

有機農業は化学肥料や化学合成農薬を使用しない農業生産方法で、環境への負荷を最小限に抑えることを目的としています。この栽培方法では土壌中の微生物が重要な役割を果たすんです。
参考)【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~:農林水産省
土壌には細菌、糸状菌、放線菌など多様な微生物が存在していて、これらが有機物を分解して植物が吸収できる養分に変える働きをしています。慣行栽培では化学農薬が土壌微生物のバランスを崩すことがありますが、有機農業では微生物相が豊かに保たれます。
参考)有機栽培の土壌に重要な生態系について学ぼう - 農業メディア…
特に菌根菌という微生物は植物の根に共生して、土壌中のリンなどの栄養分を植物が吸収しやすい形で供給する役割があります。有機農業と菌根菌の相性は抜群で、化学肥料を使わない分、この自然の仕組みを最大限活用できるんですね。
研究では有機農業が生物多様性の向上や土壌・水質の改善に貢献することが示されています。ただし単位面積あたりで見た場合と収穫量あたりで見た場合では環境負荷の評価が変わってくるという指摘もあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5362009/
有機農業の収穫量は慣行栽培と比較して平均で約80%、つまり2割減少するというデータがあります。化学肥料を使わないため生育速度が遅くなり、収穫までに時間がかかるのが主な理由です。
参考)有機農業(有機栽培)とは?メリット・デメリットや利用できる補…
コストに関しては水稲の有機農業の場合、慣行栽培の1.5倍の費用がかかるという調査結果が出ています。化学農薬を使えない分、雑草や害虫の対策に手作業が増え、人手と手間がかかるためです。
参考)有機農法とは?自然農法との違いや有機農法のメリット・デメリッ…
農林水産省の調査によると、有機栽培に取り組む農家の47.2%が「人手が足りない」、44.5%が「栽培管理の手間がかかる」という理由で取り組みを拡大できていません。除草を手作業で行ったり、害虫を駆除したりする必要があるため、労働時間が大幅に増えるんです。
参考)有機農業とは?無農薬栽培との違いやメリット・デメリットを解説…
収穫量が少ないため、販売価格も高くなる傾向があります。例えばトマトの場合、国産標準品に比べて有機栽培品の価格は高めに設定されています。ただし販売価格は通常の1.3〜1.7倍で設定できるため、コスト上昇分以上に価格を上げることができれば収入の拡大も可能です。
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/org/harc/seika/h17/004.html
有機野菜は慣行栽培の野菜と比較してビタミンCや糖度の含有量が高いという研究結果があります。さつまいもやだいこんでは、有機栽培のほうが慣行栽培よりもビタミンC含有量が高いことが示されています。
参考)有機野菜ならではの味とは?|慣行野菜との違いを比較・解説|有…
糖含有量の向上には有機質肥料が効果的で、土壌の保水性や透水性が関係していると考えられています。化学肥料に頼らず本来の成長速度で育つため、農産物が本来の味を蓄えることができるんです。
安全性の面では、化学物質が人体に与える影響が低減されるというメリットがあります。基本的に農薬を使わずに栽培されているため、安心して食べられる食品を求める消費者心理に応えることができます。
栄養価が高く味の濃い野菜が育つため、特に生野菜として摂取する場合にその栄養価をそのまま摂取できます。サラダなど生野菜を楽しむ人にとって、有機野菜は味の良さと栄養面で魅力的な食材といえるでしょう。
参考)有機野菜は生野菜としてお召し上がりいただくことが多い方にお勧…
有機農産物として販売するためには、有機JASマークの認証を取得する必要があります。認証を受けるには農林水産大臣に登録された登録認証機関に申請して審査を受けなければなりません。
参考)有機農業の欠点について。デメリットを理解して、最適な農業を …
認証取得のステップは、まず登録認定機関が実施する講習会への参加が必須です。次に申請するほ場が2年以上(茶や果樹など多年生は3年以上)有機的管理が行われているか、栽培記録が作業日誌等で記録されているかなどを確認します。
参考)有機JAS認証制度とは?認証取得のステップ
有機JAS認証では生産工程が評価の対象となります。生産から出荷までの工程を「生産工程管理記録」として日々記録し、登録認証機関の検査員が書類審査と圃場の実地検査を行います。検査・認定・認証は毎年行われるため、継続的な管理が求められます。
参考)有機JAS認証とは? 基準や取得メリットまとめ|マイナビ農業
販売面では、有機食品の流通・加工業者は少ない傾向にあり、販路が限定されるというデメリットがあります。有機野菜は収穫量が少なく販路が拡大しにくいため、直接販売が多くなっています。一方で「農家の直売所」のような新しい流通プラットフォームでは、生産者が販売価格や販売先を選択できる自由出荷方式により、既存流通よりも高い収益性を確保できる仕組みも登場しています。
参考)農家の直売所 - 株式会社農業総合研究所
有機農業では化学農薬を使用できないため、病害虫への対策が技術的な大きな課題となっています。化学農薬を用いた慣行栽培に比べて、有機農産物は病害虫に対して抵抗力が弱い傾向があります。
農薬を利用しないと病害虫の被害が多くなる場合があり、作物が病気にかかったり害虫の被害にあったりして作物の見栄えが悪くなりやすいという問題があります。特に栽培を始めたての頃は、農作物にとって害となる病害虫への防御が難しく、労力がかかってしまいます。
ただし土壌中の微生物には生存戦略として抗菌物質を生成するものもいるため、農作物に有用な微生物が有利になる土壌づくりを意識すれば、植物に害を与える微生物を抑制することにつながります。豊かな生態系が形成されれば、害虫を食べてくれる益虫や動物、微生物の存在も増えるんです。
化学農薬には即効性がありますが、有害な微生物と一緒に有用な微生物も殺してしまうリスクがあり、土壌環境をもとに戻すのに苦労するケースもあります。有機栽培では長期的な視点で土壌の生態系を豊かにしていく必要があり、即効性はありませんが、生態系が豊かになれば安定した栽培が可能になります。
有機農業の栽培技術は慣行栽培ほど確立されておらず、有効なノウハウを実施することが困難という側面もあります。しかし近年では環境保全型農業への取り組みとして注目され、さまざまな技術開発も進んでいます。