

軟骨サプリを飲み続けても、ケラタン硫酸が不足すると関節クッションが薄くなり膝の痛みが悪化します。
ケラタン硫酸(英: Keratan sulfate、略称KS)は、グリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる糖鎖の一種です。ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸と同じグループに分類されますが、その構造には他のGAGにはない大きな特徴があります。
基本骨格は、ガラクトース(Gal)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc) という2種類の糖が交互に連なった繰り返し構造です。化学式で書くと「−3Galβ1−4GlcNAcβ1−」という二糖単位が鎖状に並んでいます。この繰り返し構造を「ポリN-アセチルラクトサミン(polyLacNAc)」と呼びます。
その後、糖鎖に硫酸基(−SO₃⁻) が付加されることで初めてケラタン硫酸が完成します。硫酸基が付く場所はGalとGlcNAcの6位炭素のヒドロキシ基です。面白いのは、硫酸化の程度が一定でない点で、鎖の中に「硫酸化が少ない領域」と「硫酸化が多い領域」が混在しています。硫酸化が少ない部分ではGlcNAcのみ、硫酸化が多い部分ではGlcNAcとGalの両方に硫酸が付きます。
つまり構造の複雑さが特徴です。
この「硫酸基が負の電荷を持つ」という性質が非常に重要で、水分子をたっぷり引き寄せる保水力の源になります。感覚的にイメージするなら、磁石が砂鉄を引き寄せるように、マイナスの電荷が水分子を周囲に抱え込むようなイメージです。
最初にケラタン硫酸を単離したのは、1953年にカール・メイヤーらのグループで、牛の角膜から取り出されたものでした。当初は「ケラト硫酸(Keratosulfate)」という名前で呼ばれていたという経緯があります。この発見から70年以上が経過した今も、ケラタン硫酸の多彩な機能は研究が続いています。
参考:ケラタン硫酸の基本構造と発見の経緯(Wikipedia)
ケラタン硫酸 - Wikipedia
「ヒアルロン酸も似たような成分では?」と感じる方も多いでしょう。確かに、ヒアルロン酸もグリコサミノグリカンの仲間ですが、両者には決定的な違いがあります。
最も大きな違いは、ウロン酸(ヘキソロン酸)の有無です。ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸・ヘパラン硫酸は、二糖繰り返し構造の中にウロン酸(グルクロン酸またはイズロン酸)を必ず含んでいます。ところがケラタン硫酸はウロン酸を含まず、代わりにガラクトースが使われています。
意外ですね。
グリコサミノグリカンの定義の教科書的な説明では「ウロン酸とアミノ糖の繰り返し」と書かれることが多いのですが、ケラタン硫酸はその定義から外れる、いわば「異端児」的な存在なのです。
| 成分 | 構成糖 | ウロン酸 | 硫酸基 |
|------|--------|----------|--------|
| ヒアルロン酸 | GlcUA + GlcNAc | あり | なし |
| コンドロイチン硫酸 | GlcUA + GalNAc | あり | あり |
| ヘパラン硫酸 | GlcUA/IdoA + GlcNAc | あり | あり |
| ケラタン硫酸 | Gal + GlcNAc | なし | あり |
もう一つの大きな違いは、タンパク質への結合方法です。コンドロイチン硫酸やヘパラン硫酸は、コアタンパク質に結合する際に特有の「4糖リンカー構造」が必要です。ところがケラタン硫酸の場合、一般的なN結合型またはO結合型糖鎖と同じ結合様式を取るため、特別なリンカーが不要です。
これが基本です。
この特徴から、ケラタン硫酸は「特殊なグリコサミノグリカン鎖というよりは、細胞に普遍的にみられるN型・O型糖鎖に硫酸修飾が入った糖鎖の一つ」と考えることもできます(Glycoforum)。つまり体の多くの細胞で見られる糖鎖に、硫酸基が付加されることでケラタン硫酸になる、という見方もできるのです。これは知っておくと、ケラタン硫酸がなぜ体の多様な場所に存在するのかを理解する上でとても役立ちます。
参考:KSの構造的特徴とGAGとの比較(Glycoword | Glycoforum)
ケラタン硫酸生合成およびその硫酸化制御 - Glycoword | Glycoforum
ケラタン硫酸は、タンパク質(コアタンパク質)への結合様式によって大きく3種類に分類されています。それぞれが異なる組織に分布しており、役割も微妙に異なります。
KS-I(角膜型) は、コアタンパク質にN-グリコシド結合(N結合型)で連結しています。主に目の角膜に豊富に存在し、コアタンパク質としてはlumican(ルミカン)、keratocan(ケラトカン)、mimecanなどのsmall leucine-rich repeat proteinが知られています。KS-Iは鎖長が長く、硫酸化の割合も高いのが特徴です。鎖の末端部分(非還元末端側)には特に硫酸化が密集した「高硫酸化領域」があり、内側(還元末端側)に向かうほど硫酸化が少ない「低硫酸化領域」になっています。
KS-II(軟骨型) は、O-グリコシド結合(O結合型)でコアタンパク質に結合しています。関節軟骨や椎間板の髄核に多く存在し、アグリカン(Aggrecan)という大型プロテオグリカンのコアタンパク質に結合した形で存在します。KS-IIはKS-Iと比べると鎖長が短く、硫酸化の割合もやや低めです。また、ガラクトサミンを含むのもKS-IIの特徴で、KS-Iとは組成が少し異なります。
これは使えそうです。
KS-III(脳型) は、O-マンノース型の結合様式を持ち、主に脳神経系に存在します。コアタンパク質にはphosphacan(ホスファカン)などが知られています。興味深いことに、胎児期や新生児期の脳には高硫酸化KSが見られますが、成体の脳では低硫酸化KSしか見られません。しかし脳が損傷を受けると、再び高硫酸化KSが検出されるようになります。つまり高硫酸化KSは、発生期の脳または傷ついた脳のサインとも言えるのです。
3種類の違いを表にまとめると以下の通りです。
| 種類 | 結合様式 | 主な分布 | コアタンパク質 |
|------|----------|----------|----------------|
| KS-I | N結合型 | 角膜 | ルミカン・ケラトカン |
| KS-II | O結合型 | 軟骨・椎間板 | アグリカン |
| KS-III | O-マンノース型 | 脳神経系 | ホスファカン |
参考:KSの種類と脳神経系での機能について(KAKEN)
脳神経系に特徴的に発現するケラタン硫酸の構造と機能 - KAKEN
ケラタン硫酸の構造的な特徴、特に「多数の硫酸基による高い負電荷」が、体内でどのような機能を発揮しているのかを具体的に見ていきましょう。
関節軟骨での役割 がもっとも身近に関係します。関節軟骨の主成分はプロテオグリカンで、そのコアタンパク質(アグリカン)にはコンドロイチン硫酸鎖とケラタン硫酸鎖が結合しています。このプロテオグリカンがヒアルロン酸と結びついて、巨大な複合体を形成しています。
ケラタン硫酸の硫酸基の負電荷が水分子を大量に引き付けるため、軟骨は豊富な水分を含んだスポンジのような構造になります。歩くたびに体重がかかっても、この水分が一時的に押し出されてクッションの役割を果たし、衝撃を吸収します。軟骨がプニプニと弾力性を持っているのは、このケラタン硫酸を含むプロテオグリカンの水分保持機能のおかげです。
硫酸基が多いほど、水分保持力が高いということですね。
加齢とともにケラタン硫酸を含むプロテオグリカンの量は減少し、軟骨の水分量が低下します。その結果、弾力が失われて骨と骨が直接こすれやすくなり、変形性膝関節症などの関節痛につながります。40代以降の女性に膝の不調が増えやすい背景には、こうした軟骨成分の変化があります。
角膜での役割 も重要です。KS-I(角膜型)は、角膜の透明性を維持するために欠かせない成分です。角膜はコラーゲン線維が規則正しく並んでいることで光を透過させますが、ケラタン硫酸がコラーゲン線維間の間隔を一定に保つスペーサーとして機能しています。ケラタン硫酸が正常に機能しないと、コラーゲン線維の配置が乱れ、角膜が濁ってしまいます。実際、ケラタン硫酸の代謝に関わる酵素が先天的に欠損すると、角膜が不透明になる疾患(角膜混濁)が起きることが知られています。
これは驚きですね。
脳・神経系での役割 は近年特に注目されています。ケラタン硫酸(特にKS-III)は、脳の組織形成時に強く発現し、脳組織分化のマーカーの一種でもあることが研究で明らかになっています。また脳が傷ついたとき(脳損傷後)に、グリア細胞がケラタン硫酸を含む「グリア瘢痕(瘢痕組織)」を形成することが知られており、神経再生への影響が研究されています。
参考:プロテオグリカンとケラタン硫酸の軟骨機能について(一丸ファルコス)
「むずかしい話はわかったけど、結局私には何が関係するの?」という視点で整理してみます。
まず、ケラタン硫酸はサプリとして単体で広く売られているわけではないという点が重要です。「グルコサミン」や「コンドロイチン硫酸」はドラッグストアでよく見かけますが、ケラタン硫酸という名称のサプリはほとんど市販されていません。ただし、コンドロイチン硫酸と合わせて軟骨由来の成分として含まれている場合があります。
関節のケアが目的の場合は、コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸、グルコサミンの配合サプリを選ぶことで、間接的にケラタン硫酸の働きをサポートする環境を整えることができます。これらの成分はいずれもプロテオグリカンの構成要素であり、軟骨環境の維持に役立つとされています。なお、変形性関節症のサプリメント効果については医学的エビデンスの評価が分かれているため、膝の痛みが気になる場合は整形外科への相談が最初の一歩です。
受診が条件です。
次に食事でのアプローチです。ケラタン硫酸そのものを食品から効率的に摂取する方法は確立されていませんが、軟骨組織を多く含む食品(鶏の軟骨、手羽先、豚足など)には関連する成分が含まれます。ただし、食べた成分がそのまま体の特定部位に届くわけではなく、消化吸収されたアミノ酸や糖が材料として使われるという点は理解しておきましょう。
また、体内でケラタン硫酸を合成するための材料として、グルコサミンやN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が重要です。GlcNAcはケラタン硫酸の繰り返し二糖の構成成分そのものです。N-アセチルグルコサミンを含む機能性表示食品も市販されているため、関節ケアを目指す場合の選択肢の一つとして知っておくと役立ちます。
毎日の生活での関節への過度な負担を減らすことも、ケラタン硫酸を含む軟骨成分を長持ちさせるための現実的な方法です。適切な体重管理、無理のない運動習慣(ウォーキングや水中運動など)は、軟骨を守る上で大切な習慣です。プロテオグリカンに含まれるケラタン硫酸は、適度な「荷重刺激」によって軟骨細胞の新陳代謝が活性化されることも知られています。
動かすことが大切です。
目の健康の面では、ドライアイに悩む方も多いかと思います。角膜のケラタン硫酸(KS-I)は目の表面の透明性と構造維持に関わっています。目のケアには、過度なコンタクトレンズの長時間使用を避け、定期的な眼科受診でアングルをチェックすることが、角膜の健康を守る基本です。
参考:関節軟骨のプロテオグリカンとケラタン硫酸の役割について(FANCL)
関節軟骨とは?プロテオグリカンやコラーゲンの働き - FANCL