aed使用の訴訟リスクを歯科従事者が正しく知る方法

aed使用の訴訟リスクを歯科従事者が正しく知る方法

aed使用と訴訟リスクを歯科従事者が正しく理解する

AEDを使って患者を助けようとしたのに、訴訟リスクがゼロではないケースがあります。


この記事の3つのポイント
⚖️
歯科従事者は「一般市民」扱いにならない

業務中のAED使用には一定の条件を満たさないと法的責任が生じる可能性があります。「善意だから大丈夫」は一般市民向けの話です。

🏥
「使わなかった」ことも訴訟の対象になる

院内でAEDを使用しなかった場合も、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されたケースが実際に存在します。

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か強診ではAED設置が施設基準に含まれる

診療報酬上の加算を取得している歯科医院では、AED設置は任意ではなく施設基準の一部として機能しています。


aed使用が「免責される人」と「されない人」の決定的な違い

「AEDを使っても訴えられない」という情報は、正確には一般市民を前提にした話です。これは多くの歯科従事者が見落としているポイントです。


2004年7月、厚生労働省は「非医療従事者によるAEDの使用について」という通知を発令し、救命現場に居合わせた一般市民がAEDを使用しても医師法違反にならないと明示しました。この通知が、「AEDは誰でも使える」という認識が広まるきっかけとなりました。つまり原則は免責です。


ところが、日本蘇生協議会(JRC)の蘇生ガイドラインをよく読むと、「市民による救命処置」とは「法的に義務のない第三者」による行為を前提としていることがわかります。「法的に義務のない第三者」とは、もっとわかりやすく言えば「見て見ぬふりができる立場の人」です。


歯科医師・歯科衛生士・歯科助手などの医療従事者が院内で患者の急変に対応する場面では、この「義務のない第三者」にはあてはまりません。業務として対応にあたる立場であるため、民法698条の緊急事務管理による完全な免責は適用されにくくなるのです。


注意義務が発生する立場になるということです。
























立場 法的扱い 免責の可能性
通りすがりの一般市民 法的義務のない第三者 ほぼ完全免責
業務中の歯科医師・スタッフ 業務として対応する当事者 注意義務が問われる可能性あり
勤務時間外に遭遇した歯科医師 一般市民として扱われる ほぼ免責(一般市民と同等)


なお、勤務時間外にたまたま患者の急変に遭遇した場合は、たとえ歯科医師であっても一般市民として扱われます。これは厚労省通知でも明示されている点です。


参考:歯科医院でのAED設置事例と必要性に関する解説(クライテリア)
https://www.criteria-select.net/example/dental.html


aed使用における訴訟の実例と「一定頻度者」という概念

「一定頻度者」という言葉をご存じでしょうか。あまり知られていない重要な概念です。


厚生労働省は2004年の通知の中で、一般市民の他に「業務においてAED使用が想定される者(一定頻度者)」というカテゴリを設けています。救急救命士や看護師のほかに、ライフセーバーや航空会社の客室乗務員など、業務上AEDに接する頻度が一定以上ある職種が該当します。歯科医師や歯科衛生士も状況によってはこのカテゴリに準じた扱いを受ける可能性があります。


一定頻度者がAED使用を医師法違反とならずに行うためには、以下の4条件すべてを満たすことが必要です。



  • 医師をその場で探しても見つからないなど、医師による速やかな対応が困難な状況であること

  • 傷病者(AED使用の対象者)の意識や呼吸がないことを確認していること

  • AED使用者が必要な講習を受講していること

  • 使用するAEDが薬事法(現・医薬品医療機器等法)の承認を得た機器であること


3番目の「必要な講習を受講していること」が特に重要です。訴訟リスクの観点から言えば、受講していないスタッフがAEDを使用した場合、たとえ患者を救命できなくても、手続き上の問題を指摘されるリスクが生じます。


実際の訴訟事例として参考になるのが、2016年に仙台地裁が下した判決です。耳鼻科診療所で小学5年生(11歳)の女児が治療中に意識を失い、看護師が心臓マッサージは実施したものの人工呼吸を行わなかった件で、診療所の過失が認定され約6,100万円の賠償命令が出されました。


この判決で重要なのはAEDの話ではなく「人工呼吸をしなかったこと」ですが、医療機関での救命行為において「プロとして当然できるはずの処置をしなかった」ことが過失と判断される実例として歯科従事者が認識しておくべき事案です。つまり院内での救命対応は業務上の義務として判断される、ということです。


参考:応急救護の免責と業務上救護の法的相違についての考察
https://blog.bls.yokohama/archives/8266.html


aed不使用が訴訟を招く「安全配慮義務」と歯科院内の現実

「AEDを使って訴えられる」より実は怖いのが「AEDを使わなかった、または備えていなかった」ことによる訴訟です。


安全配慮義務とは、企業や医療機関が患者・スタッフの安全を守るために適切な措置を講じる義務のことです。この概念は1975年の最高裁判決(自衛隊員のトラック事故)をきっかけに確立されました。フィリップスが公表した情報によれば、AED関連訴訟で実際に争点になることが多いのは「AEDを使って失敗した」ではなく「AEDが近くにあったのに使われなかった」という不使用の問題です。


2015年のさいたま地裁判決では、埼玉県内の高校の強歩大会で女子生徒が亡くなった事案において、AED到着まで約20分かかったことを理由に学校側の注意義務違反が認定されました(損害賠償請求自体は棄却)。


これが歯科医院に示す教訓は明確です。院内にAEDが設置されていない、あるいは設置されていても使える場所にない、スタッフが使い方を知らない、といった状態で患者が院内で心停止した場合、遺族から安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。


厳しいところですね。


歯科医院を受診する患者の中には、歯科治療への恐怖や緊張から血圧や脈拍が急上昇するケースが存在します。局所麻酔薬に含まれるアドレナリンが心臓に影響を与えることもあります。こうした背景から、歯科クリニックは患者が心停止に至るリスクがゼロではない医療現場です。AEDの設置は決して「大病院のもの」ではありません。


参考:AED設置と安全配慮義務の考え方について(フィリップス)
https://www.philips.co.jp/a-w/about/news/archive/standard/about/blogs/healthcare/201901001-aed-and-company-duty.html


aed使用後に訴えられないための院内体制の整え方

訴訟リスクを下げるために、歯科医院が今すぐできることは大きく3つに整理できます。


まず1つ目は、AEDの適切な設置と定期点検です。厚生労働省が定めるAED適正配置ガイドラインでは「心肺停止から5分以内に電気ショックができる配置」を推奨しています。心停止後の救命率は1分ごとに7〜10%低下するため、5分で最大50%まで落ちる計算です。待合室・受付・処置室からどこでも1分以内に取り出せる場所を選ぶことが目安になります。また、AEDはバッテリー交換や電極パッドの期限管理が必要です。期限切れのまま放置していて使えなかった場合も、管理義務違反を問われる可能性があります。


2つ目は、全スタッフへの定期的なBLS(一次救命処置)研修です。大切なのは「受講した記録を残すこと」です。前述の4条件のうちのひとつに「必要な講習を受講していること」があります。記録があれば、万一訴訟になった際の証明になります。歯科クリニックでは年に1〜2回の医療安全研修が義務付けられており(医療法施行規則)、このタイミングにAED・CPR訓練を組み込むのが現実的です。これが条件です。


3つ目は、院内の緊急時対応マニュアルの整備です。誰が119番に電話するか、誰がAEDを取りに行くか、誰が胸骨圧迫を開始するかを事前に役割分担して文書化しておくことが重要です。さいたま地裁の判決でも「救護体制が不十分だった」ことが注意義務違反の根拠とされました。マニュアルがあるだけで対応の遅れを防ぎ、訴訟リスクを大幅に低減できます。


また、2024年度の診療報酬改定で「か強診(かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所)」が廃止され「口腔管理体制強化加算(口管強)」に移行しましたが、施設基準の中にAED等の救急資機材の設置が含まれる項目が引き続き存在します。加算を取得している医院では、AEDは単なる備品ではなく診療報酬上の要件と連動しているという認識が必要です。
























対策 具体的な行動 訴訟リスクへの効果
AED適切設置・管理 5分以内に取り出せる場所に配置、定期点検の記録を保持 安全配慮義務の証明になる
全スタッフのBLS研修 年1〜2回の講習と受講記録の保管 一定頻度者の4条件を満たす証拠になる
緊急時対応マニュアル整備 役割分担と手順の文書化、定期的な訓練 初動対応の記録として機能する


aed使用と訴訟に関する歯科業界だけが直面する独自リスク

ここからは、一般的な解説ではあまり触れられない歯科特有のリスクについて掘り下げます。


歯科医院は他の医療機関とは異なる独特の状況に置かれています。通常の内科や救急病院と違い、歯科クリニックは循環器系の緊急対応を専門としていません。しかし、患者が治療中に急変する可能性は決してゼロではないのです。この「専門外なのに対応が求められる」というギャップが、歯科従事者のAED訴訟リスクを複雑にしています。


歯科治療で用いられる局所麻酔薬の中には、血管収縮剤(アドレナリン)が含まれています。高齢者や心疾患を抱える患者にとっては、これが不整脈や心拍数の急上昇につながるリスクがあります。待合室での患者の長時間待機中も、緊張や体調変化から心停止に至ったケースが実際の口コミとして報告されています(院内受付で心停止、AEDにより歯科医師が処置して回復した事例)。


また、歯科医師には救急救命処置に関する専門知識の向上を目的に、医科領域で研修することが認められています(厚生労働省通知)。ただし研修中の行為が反復継続性を持つと判断されれば医師法上の問題になり得るため、この通知の内容は細かく理解する必要があります。つまり歯科医師として「もっと救急対応を学びたい」という姿勢自体は適法であり推奨されるということです。


もうひとつ見落とされがちなのが、患者以外の心停止への対応です。他のスタッフやクリニックの前を通りかかった人が突然倒れるケースも想定できます。この場合、業務時間中であっても「通りがかりの市民として善意で対応した」と見なされる余地が生じます。状況によって法的扱いが変わるため、一律に「当院スタッフは対応義務がある」と思い込むのも正確ではありません。いいことですね。


以下に歯科医院が特に意識すべき急変リスクの場面をまとめます。



  • 🦷 局所麻酔施術中・直後:アドレナリン含有製剤による不整脈リスク

  • 治療前の長時間待機:緊張・血圧上昇・高齢患者の体調悪化

  • 👴 高齢患者・有疾患者の来院:心臓疾患・糖尿病など基礎疾患保有者は急変リスクが高い

  • 🚪 院外・受付での急変:診療室外でも管理下にある施設内での発生は安全配慮義務の対象になり得る


これらのリスクを認識しておくだけで、普段の準備の質が変わります。AEDが「必要になったとき初めて気にする機器」から「日常的に管理する院内インフラ」へと意識が変わることが、訴訟リスク低減の第一歩です。


参考:非医療従事者によるAEDの使用の法的責任(日本医事新報)
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_3705


参考:人工呼吸をしなかったことが過失と認定された裁判例(BLS横浜)
https://blog.bls.yokohama/archives/8715.html