ドレーン挿入算定で見逃しやすい歯科ドレーン法の落とし穴

ドレーン挿入算定で見逃しやすい歯科ドレーン法の落とし穴

ドレーン挿入の算定で歯科従事者が必ず押さえるべき全知識

手術当日にドレーンを使っても、その分は1円も算定できません。


この記事でわかること
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算定の基本ルール

歯科ドレーン法(I009-3)は1日50点、留置管理日ごとに算定。部位数・交換回数は関係なし。

⚠️
よくある算定ミス

手術当日・外科後処置との重複・消毒処置の別途算定など、指導で頻繁に指摘されるポイントを解説。

病名・カルテ記載の要点

蜂窩織炎・膿瘍形成など必要病名と、審査で通るカルテ記載の具体的なポイントを整理。


ドレーン挿入とは何か——歯科ドレーン法(I009-3)の基本を整理する

ドレーンとは、体内に溜まった膿・血液・浸出液などの異常な液体や気体を体外へ排出するために挿入・留置する管のことです。歯科領域では、蜂窩織炎や膿瘍形成などの感染症、もしくは術後に滲出液・血液の貯留が強く予想される症例に対して使用されます。適切にドレーンを留置することで、感染リスクを低減し、創傷の治癒を促進させる重要な処置です。


保険診療における根拠は、歯科診療報酬点数表「I009-3 歯科ドレーン法(ドレナージ)(1日につき)50点」です。この区分は平成24年度(2012年)の改定で新設されました。主として病院歯科での使用が想定されていましたが、一般の歯科診療所においても蜂窩織炎や膿瘍形成を伴う重篤な感染症例では算定可能な区分です。


算定の仕組みはシンプルです。ドレーンを留置管理した日ごとに1日50点を算定します。1日あたり1点が約10円(患者窓口負担3割の場合、患者負担は約15円)ですので、50点=約500円の診療行為に相当します。短期間の処置であっても、毎日の記録と算定が積み重なります。


つまり「留置中の日数分だけ算定できる」が基本です。


ドレーン挿入の適応となる主な疾患名・病態は以下のとおりです。


病態 具体的な状況 算定区分
蜂窩織炎 顎骨周囲・頸部などへの広範な炎症 I009-3(持続的吸引)
顎骨周囲膿瘍 膿瘍切開後のドレナージが必要な例 I009-3 または I009
術後滲出液貯留 手術翌日以降に滲出液・血液の多量貯留が予想される例 I009-3(持続的吸引あり)
単純なドレーン留置 自然排液程度のドレーン管理(能動的吸引なし) I009(外科後処置)


「持続的(能動的)吸引を行うもの」が I009-3 の対象です。それ以外の単純なドレーン使用は I009(外科後処置)での算定になります。この違いを正確に理解しておくことが、査定・指導を防ぐ第一歩です。


参考:歯科診療報酬点数表の通知・告示(しろぼんねっと 令和6年版)


I009-3 歯科ドレーン法(ドレナージ)の通知全文|しろぼんねっと 令和6年版(外科後処置との違い・算定要件の原文確認に最適)


ドレーン挿入算定の具体的な要件——どんな条件で算定できるのか

I009-3 を算定するには、満たさなければならない要件が明確に存在します。要件を満たしていない算定は、個別指導や審査で指摘の対象となります。厚生労働省が公表している「保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版」にも、I009-3の算定ミスは明確にリストアップされています。


【要件①】対象患者の限定


蜂窩織炎や膿瘍形成等、術後に滲出液・血液等の貯留が予想される患者であることが必須です。「ちょっとした腫れ」「念のため」というレベルでは算定要件を満たしません。診療録には患者の状態として、どういった根拠でドレーンが必要であるかを具体的に記載する必要があります。


【要件②】持続的(能動的)な吸引であること


ただドレーンを留置するだけではI009-3にはなりません。持続的かつ能動的な吸引を行っていることが前提です。自然排液程度にとどまる場合は I009(外科後処置)での算定が適切であり、I009-3では算定できません。


重要な要点です。


【要件③】吸引留置カテーテルの材料算定との整合性


審査支払基金の事例(令和6年4月30日公表)では、「持続的吸引を行うものは、吸引留置カテーテルや套管針カテーテルを使用して持続的に吸引するものであり、当該カテーテルの算定がない場合は、原則として認められない」とされています。つまり、I009-3(持続的吸引)を算定するなら、吸引留置カテーテルの特定保険医療材料料も同時に算定されているべきです。材料の算定なしに処置だけ算定している場合、審査で照会や減点が入ることがあります。


【要件④】部位数・交換回数によらず1日1回限り


複数部位にドレーンを留置していても、1日につき所定点数のみの算定です。2か所に留置していても100点にはなりません。交換を行っても同様に1日50点が上限です。これは「1日1回が限度」という原則を厳守する必要があることを意味します。


以下に算定要件を整理します。


  • 🏥 対象:蜂窩織炎・膿瘍形成等で滲出液・血液貯留が予想される患者
  • 💉 方法:持続的(能動的)吸引を行っていること
  • 🧾 材料:吸引留置カテーテルの算定と整合していること
  • 📅 回数:部位数・交換回数にかかわらず1日1回(50点)のみ
  • 📝 記録:カルテに処置内容・必要性の記載が必要


「1日1回50点のみ」が原則です。


参考:審査支払基金による算定ルールの公式見解


【処置】ドレーン法(ドレナージ)の算定について|社会保険診療報酬支払基金(吸引留置カテーテルなしで持続的吸引を算定できるかの公式見解あり)


ドレーン挿入算定でやりがちなミス——手術当日・外科後処置との関係を正確に把握する

実務でもっとも混乱しやすいのが、「I009-3」「I009(外科後処置)」「手術当日の取扱い」の3つの関係です。ここを正確に理解していないと、算定漏れや過誤請求の両方のリスクが生じます。


落とし穴①:手術当日はI009-3を算定できない


I009-3の通知(3)には明確に「手術当日に実施した歯科ドレーン法は、手術の所定点数に含まれる」と規定されています。手術と同日に行うドレーン挿入・留置管理の費用は、手術点数の中に包括されているという考え方です。手術日に「ドレーンを留置管理した」として50点を立てても、審査・指導で否定されます。


算定できるのは翌日(術後1日目)からです。


落とし穴②:I009(外科後処置)との混在


外科後処置(I009)は「歯科治療上必要があってドレーン(I009-3に掲げる歯科ドレーン法における持続的な吸引を行うものを除く)を使用した処置」を指します。簡単にいうと、ガーゼや簡易的なドレーン交換を伴う後処置はI009、吸引機を使った持続的管理はI009-3という区別です。混同すると「持続的吸引の記録がないのにI009-3を算定している」として指導を受けます。


落とし穴③:消毒等の処置を別途算定してしまう


I009-3の通知(2)には「ドレナージの部位の消毒等の処置料は所定点数に含まれ、創傷処置(I009-2)は別に算定できない」と明記されています。ドレーンの交換・消毒・ガーゼ交換などの費用はすべて50点の中に含まれています。別途52点(創傷処置)を立てると過誤請求です。これは実務でよくあるミスの一つです。


ただし、ドレーン抜去後の処置は例外です。


落とし穴④:ドレーン抜去後の処置について


ドレーンを抜去した後に、抜去部位の処置が別途必要な場合に限り、「I009-2 創傷処置 1(100平方センチメートル未満)52点」を「手術後の患者に対するもの」として算定できます。抜去中は算定不可、抜去後の必要性があれば算定可、というルールです。


以下に3つの算定区分の違いをまとめます。


区分 点数 対象・条件 注意点
I009-3 歯科ドレーン法 50点/日 持続的(能動的)吸引あり・手術翌日以降 手術当日算定不可・消毒込み
I009 外科後処置 22点/回 単純なドレーン使用・消毒・ガーゼ交換 同日に2回以上算定不可・単純処置は基本診療料に含まれる場合あり
I009-2 創傷処置 52点〜 ドレーン抜去後の抜去部位処置(必要時のみ) ドレーン留置中は別途算定不可


「3区分の棲み分け」を意識すれば大丈夫です。


参考:外科後処置の算定要件に関する解説


I009 外科後処置の通知全文|しろぼんねっと 令和6年版(I009とI009-3の使い分けの根拠として必読)


ドレーン挿入算定を守るためのカルテ記載と病名の付け方

算定要件を理解したうえで大切なのが、カルテへの適切な記載と正確な病名付与です。どれだけ実際に適切な処置をしていても、カルテの記載が不十分だと、審査・指導で算定を認められないケースがあります。厳しいところです。


病名について


I009-3は「蜂窩織炎や膿瘍形成等、術後に滲出液・血液等の貯留が予想される患者」が対象です。したがって、関連する病名がカルテおよびレセプトに明記されている必要があります。


必要な病名の例としては、蜂窩織炎(顎骨周囲蜂窩織炎・頸部蜂窩織炎など)、顎骨周囲膿瘍、術後感染、術後滲出液貯留などが該当します。「蜂窩織炎」や「膿瘍」の病名がないままI009-3を算定すると、「算定要件を満たしていない」として支払基金・国保連から照会が来ることがあります。


いわゆる「レセプト病名」(算定のためだけに付けた根拠のない病名)は絶対に避けてください。診療録に診断根拠が書かれていなければ、指導で問題になります。


カルテ記載の必須項目


個別指導でI009-3に関して指摘されやすい項目は以下のとおりです。


  • 📝 ドレーンを使用した日付と部位
  • 📝 ドレーンの種類(吸引留置カテーテルの使用を確認できる記載)
  • 📝 持続的(能動的)吸引を行ったという記録
  • 📝 排液の性状・量の観察記録(例:「淡血性排液 約5mL」など)
  • 📝 継続留置の必要性についての判断記録


「排液の性状と量を毎日記録する」が実務上の最低ラインです。


平成24年度改定後に、実際に支払基金から照会が届いたケースがあります。「ドレーンの算定がない口腔内外科後処置の算定について疑義が寄せられている」という内容の照会が来たというケース(しろぼんねっとQ&A参照)があり、これはI009-3と I009の使い分け、および材料算定との整合性に関する実務上の問題です。処置を算定している場合、材料(吸引留置カテーテル等の特定保険医療材料)の算定の有無を含めて整合性を取ることが重要です。


ドレーン抜去時の記録


ドレーン抜去日にはカルテに抜去の記録を残してください。抜去した日以降はI009-3の算定はできません。また、抜去後に抜去部位の処置が必要となった場合は、その処置の必要性(排液の継続、炎症の残存など)についても記録が必要です。


「抜去日の記録漏れ」は算定超過につながります。


ドレーン挿入算定を正しく行うための独自視点——保険指導対策と算定精度向上のポイント

ここまでの基本ルールをふまえ、実際の保険診療の現場ではどのような視点で算定精度を高めればよいでしょうか。一般的なQ&Aサイトや点数表の解説にはあまり載っていない、実務的な視点を整理します。


「指導リスト」で自院をチェックする習慣が重要


厚生労働省が毎年更新している「保険診療確認事項リスト(歯科)」は、個別指導で実際に指摘される事項を項目として列挙したものです。I009-3については「算定要件を満たしていない歯科ドレーン法を算定している」という指摘が収載されており、具体的には「持続的(能動的)な吸引を行っていないにもかかわらずI009-3を算定している」「手術当日に算定している」「カテーテルの算定がない」などが挙げられています。


このリストは無料で公開されており、毎年改訂されています。使えそうです。


自院のレセプトをこのリストで定期的にチェックすることで、指導前に問題のある算定パターンを自己点検できます。年に1〜2回、外科処置の多い月のレセプトをピックアップして確認するだけでも、大きなリスク回避につながります。


「算定漏れ」も同様に注意が必要


過誤請求(多く取りすぎ)だけでなく、算定漏れ(本来算定できるのに算定していない)も実務上のロスです。蜂窩織炎や膿瘍で毎日来院させている患者に対してドレーン管理を行っているにもかかわらず、I009(22点)のみで算定しているケースがあります。持続的吸引の記録とカテーテルの材料算定がセットで揃っていれば、I009-3(50点)への変更で毎日28点の差が生まれます。


1件あたり28点の差は、5日間継続すれば140点(約1,400円)です。患者10人が蜂窩織炎で5日間入院・通院した場合、算定漏れ総額は約14,000円になります。


小さな差でも積み重なると大きいですね。


吸引留置カテーテルの特定保険医療材料との整合性


I009-3(持続的吸引)を算定する際には、使用したカテーテルが吸引留置カテーテルか套管針カテーテルであることを確認し、特定保険医療材料として別途算定することを忘れないようにしてください。材料費の算定忘れは、処置料とのセット対応が取れなくなるため、照会の際に「なぜ材料の算定がないのに処置を算定しているのか」という疑義につながります。


なお、特定保険医療材料の種類・価格は毎年改定されます。自院で使用しているカテーテルの品番・材料価格コードを事前に把握しておくことが大切です。


「外科後処置」から「ドレーン法」への切り替えタイミングの明確化


診療の流れの中で、当初はI009(外科後処置)として管理していた患者が重症化し、持続的な吸引管理(I009-3)に移行するケースがあります。この移行のタイミングをカルテに明記しておくと、後の審査照会時に説明しやすくなります。「〇月〇日より持続的吸引管理に移行。吸引留置カテーテル使用開始」といった一言で十分です。


算定区分の切り替え日の記録が、そのままレセプトの根拠になります。


参考:厚生労働省 保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版


保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版|厚生労働省(個別指導で指摘されやすいI009-3の算定ミス項目が明記されており、自院の事前点検に活用できる)