

1回の除草剤で全滅できると思ったら、塊茎が地下30cmから何年も出芽して収量が半減します。
クログワイが「難防除雑草」と呼ばれる最大の理由は、地中深くに作られる塊茎(かいけい)にあります。この塊茎は表層から深さ15〜20cmに最も多く形成されますが、なんと30cmという深さからも出芽することが知られています。これはA4用紙の長辺(約29.7cm)とほぼ同じ深さです。
塊茎には複数の芽が備わっており、1つの芽が除草剤で枯れても、残った別の芽が次々と活動を始めます。これが「撒いたのに何度も生えてくる」と感じる正体です。つまり地上部が枯れただけでは根絶には遠く及びません。
さらに、クログワイの塊茎は休眠性を持っており、年によってあえて芽を出さない塊茎も存在します。土壌中での発芽力は5〜7年間持続することが確認されており、湿田条件では5年以上も生き続けます。これが条件です。
加えて、発生期間の長さも厄介な特徴のひとつです。水稲移植後1ヵ月ほどで芽を出し始め、移植後80日前後まで発生が続きます。4月下旬から9月まで断続的に生えてくるので、「早めに1回撒いて終わり」という対処では、後から発生する株への効果がほとんどありません。
この仕組みを理解しておけば大丈夫です。1回の除草剤散布で完全防除を期待するのではなく、発生時期を通じた「体系処理」が前提と考えることが、防除の出発点になります。
農研機構によるクログワイの発生生態に関する研究資料。
クログワイに有効な除草剤は、使用する時期によって3つに大きく分かれます。それぞれの役割と使い方を整理すると、防除の全体像がつかみやすくなります。
まず初期剤は、水稲移植直後〜クログワイが発生する前に使います。代表的な成分はペントキサゾン、ピラクロニルなど。テマカットフロアブルや草笛フロアブルが該当します。田んぼに水がある状態(湛水状態)を維持しながら、処理層を形成させることがポイントです。
次に初中期一発剤は、ノビエ2.5葉期程度まで幅広く使えるタイプです。ベンフレセート、ピリミスルファン、プロピリスルフロン、メタゾスルフロンなどが配合されています。トップガンGT1キロ粒剤51やビクトリーZ1キロ粒剤などが代表例です。これは使えそうです。
最後に中後期剤は、発生後のクログワイを狙い打ちにするものです。代表格がバサグラン粒剤(ナトリウム塩)で、クログワイに対する散布適期は「草丈15cm以下」と定められています。落水状態(足跡に水が残る程度)にして散布し、散布後少なくとも3日間は入水・落水しないことが条件です。草丈が15cmを超えてしまうと効果が著しく低下するため、田んぼの観察を怠らないようにしましょう。
| 除草剤の種類 | 使用時期 | 代表的な製品例 |
|---|---|---|
| 初期剤 | 移植直後〜発生前 | テマカットフロアブル、草笛フロアブル |
| 初中期一発剤 | 移植後〜ノビエ2.5葉期 | トップガンGT1キロ粒剤51 |
| 中後期剤 | クログワイ草丈15cm以下 | バサグラン粒剤(ナトリウム塩) |
なお、バサグラン粒剤などのスルホニルウレア(SU)系成分は1995年以降、アゼナ類やコナギ、イヌホタルイといった雑草でSU抵抗性が報告されています。同一のSU成分を連用し続けると、クログワイを含む雑草が除草剤への抵抗性を獲得してしまう可能性があります。SU成分を含まない除草剤とローテーションで使い分けることが原則です。
SU抵抗性雑草の判別・対策について詳しく解説された記事。
みのりナビ(BASFジャパン):SU抵抗性雑草とは?判別・対策方法と使える除草剤例一覧
多くの農家がやりがちな落とし穴がここにあります。クログワイの防除は水稲の生育期間中だけと思われがちですが、実は稲刈り後こそ翌年の発生密度を左右する重要なタイミングです。意外ですね。
クログワイは稲の刈り跡にも茎葉を再び伸ばしてきます。秋になると地下茎の先端に多数の塊茎を形成し、これが翌年の発生源となります。この塊茎形成を食い止めるために、稲刈り後に再生した個体に対して非選択性茎葉処理剤(グリホサート系など)を散布する方法が非常に効果的です。
JAえちぜんたけふの資料によると、散布時期が遅れるほど塊茎の数が多くなり除草効果が劣るとされており、9月下旬までを目安に散布することが理想とされています。さらに2年連続で秋に散布すると、ほぼ根絶が可能になるという知見も示されています。これは使えそうです。
ただし、稲刈り後の除草剤散布には注意点があります。非選択性除草剤は稲を含むすべての植物を枯らすため、周囲の作物や隣接する田んぼへの飛散には十分注意が必要です。散布後すぐに耕起すると防除効果が低下するため、散布から数日は間隔を置いてから耕起するようにしましょう。
岩手県農業普及技術課による稲刈り後のクログワイ対策の解説。
除草剤の効果を最大限に引き出すためには、耕種的防除との組み合わせが欠かせません。除草剤単独では根絶が難しいというのが実情です。
まず大きな効果が期待できるのが秋期の耕起(秋耕)です。クログワイの塊茎は乾燥と低温(−7℃以下)に弱いという特性があります。秋耕によって深い位置にある塊茎を地表に露出させ、冬期間の寒気や乾燥にさらすことで死滅させられます。この際、ロータリ耕よりもプラウ耕のほうが深い位置の塊茎まで掘り起こせるため効果的です。
ただし、気温の高い地域では効果が出ない場合もあるため注意が必要です。厳しいところですね。
次に有効な手段が中干し・間断灌水です。水田を定期的に乾燥させて空気に触れさせることで、湛水状態を好むクログワイの発生を抑えられます。また、遅植や密植によって稲の茂り具合を増やし、雑草が光を受けにくい環境を作ることも、塊茎の形成量を減らすうえで有効です。
最も根本的な対策が田畑輪換です。水田を数年にわたり畑として利用することで、地中の塊茎を減少させられます。ただし、畑土中でも塊茎は生き続けるため、3年以上継続することが望ましいとされています。結論は3年以上の継続です。
シンジェンタジャパンによるクログワイの生態と耕種的防除の詳細解説。
クログワイに似た水田雑草として、同じカヤツリグサ科のイヌホタルイが存在します。この2種は見た目が非常に似ていますが、生態や除草剤の適用が異なるため、正確に見分けることが防除効果を左右します。
最もわかりやすい見分け方が茎の触り方です。クログワイの茎は中空で、内部に2〜4cm間隔の隔膜があります。指で茎をつぶすと「パチパチ」という音がします。これはA5ノートの横幅程度(約14cm)に伸びた細い茎を指でしごくだけで確認できます。一方、イヌホタルイの茎の内部はスポンジ状で、押すと固いしこりを感じます。
次に株元の色にも注目しましょう。クログワイは株元が赤みを帯びているのが特徴で、イヌホタルイと明確に区別できます。また、茎の先端の形状も異なります。クログワイは茎の先端に茎と同じ太さの丸い花穂を付けますが、イヌホタルイは茎の途中に花穂が付き、先端は鋭く尖って縦縞模様が見られます。
さらに芽生えの段階で見分けることができれば最も効果的です。クログワイは塊茎から茎が伸びているため、茎の根元に黒っぽい球形の塊茎が付いています。イヌホタルイは種子から発生するため根元に何も付いておらず、葉の先に種の殻が残っていることがあります。早期発見・早期対処が基本です。
正確に雑草を判別したうえで除草剤を選ぶことが、防除効果の最大化につながります。複数の雑草が混在している田んぼでは、どの雑草に対してもカバーできる一発処理剤か、各雑草の特性に合わせた体系処理かを選択することが重要です。
BASFジャパン「みのりナビ」によるクログワイとイヌホタルイの見分け方の詳細。
みのりナビ(BASFジャパン):クログワイの除草対策!水田雑草を見分けて効果的に防除する方法