発色剤と発がん性
発色剤の基本情報
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主な種類
亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムの3種類が日本で認可されています
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含まれる食品
ハム、ソーセージ、ベーコン、魚肉ソーセージ、いくら、たらこ、明太子など
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懸念点
発がん性物質「ニトロソアミン」生成の可能性があるとされています
発色剤の種類と食品への使用目的
発色剤は食品の色合いを保持し、見た目を良くするために使用される食品添加物です。日本で認可されている発色剤は主に3種類あります:亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムです。これらは単なる着色料とは異なり、食品中のタンパク質と結合して色素を固定させる働きがあります。
発色剤の主な使用目的は以下の3つです:
- 食品の見た目を良くする - 肉や魚の加工品を鮮やかな色合いに保ちます
- 細菌の増殖を抑える - 特に危険な食中毒菌であるボツリヌス菌に対して高い抑制効果があります
- 原料の臭みを抑え、風味を出す - 肉特有の臭いを抑え、ハムやソーセージ特有の風味を醸成します
特に亜硝酸ナトリウムは、ハムやソーセージなどの肉加工品に広く使用されています。これらの食品が美しいピンク色を保っているのは、この発色剤の働きによるものです。発色剤がなければ、通常の加熱調理をした豚肉のように褐色になってしまいます。
発色剤が含まれる食品と表示方法
発色剤、特に亜硝酸ナトリウムが含まれる主な食品は以下のとおりです:
- 肉加工品: ハム、ウインナー、ソーセージ、ベーコン、サラミなど
- 魚加工品: 魚肉ソーセージ
- 魚卵製品: いくら、すじこ、たらこ、明太子など
これらの食品の原材料表示を確認すると、「発色剤(亜硝酸ナトリウム)」または「発色剤(亜硝酸Na)」と記載されています。食品表示を確認する習慣をつけることで、発色剤の摂取を意識的に管理することができます。
最近では、消費者の健康意識の高まりから「無塩せき」と表示された製品も増えています。これは発色剤を使わずに塩だけで処理した製品を指します。ただし、「無塩せき」は塩を使用していないという意味ではなく、発色剤を使用していないという意味であることに注意が必要です。
発色剤の発がん性リスクと科学的根拠
発色剤、特に亜硝酸ナトリウムの発がん性については長年議論されてきました。最大の懸念点は、亜硝酸ナトリウムが食品中のアミン類と反応して「ニトロソアミン」という発がん性物質を生成する可能性があることです。
科学的研究によると:
- 亜硝酸ナトリウムは肉や魚に含まれるアミンと反応して、発がん性物質であるニトロソアミンを生成する可能性があります
- WHO(世界保健機関)は2015年に、ハムやソーセージなどの加工肉食品に発がん性があることを警告しています
- 一部の研究では、亜硝酸ナトリウムの危険性は青酸カリに匹敵するとも言われています
しかし、食品安全委員会や国際的な機関による評価では:
- 亜硝酸ナトリウムの一日摂取許容量が設定されており、その量を大きく下回るレベルでの使用が推奨されています
- FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、亜硝酸ナトリウムの摂取と発がんリスクとの間に直接的な関連は見られないと結論付けています
- 日本では食品衛生法によって発色剤の使用基準が厳しく定められています
重要なのは、発がん性のリスクは摂取量に大きく依存するということです。日常的な食事で摂取する量であれば、直ちに健康被害が生じる可能性は低いとされています。
発色剤の歴史と自然界での存在
発色剤の使用は近代の化学技術によるものだけではなく、実は長い歴史を持っています。昔から肉の保存方法として岩塩が使われてきましたが、近年の研究により、岩塩の不純物の中に「硝酸塩」が含まれており、これが食肉中で亜硝酸塩に変化し、発色現象に関わっていたことがわかりました。
興味深いことに、亜硝酸塩や硝酸塩は自然界にも広く存在しています:
- 野菜、特に葉物野菜には自然に硝酸塩が含まれています
- 人間の唾液にも亜硝酸塩が含まれています
- 体内に取り入れる亜硝酸ナトリウムは、食品添加物よりも野菜の硝酸塩に由来する量の方が多いとされています
このことから、食品添加物としての亜硝酸ナトリウムを避けたとしても、体内に入る総量はあまり変わらないという研究結果もあります。硝酸塩を気にして野菜の摂取を制限してしまうと、野菜に含まれる有益な栄養素(ビタミン、ミネラル、食物繊維など)を摂取できなくなるため、バランスの取れた食生活が重要です。
食品安全委員会による亜硝酸ナトリウムの評価書
発色剤と他の食品添加物の相互作用
発色剤単体のリスクだけでなく、他の食品添加物との相互作用によるリスクも指摘されています。特に注目すべきは、保存料として使用される「ソルビン酸K」と発色剤「亜硝酸ナトリウム」の組み合わせです。
この組み合わせが危険視される理由は:
- ソルビン酸Kは石油から作られた食品添加物で、単体でも危険性が指摘されています
- ソルビン酸Kと亜硝酸ナトリウムが組み合わさると、発がん性が増すと言われています
- 両者が同時に使用される食品(特に肉加工品)では、リスクが高まる可能性があります
また、食品添加物の相互作用によるリスクについては、まだ完全に解明されていない部分も多く、今後の研究が待たれます。米カリフォルニア州環境保護局の研究では、合成着色料と行動への影響との間に相関関係が確認されており、複数の添加物の相互作用については特に注意が必要です。
食品添加物の組み合わせによるリスクを避けるためには:
- 原材料表示を確認し、複数の添加物が使用されている食品を意識する
- 可能な限り、添加物の少ない食品を選ぶ
- 加工食品の摂取頻度を減らし、新鮮な食材を使った手作り料理を増やす
発色剤の国際的な規制状況と日本の基準
発色剤の使用に関する規制は国によって異なります。特に欧米諸国では、日本よりも厳しい規制が設けられていることがあります。
国際的な規制状況:
- アメリカ: FDAは定期的に添加物の安全性を見直しており、最近では合成着色料「赤色3号」の使用許可を取り消すと発表しました
- EU: 一部のタール色素(赤色2号など)は使用禁止になっています
- カリフォルニア州: 独自に摂取上限値を設定し、厳しい規制を行っています
一方、日本の規制状況:
- 食品衛生法によって発色剤の使用基準が定められています
- 亜硝酸ナトリウムの使用量は国際的な安全評価を踏まえて設定されています
- 海外で使用禁止となっている添加物が日本ではまだ使用されているケースもあります
日本の食品安全委員会は、亜硝酸ナトリウムについて「一日摂取許容量(ADI)」を体重1kgあたり0.07mgと設定しています。これは科学的な安全評価に基づいて設定された値ですが、海外の基準と比較すると若干緩い面もあります。
厚生労働省による食品添加物の規制情報
発色剤を避ける方法と代替品の選び方
発色剤の摂取を減らしたい場合、以下の方法が効果的です:
1. 食品表示を確認する
- 原材料表示に「発色剤(亜硝酸ナトリウム)」「発色剤(亜硝酸Na)」と記載されている食品を識別する
- 複数の添加物が使用されている食品には特に注意する
2. 無添加・減添加製品を選ぶ
- 「無塩せき」と表示されたハムやソーセージを選ぶ
- オーガニック製品や自然食品を取り扱う店舗の製品を利用する
3. 手作りを心がける
- 加工食品の代わりに、新鮮な食材から手作りする
- 例えば市販のハムの代わりに、自家製のローストポークを作る
4. 摂取頻度を減らす
- 発色剤を含む食品の摂取頻度を減らし、バラエティに富んだ食生活を心がける
- 特に子供には、発色剤を含む加工食品の過剰摂取を避ける
代替品の例:
- 無添加ハム・ソーセージ(色は褐色になりますが、安全性は高い)
- 自家製燻製肉(スモークの風味を楽しみながら添加物を避けられる)
- 豆腐や大豆ミートなどの植物性タンパク質製品(動物性加工食品の代替として)
ただし、完全に発色剤を避けることは難しく、また必ずしも必要ではないかもしれません。重要なのはバランスの取れた食生活と、添加物の摂取量を意識することです。
消費者庁の食品表示に関する情報
発色剤以外の危険な食品添加物と総合的な対策
発色剤だけでなく、他にも注意すべき食品添加物があります。総合的な食品添加物対策を考える際に知っておくべき情報をまとめました。
注意すべき主な食品添加物:
- タール色素
- 石油由来の着色料で、発がん性や胎児への毒性が疑われています
- 青色1号・2号、赤色2号・3号・40号など12種類があります
- 赤色2号はアメリカでは使用禁止ですが、日本では使用されています
- ウコン色素(クルクミン)
- 天然のウコンとは異なり、抽出された色素のみであり、発がん性が疑われています
- お菓子や漬物、飲料などに使用されています
- カラメル色素
- カラメル色素Ⅲ、Ⅳには発がん性の懸念があります
- コーラなどの飲料に多く含まれています
- ソルビン酸K
- 保存料として使用され、亜硝酸ナトリウムとの組み合わせで危険性が高まります
総合的な対策:
- 食品表示を習慣的に確認する
- 添加物が多い食品を識別し、選択的に避ける習慣をつける
- 特に子供向け食品は注意深くチェックする
- バランスの取れた食生活を心がける
- 加工食品への依存度を下げ、新鮮な食材を中心とした食生活を送る
- 野菜や果物、全粒穀物など、自然な食品を積極的に摂取する
- 調理法を工夫する
- 自家製の調味料や保存食を作る技術を身につける
- 冷凍保存などを活用し、添加物に頼らない食品保存法を実践する
- 情報を更新する
- 食品添加物に関する最新の研究や規制情報をフォローする
- 信頼できる情報源から知識を得る
食品添加物を完全に避けることは現代社会では難しいかもしれませんが、意識的に摂取量を管理し、できるだけ自然な食品を選ぶことで、健康リスクを最小限に抑えることができます。
NITEの化学物質総合情報提供システム(添加物の詳細情報確認に役立ちます)
食品添加物のリスクを過度に恐れるのではなく、正しい知識を持ち、バランスの取れた食生活を送ることが最も重要です。発色剤を含む食品添加物は、適切な量であれば安全に摂取できるものも多いですが、長期的な健康を考えると、できるだけ自然な食品を選ぶ意識を持つことが望ましいでしょう。