

歯周病がある妊婦は、ない妊婦より早産リスクが約7.5倍高い。
「マタニティ歯科」という名称の専門クリニックが自宅の近くにないと焦る方は少なくありません。ただ、実際のところ、「マタニティ歯科」は独立した診療科目ではなく、妊婦への対応に注力した一般歯科の診療スタイルを指しています。つまり、近くに専門看板がなくても、妊婦対応可能な歯科医院は存在します。
まず確認すべき点は、ホームページやGoogle口コミに「妊婦対応」「安定期の治療可」「マタニティ対応」などの記載があるかどうかです。電話予約の際に「妊娠何週目ですが、対応可能ですか?」と直接聞くのが最も確実な方法です。それで大丈夫でしょう。
次に、自治体が配布する「妊婦歯科健診受診票」の対象医院リストを活用する方法があります。多くの市区町村では、母子手帳の交付時に歯科健診の受診票も同時に配布しています。この受診票が使える歯科医院は、自治体が事前に「妊婦対応可能」と確認しているため、信頼度が高いと言えます。
| 確認方法 | 具体的な行動 | 信頼度 |
|---|---|---|
| 自治体の受診医院リストを確認 | 市区町村HP・保健センター窓口で確認 | ⭐⭐⭐ 高 |
| 歯科医院のHPを確認 | 「マタニティ」「妊婦対応」記載を探す | ⭐⭐ 中 |
| 電話で直接確認 | 妊娠週数を伝えて対応可否を確認 | ⭐⭐⭐ 高 |
| 病院なびなどの検索サービス | 「妊婦の歯科治療」で絞り込み検索 | ⭐⭐ 中 |
産婦人科のかかりつけ医に「歯科はどこがいいですか?」と聞いてみるのも有効な手段です。産婦人科と連携している歯科医院を紹介してもらえるケースがあり、緊急時の対応も含めた安心感がぐっと高まります。つまり、近くに「マタニティ歯科」の看板がなくても、探し方次第で安全な受診先は見つかるということです。
参考:「マタニティ歯科が近くにない場合の歯科選び」に関する解説(ライオン歯科衛生研究所 ママ、あのね。)
妊娠中は歯科と縁が薄くなりがちですが、実はこの時期が口腔トラブルの急増ポイントです。これは知っておく必要があります。
妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンという女性ホルモンが通常の月経時と比べて10〜30倍に増加します。このホルモンの急増が、特定の歯周病菌の増殖を促進し、わずかな刺激でも歯ぐきが腫れたり出血したりしやすい状態を作り出します。これが「妊娠性歯肉炎」の主な原因です。
さらに深刻なのが、歯周病と早産の関係です。1996年にアメリカで行われた研究では、進行した歯周病を持つ妊婦は、健康な歯ぐきの妊婦と比較して早産・低体重児出産のリスクが約7.5倍になると報告されています。歯ぐきの炎症によって産生される「プロスタグランジン」という物質が血流を介して子宮に届き、本来の分娩時期より早く子宮を収縮させるメカニズムが関係しています。早産リスク7倍、これは喫煙や高齢出産よりも高い数字です。
つわりの影響も見逃せません。胃酸が口腔内に逆流することで歯のエナメル質が溶けやすくなり、虫歯リスクが上がります。また、吐き気で歯磨きが十分にできないと、プラーク(細菌の塊)が急速に蓄積されます。歯周病への注意は必須です。
参考:歯周病と早産リスクの詳しいメカニズムを解説した医師監修記事
歯周病は早産の原因になる?妊娠中に知っておきたいこと|Your Doctor
妊娠時期によって、受けられる治療内容は大きく異なります。これが基本です。
妊娠初期(0〜15週)は、赤ちゃんの器官が形成される最も重要な時期です。この時期はレントゲン撮影や投薬、積極的な治療を避け、応急処置を中心に対応します。つわりが強い時期でもあるため、治療椅子に仰向けになること自体が負担になるケースもあります。
妊娠中期(16〜27週)が、歯科治療に最も適したタイミングです。つわりが落ち着き、胎盤も安定し始めるこの時期は、虫歯治療・歯周病治療・歯石除去・クリーニングといった一般的な治療が可能になります。産前にやっておきたい治療はこの時期に集中させるのが原則です。
妊娠後期(28週〜出産)は、お腹が大きくなるため仰向けの姿勢が長時間続く治療は負担が大きくなります。この時期は緊急性のない処置を出産後に延期し、応急処置のみに絞るのが一般的です。
| 妊娠時期 | 週数の目安 | 受けられる治療 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 初期 | 0〜15週 | 応急処置のみ | 器官形成期のため慎重に対応 |
| 中期(安定期) | 16〜27週 | 虫歯・歯周病・クリーニング等 | ⭐最適な治療時期 |
| 後期 | 28週〜 | 応急処置中心、短時間のみ | 仰向け姿勢に配慮が必要 |
麻酔については、リドカインなど安全性の確認された局所麻酔を必要最小限で使用することが認められています。麻酔なしで痛みを我慢することは、かえってストレスと血圧上昇を招くため、母体への負担が大きくなります。痛みを我慢するのは正解ではありません。
レントゲンについても、歯科用のX線は照射範囲が口周辺に限定されており、防護用の鉛エプロンを着用すれば胎児への被曝はほぼゼロに抑えられます。「妊娠中はレントゲンNG」という思い込みを持つ患者も多いため、歯科医師側からの事前説明が信頼構築に直結します。
多くの方が知らない事実があります。妊婦歯科健診の助成制度は全国の自治体で整備されているにもかかわらず、その活用率が全国平均で3割台にとどまっているというデータがあります(読売新聞 2023年11月)。これは意外ですね。
つまり、母子手帳を受け取った妊婦さんの多くが、歯科健診の受診票を活用しないまま出産を迎えているという現状があります。その主な理由として考えられるのは、「つわりで通院が辛い」「歯に問題を感じていないから行かなくていいと思っている」「どこに行けばいいかわからない」の3点です。
歯科従事者として特に注目したいのが「問題を感じていないから行かない」という点です。妊娠性歯肉炎は初期段階では痛みをほとんど伴いません。患者自身が「異常がない」と感じていても、歯科的には歯周病が進行しているケースが多いのです。自覚症状だけでの判断は危険です。
また、横浜市のデータでは令和5年度に妊婦の44.5%が妊婦歯科健診を受診しており、全国平均3割台を大きく上回っています。この差は受診券の渡し方や周知方法の違いによるものが大きく、歯科側の情報発信が受診率を左右していることを示しています。これは使えそうです。
参考:妊婦歯科健診の受診率に関する読売新聞の記事(専門家コメントあり)
妊娠中は歯肉炎も虫歯も高リスク、歯科健診で「お口のチェック」を|読売新聞
マタニティ歯科を受診する意義は、妊婦本人の健康管理だけにとどまりません。これが重要です。
赤ちゃんはミュータンス菌(虫歯菌)を持たずに生まれてきます。ところが、生後6ヶ月頃に最初の乳歯が生え始めると、保護者の唾液を介して虫歯菌が感染するリスクが生じます。特に「感染の窓」と呼ばれる生後19ヶ月(1歳7ヶ月)〜31ヶ月(2歳7ヶ月)の約1年間は、ミュータンス菌が最も定着しやすい時期です。この時期に感染量が多いほど、将来の虫歯リスクが高くなると言われています。
つまり、妊娠中にお母さんの口腔内の虫歯菌を減らしておくことは、赤ちゃんの「ゼロ歳からの虫歯予防」になります。これは「マイナス1歳からの虫歯予防」とも呼ばれ、近年の小児歯科・マタニティ歯科の重要な概念となっています。
妊婦さんがこの「母子感染」の仕組みを事前に知っておくと、マタニティ歯科の受診動機が「自分のため」から「赤ちゃんのため」にシフトします。この視点を診療時の説明に組み込むだけで、患者の治療への納得感と協力度が大きく変わります。歯科従事者の説明力が鍵です。
参考:虫歯菌の母子感染・「感染の窓」について詳しく解説したページ
虫歯は母子感染に要注意?|ハートライフ錦糸町歯科クリニック
一般歯科とマタニティ歯科の最大の違いは、設備よりも「配慮の文化」にあります。これが条件です。
妊婦さんが歯科受診を躊躇う最大の理由の一つが「仰向けの姿勢が苦しい」という身体的な問題です。特に妊娠後期はお腹が大きく、長時間の仰向けは静脈が圧迫される「仰臥位低血圧症候群」を起こすリスクがあります。対策として、クッションで体の角度を調整したり、左側に少し傾けた姿勢で治療を行う歯科医院が増えています。
また、「つわりがひどくて予約したのにキャンセルしてしまう」という妊婦の心理的負担を軽減するため、短時間での診療プランや当日キャンセル可の柔軟な体制を設けている医院もあります。こまめな休憩が原則です。
心理面でのサポートも重要です。初診時に「いつでも手を挙げてください。すぐに止めます」という一言が、妊婦の緊張感を大きく和らげます。妊娠中は不安やストレスが高まりやすいため、治療の目的・内容・安全性について丁寧に説明し、患者が「選択肢を持っている」と感じられる環境を作ることが信頼関係の基礎になります。
さらに、全スタッフが女性で構成されているマタニティ歯科も存在します。受付・衛生士・歯科医師まで全員女性という体制は、妊婦にとって「体や気持ちの変化をわかってもらえる環境」として強い安心感を生みます。近くのマタニティ歯科を探している妊婦が「ここが良い」と感じるのは、機器のスペックよりも、こうした細やかな対応の積み重ねです。
参考:妊婦向けのマタニティ歯科診療の全体像と受診メリットをまとめた解説記事
妊娠中でも安心!マタニティ歯科診療の全て|歯科ほんだクリニック

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