下という極端な低刈りに耐えられるという特性も持っています。つまり、高麗芝などでは低刈りに耐えられない刈高でも元気に育てられるということですね。一般的な芝草が20〜30mmを適切な刈高とするのに対し、クリーピングベントグラスは3〜5mmでも十分に生育します。
| 比較項目 | クリーピングベントグラス | 高麗芝(暖地型) |
|---|---|---|
| 芝の種類 | 寒地型(西洋芝) | 暖地型(日本芝) |
| 葉幅 | 約1〜2mm(非常に細い) | 約2〜4mm |
| 刈高の目安 | 3〜10mm | 10〜30mm |
| 冬の状態 | 常緑(緑を保つ) | 冬枯れ(茶色になる) |
| 夏の管理 | 難しい(高温多湿が苦手) | 比較的容易 |
| 管理頻度(芝刈り) | 成長期はほぼ毎日 | 月2〜3回程度 |
この表を見てわかる通り、クリーピングベントグラスは美しさの代わりに高い管理スキルを要求する芝草です。手が込んでいる分、きちんと育てれば庭がまるでゴルフ場のグリーンのような美しさになります。
つまり、「美しさと管理コストはトレードオフ」が基本です。
参考:ゴルフ場グリーン用芝について詳しく説明されています。
ゴルフ場グリーンの芝ってどんな種類なの? | バロネスダイレクト
クリーピングベントグラスの中でも、一般家庭の庭で育てるなら「ペンクロス」が特に有名です。意外ですね。
ペンクロスは1954年にアメリカのペンシルベニア大学で育成された品種で、70年以上の歴史を持ちながら今なお国内ゴルフ場グリーン使用率No.1を誇っています。国内では50%以上のゴルフ場グリーンでペンクロスが採用されているとも言われています。
ペンクロスの最大の特徴は、以下の3点に集約されます。
ただし、正直に言えばペンクロスも寒地型の植物です。最適生育温度は地上部で15〜24℃、地下部では10〜18℃とされており、日本の夏(特に梅雨〜8月)は非常に厳しい環境になります。
これを「管理さえしっかりすれば庭でも育てられる」と解釈するか、「上級者向けの芝草」と考えるかで、選択が変わってきますね。
ペンクロス以外の代表的な品種も見てみましょう。近年、耐暑性や耐病性をさらに高めた「ニューベント」と呼ばれる品種も広まっています。Penn A-1、Penn G-2、L-93、CY-2、シャーク、ナイトライフなどがあります。特に「ナイトライフ」は特徴的な青緑色の葉色が美しく、耐暑性に優れた品種として注目されています。
品種の特徴を押さえた上で選ぶのが条件です。
参考:クリーピングベントグラスの各品種について解説されています。
クリーピングベントグラス:ペンクロス|品種カタログ | タキイ種苗
庭でクリーピングベントグラスを育てる場合、まず「種まきの時期」を押さえることが基本です。
適切な種まきの時期は、春と秋の2回あります。具体的には、関東〜暖地では春(3月下旬〜5月)と秋(9〜10月)が最適です。北海道・東北などの冷涼地では、5月・8月下旬〜9月中旬が適期となります。
発芽に適した気温は20℃前後で、播種後約2週間で発芽が始まります。真夏(30℃超)の種まきは発芽率が大きく落ちるため避けましょう。これは大切なポイントです。
種まきの手順は以下の通りです。
土壌の水はけが悪いと、根腐れや病気の発生が一気に増えます。これはクリーピングベントグラスの弱点のひとつです。ゴルフ場では、グリーンの土台に特別な砂層と排水パイプを設置しているほど、土づくりに力を入れています。家庭の庭でも、この「水はけの良い土台作り」が成功の鍵といえるでしょう。
参考:家庭の庭でのベントグラス栽培について詳しく解説されています。
庭にベントグラスを植えてパットの練習を!自宅でゴルフを楽しもう | 生活110番
クリーピングベントグラスの管理で最も難しいのが夏越しです。正直なところ、これが一番の壁です。
ベントグラスの生育温度は地上部が15〜24℃、地下部は10〜18℃とされています。日本の夏は気温30〜35℃を超える日が続くため、この数字から大きく逸脱してしまいます。地温の上昇が特に根に大きなダメージを与えます。
❌ 夏に「毎日たっぷり水をあげれば大丈夫」と思って水やりを増やすのは逆効果になることがあります。夕方の過度な散水は地温を下げにくくするうえ、夜間の高湿度が病気(特に「ピシウム病」「ダラースポット」など)の原因になります。
夏越しに向けた主な管理ポイントをまとめると、次のようになります。
夏越しが上手くいったグリーンは、秋の立ち上がりも良いといわれています。逆に夏に傷んだ芝は秋の回復も遅くなります。夏に無理させないことが長期的な管理コストを抑える秘訣です。
なお、秋(9〜11月)は傷んだ芝を回復させ根を育てる最も重要な時期です。エアレーション(土壌に穴を開けて通気・通水性を改善する作業)を年2〜3回行い、川砂などで目土をすることで芝の健康が保たれます。秋の管理が翌年の夏越しを左右するといっても過言ではありません。
参考:ベントグリーンの水分・地温管理の専門的な解説が充実しています。
Awareness Room ベントグリーンの管理 | 株式会社クルーガー
クリーピングベントグラスはゴルフ場専用の芝と思われがちですが、実は近年その活用範囲が大きく広がっています。これは意外ですね。
最もよく知られていない活用法が「緑肥作物」としての利用です。雪印種苗の「CY-2」品種はもともとゴルフ場向けに育成されながら、緑化植物や畦畔(けいはん)法面の雑草抑制材としても評価されています。草高が30〜40cmと低く抑えられており、ほふく茎を旺盛に伸ばして密生することで、他の雑草が入り込む余地を与えません。
また、「耐塩性・耐冠水性」に優れた品種(シーサイドなど)は海岸緑地帯の緑化にも利用されています。一般的に塩分に弱い芝草が多い中、一部のクリーピングベントグラスは海沿いの環境にも適応できることは、広く知られていない事実です。
家庭庭園での活用に戻ると、「自宅にパッティンググリーンを作る」という使い方が非常に人気を集めています。ゴルフが趣味の方にとって、5mm以下の刈高で緻密なグリーン面を維持できるクリーピングベントグラスは最高のパートナーです。
さらに興味深いのが、クリーピングベントグラスを庭に取り入れることの「景観的なメリット」です。一般的な高麗芝は冬になると茶色く枯れますが、クリーピングベントグラスは常緑性を持つため、冬でも緑の芝生を維持できます。これは家のお庭の雰囲気を12ヶ月365日保ちたいと考える方にとって大きな魅力といえます。
ただし、いずれの活用においても「管理の手間と費用」は現実として受け止める必要があります。家庭の庭で育てた場合、年間維持費は芝刈り道具のメンテナンス・肥料・農薬・エアレーション作業を含めると1.5〜3万円程度を見込んでおく必要があります(庭の面積20平方メートル換算)。これは高麗芝の維持費とほぼ同水準ですが、手間は格段に多くなります。
管理コストを事前に把握しておくことが大切です。
参考:クリーピングベントグラス(CY-2)の緑肥としての特性と栽培方法が詳しく説明されています。
CY-2|クリーピングベントグラス|緑肥作物種子 | 雪印種苗