わさびの静岡と長野の違い/育つ気候や特徴、風味は?

わさびの静岡と長野の違い/育つ気候や特徴、風味は?

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わさびの静岡と長野の違い

わさびの静岡と長野の違い

静岡と長野のわさび比較
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栽培方法

静岡は清流の「わさび田」で水わさびを栽培。長野は「畑わさび」と「水わさび」の両方を栽培。

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風味の特徴

静岡わさびは甘さと香りに優れ、粘り気がある。長野わさびはさらりとした口当たりで強い辛味が特徴。

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生産量

静岡は水わさび(根茎)の生産量日本一。長野は根茎と葉柄を合わせた総生産量が日本一。

わさびの主要な生産地は静岡県と長野県です。特に、静岡県はわさび栽培の発祥地とされ、水わさびの根茎生産量が日本一を誇ります。一方、長野県は根茎と葉柄の生産量の合計が日本一です。

わさびの静岡と長野の栽培環境の違い

静岡県のわさびと長野県のわさび、これら二つのわさびは何が違うのでしょうか。その違いは微量成分にあります。ほとんど同じ種類のわさびですが、栽培環境が異なるため微量成分に差が出ます。

 

わさびは栽培が非常に難しい植物として知られています。その理由は、特定の環境条件が必要とされるからです。静岡県と長野県は日本を代表するわさびの産地ですが、それぞれ異なる栽培環境を持っています。

 

静岡県のわさび栽培は、約400年前の慶長年間に静岡市葵区の山間部、有東木(うとうぎ)地区で始まったとされています。徳川家康公が献上されたわさびを大変気に入り、有東木から門外不出にしたという説も残されています。静岡のわさびは主に「水わさび」(沢わさび)として、清流につくられた「わさび田」で育てられます。

 

わさび田は、下から大中小の石を積み上げて、その表面に砂礫を引いた複層構造となっています。この「畳石式」と呼ばれる栽培方法は、伊豆地域から県内、さらに全国に広がりました。用水はわさび田の表層を流れるとともに、内部へ浸透することで不純物がろ過され、わさび栽培に適した8~18℃の水温を保つことができます。

 

静岡県では肥料や農薬をほとんど使わず、天城山や南アルプスからの豊富な湧水に含まれる養分だけでわさびを育てる伝統的な方法が受け継がれています。この伝統的な農法は、2017年に農林水産省の「日本農業遺産」に、2018年には国連食糧農業機関(FAO)の「世界農業遺産」に認定されました。

 

一方、長野県安曇野市は複合扇状地や北アルプスからの雪解け水が豊富な土地です。長野県では「水わさび」と「畑わさび」(陸わさび)の両方が栽培されています。安曇野では平地式の栽培方法が採用されており、市街地の近くでもわさび田を見かけることができます。

 

長野県の特徴的な気候として、夏は暑く、冬は極寒という厳しい環境があります。この気候風土により、わさびには「強い辛味」と「風味」が加わるのです。安曇野の大王わさび農場では、わさび田に黒い「寒冷紗(かんれいしゃ)」と呼ばれるネットをかけています。これは、直射日光が苦手なわさびを守るためのもので、5月から10月の上旬にかけて使用され、流水を15℃以下に保ち、根や茎を熱から守る役割を果たしています。

わさびの静岡と長野の風味と特徴の違い

静岡県と長野県で栽培されるわさびは、同じ植物でありながら、その風味と特徴に明確な違いがあります。これは主に栽培環境の違いによるものです。

 

静岡のわさびは、辛さだけでなく、甘さや香りにも優れています。これは、豊富な湧水で育つことによるものです。特に、天城山や南アルプスからの湧水は最高の環境を提供します。静岡のわさびは粘り気があるのが特徴で、すりおろすとねっとりとした食感になります。

 

一方、長野県安曇野市のわさびは、緑色の美しい発色と爽やかな香り、ツンとした辛味のあとにほのかな甘みが広がるのが特徴です。静岡のわさびと比べて、さらりとした口当たりが特徴で、まろやかなコクを持っています。このため、銀座の予約制寿司店などからも高い評価を受けています。

 

長野で栽培されるわさびは、茎が青い品種が多く、「長野(ちょうや)23号」や賀茂自交(かもじこう)、正緑(まさみどり)などの栽培が多いようです。特に黒岩わさび園で主に栽培している「賀茂自交」は、2018年の「全国わさび品評会・丸掘りの部」で特賞を受賞しました。この品種は比較的大きく育ち、すりおろすと水分が多く、サラッとしていて、透き通った色をしています。

 

わさびの風味の違いは、料理との相性にも影響します。静岡のわさびは粘り気があるため、刺身などの和食との相性が抜群です。一方、長野のわさびはさらりとした口当たりが特徴で、ステーキや焼き鳥、角煮など、お肉との相性も良いとされています。

 

また、わさびの風味を最大限に引き出すためには、適切なおろし方も重要です。鮫皮おろしを使って、根からではなく、茎の方からおろします。切り口に少し砂糖をつけて、円を描くようにゆっくり、なるべく空気に触れさせるようにすると、わさび特有の香りが広がります。そのまま数分置いておくと、より辛みが引き立ちます。

 

わさびの静岡と長野の生産量と価格の比較

わさびの生産量と価格は、静岡県と長野県で興味深い違いがあります。

 

静岡県は水わさび(根茎)の生産量・出荷量が日本一で、全国の33.4%を占めています。具体的には、静岡県の水わさび(根茎)の生産量は461.5トンとなっています。また、静岡県は水わさびの栽培面積も日本一です。

 

一方、長野県は本わさび(根茎)と葉柄を合わせた生産量が日本一となっています。長野県の沢わさびの生産量は約676トン、畑わさびは約428トンとなっています。これに対して、静岡県の沢わさびの生産量は約498トン、畑わさびは約156トンです。これらの数字から、わさびの総生産量は長野県が静岡県を上回っていることがわかります。

 

安曇野市の大王わさび農場は、15ヘクタールの広大な敷地で年間に150トンものわさびを収穫しています。この農場には一日に120,000トンもの湧水が流れており、これは23万人の方々が一日に使用する水量に相当します。

 

価格については、一般に「わさび」と言われると、水わさび(静岡のわさび)を指します。品質は畑わさび(長野のわさび)と比べて同程度ですが、価格は水わさびの方が高いです。これは、水わさびの栽培が畑わさびよりも難しく、特定の環境条件が必要とされるためです。

 

また、静岡のわさびは全国的に流通していますが、長野の本わさびは地元で加工調理されることが多く、全国にはあまり出回りません。このため、長野のわさびは希少価値が高く、特定の高級料理店などから直接取引の依頼があることもあります。

 

わさびの静岡と長野の加工品と地元料理の違い

わさびは生のまま食べるだけでなく、様々な加工品としても楽しまれています。静岡県と長野県では、それぞれ特徴的なわさび加工品や地元料理があります。

 

静岡県では、「静岡のわさび漬け」が全国的に有名です。わさびの茎や葉を醤油や酒粕などで漬け込んだもので、ご飯のおかずやお酒のつまみとして親しまれています。静岡のわさび漬けは、わさびの甘さや香りを活かした風味豊かな味わいが特徴です。

 

一方、長野県安曇野市では、一般的なわさび漬けは茎を使いますが、この地域では根の部分を刻んで漬けています。ツンと広がるわさびの風味に、酒粕のコクが加わり、ごはんのお供や酒の肴として楽しまれています。また、わさびのり、わさびふりかけなどの加工品も人気です。

 

長野県の特徴的なわさび料理として、「わさび丼」があります。温かいご飯に鰹節、すりおろしたわさび、刻みのりをかけて、しょう油を少したらしていただきます。シンプルながらも、わさびの風味が活きた郷土料理です。

 

また、春の風物詩として地元で親しまれている「わさびの花のおひたし」も長野県の特徴的な料理です。わさびの花は、生のままでは辛みはありませんが、熱を通してしばらく置くと、わさび特有の香りと辛みが出てきます。黒岩わさび園では3月~4月半ばごろまで、ネット通販をしていますが、すぐに完売となることも多いそうです。

 

静岡県と長野県のわさび加工品や料理の違いは、それぞれの地域のわさびの特性を活かしたものとなっています。静岡のわさびは甘さや香りを活かした加工品が多く、長野のわさびは強い辛味と風味を活かした料理が特徴的です。

 

わさびの静岡と長野の観光スポットと体験

わさびの栽培は日本の伝統的な農業文化の一つであり、静岡県と長野県にはわさびをテーマにした観光スポットが数多く存在します。これらの場所では、わさびの栽培方法を学んだり、新鮮なわさび製品を味わったりすることができます。

 

静岡県では、伊豆地域や静岡地域のわさび田が観光スポットとして人気です。特に、伊豆のわさび田は「畳石式」と呼ばれる伝統的な栽培方法で知られており、その美しい景観は多くの観光客を魅了しています。わさび田は高い保水能力を持ち、河川の氾濫や洪水などの自然災害から下流地域を守る役割も果たしており、環境保全の観点からも注目されています。

 

また、静岡県のわさび田では肥料や農薬をほとんど使わず、湧水に含まれる養分で栽培に取り組んでいます。自然負荷の少ないわさび田は周辺に豊かな自然環境を育み、美しい景観を生み出すとともに、水辺を好む動植物の多様性に富んだ生態系をつくりだしています。

 

一方、長野県安曇野市には、約15ヘクタール(東京ドーム10個分あまり)という広大な敷地を持つ「大王わさび農園」があります。この農園は映画やテレビドラマの舞台にもなっており、園内では生わさびを使ったソフトクリームやコロッケなどのユニークな食品も味わえます。

 

また、環境省が行った「名水百選総選挙」(2015年)で、2部門の1位に選ばれた「安曇野わさび田湧水群」も長野県の魅力的な観光スポットです。安曇野では平地式の栽培方法のため、市街地の近くでもわさび田を見かけることができます。安曇野ICからアクセスも良く、周辺にはギャラリーや美術館も多いので、観光客に人気のドライブスポットとなっています。

 

これらの観光スポットでは、わさびの栽培方法や歴史について学ぶことができるだけでなく、新鮮なわさび製品を購入したり、わさびを使った料理を味わったりすることもできます。わさびの産地を訪れることで、日本の伝統的な食文化と農業の魅力を体験することができるでしょう。

 

静岡と長野、それぞれのわさび産地を訪れて、その違いを実際に味わってみるのも、日本の食文化を深く理解する良い機会となるでしょう。