抗生物質種類と効果・主な使い分け

抗生物質種類と効果・主な使い分け

抗生物質種類と特徴

抗生物質の主な系統と特徴
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β-ラクタム系

ペニシリン系やセフェム系が含まれ、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を発揮します

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マクロライド系

細菌のタンパク質合成を阻害し、非定型病原体にも効果を示します

ニューキノロン系

吸収性が良く多くの細菌に効果を発揮する広域抗菌薬です

抗生物質は、細菌による感染症を治療するための医薬品です。風邪やインフルエンザなどウイルス性の感染症には効果がないため、すべての感染症に使用されるわけではありません。
参考)https://www.tokyo-hokensyakyougikai.jp/contents/initiative/kokinyaku_tekisei.html

抗生物質には複数の系統があり、それぞれ作用機序や効果を発揮する細菌の種類が異なります。医師は感染症の原因となっている細菌の種類を推定または検査で特定し、最も効果的な抗生物質を選択して処方しています。
参考)https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h00055/

主な抗生物質の系統として、β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系、アミノグリコシド系などがあります。それぞれの系統には独自の特徴と適応症があり、症状や原因菌に応じて使い分けられています。
参考)https://www.38-8931.com/pharma-labo/carrer/skill/kokinyaku.php

抗生物質の主要な系統別分類

抗生物質は作用機序や化学構造によって系統分類されています。最も広く使用されているのはペニシリン系とセフェム系で、両者とも細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を発揮します。
参考)https://www.honenaika.com/column/%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC%EF%BC%88%E6%8A%97%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%B3%AA%EF%BC%89%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E/

ペニシリン系抗生物質は、主にグラム陽性菌を中心に幅広い抗菌スペクトルを持ちます。代表的な薬剤として、アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム(オーグメンチン)やアンピシリン水和物などがあり、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎などに使用されます。ただしβ-ラクタマーゼという酵素を産生する細菌には効果が期待できないため、β-ラクタマーゼ阻害剤との合剤が用いられます。​
セフェム系抗生物質は第1世代から第4世代まで存在し、世代が進むにつれて効果を発揮する細菌の範囲(スペクトラム)が広がります。第1世代のセファゾリンはグラム陽性球菌に強く、MSSAの第一選択薬として使用されます。第2世代のセフォチアムはグラム陰性菌へのカバーを広げ、市中肺炎や尿路感染に使いやすい特徴があります。第3世代以降はさらに広域なスペクトルを持ち、重症感染症にも対応できます。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/luncheon_20160511.pdf

薬剤師向けの内服抗菌薬の種類とそれぞれの特徴
マクロライド系抗生物質は、細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害します。代表的な薬剤として、アジスロマイシン水和物(ジスロマック)やクラリスロマイシン(クラリス)があり、ペニシリンアレルギーの患者に使用されることが多いです。また、マイコプラズマやクラミジアなど細胞内に寄生する細菌にも効果があるため、非定型肺炎の治療に重要な役割を果たします。
参考)http://e-matsumoto.ftw.jp/u38044.html

抗生物質種類ごとの作用メカニズム

抗生物質は細菌を殺したり増殖を抑えたりする作用機序によって分類されます。主な作用メカニズムとして、細胞壁合成阻害、タンパク質合成阻害、核酸合成阻害の3つがあります。
参考)https://chikusannavi.kyoritsuseiyaku.co.jp/disease/255

細胞壁合成阻害型の抗生物質は、細菌が持つ細胞壁の形成を妨げることで殺菌作用を発揮します。人間の細胞には細胞壁がないため、この作用機序は細菌だけに選択的に作用し、比較的副作用が少ないという利点があります。ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系がこのタイプに分類されます。
参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_09.pdf

タンパク質合成阻害型の抗生物質は、細菌のリボソームに結合してタンパク質の合成を妨げます。マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系がこのメカニズムで作用します。テトラサイクリン系は抗菌薬の中でも広いスペクトルを持ち、グラム陽性菌やグラム陰性菌だけでなく、マイコプラズマなどにも効果を示します。代表的な薬剤として、ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)があり、慢性呼吸器病変の二次感染、表在性・深在性皮膚感染症などに使用されます。​
核酸合成阻害型のニューキノロン系抗菌薬は、細菌のDNA複製を妨げることで殺菌作用を発揮します。体内への吸収が良く、多くの種類の細菌に効果を発揮するため、膀胱炎の治療では多くの場合で最初に使用される薬とされています。代表的な薬剤として、レボフロキサシン(クラビット)、シプロフロキサシン(シプロキサン)などがあり、1日1回程度の内服で済むため服薬コンプライアンスが良好です。ただし閉経後の女性ではキノロン系薬剤に耐性を持った大腸菌が原因菌であることが多く、別の薬剤が使用されることがあります。
参考)https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/2kgb8/

抗生物質種類と症状別の使い分け

抗生物質は感染症の種類、原因菌、患者の年齢や妊娠の有無などによって使い分けられます。医師は症状と検査結果から最適な抗生物質を選択します。
参考)https://seisekikodomo.com/blog/%E6%8A%97%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%B3%AA%EF%BC%88%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC%EF%BC%89%E3%81%AE%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E4%BD%BF%E3%81%84%E6%96%B9%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6/

若い女性の単純性膀胱炎では、ニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬として使用されることが多いです。レボフロキサシンなどは切れ味も良く、1日1回程度の内服で済むため便利ですが、耐性菌の問題もあるため適切な使用が求められます。一方、閉経後の女性や妊娠中の女性の膀胱炎には、セフェム系抗生物質が第一選択薬として使用されることが多いです。代表的な薬剤として、セファクロル(ケフラール)、セフジニル(セフゾン)、セフカペン ピボキシル(フロモックス)などがあります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/infection/1681

急性咽頭炎の多くはウイルスが原因ですが、A群溶連菌という細菌が原因の場合には抗生物質での治療が必要です。のどの痛みだけで抗生物質を使わず、必要なら迅速検査で確認することが推奨されています。溶連菌咽頭炎と診断された場合は、ペニシリン系やセフェム系の抗生物質が処方されます。​
尿路感染症の抗菌薬の選び方~若い女性・高齢者の違い
急性中耳炎は子どもに多く、発熱、耳の痛み、耳だれなどの症状があらわれます。症状が強ければ抗生物質を使って治療しますが、ウイルスが原因のことが多く、症状が軽ければ自然に治っていくため、抗生物質を使わずに治療することもあります。抗生物質を使用する場合は、主にアモキシシリンなどのペニシリン系や、セフェム系の抗生物質が選択されます。​

抗生物質種類選択における耐性菌への配慮

抗生物質の不適切な使用は薬剤耐性菌の増加につながるため、世界的な問題となっています。薬剤耐性菌とは、抗生物質が効かなくなった細菌のことで、感染症の治療を困難にします。
参考)https://www.mhlw.go.jp/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/2018/09_01.html

抗生物質を使い過ぎると、体内の良い細菌も殺してしまい、かえって健康を害することがあります。人の体内には腸内細菌をはじめとする常在菌が多数存在し、これらが栄養吸収や免疫機能に重要な役割を果たしています。必要がないのに抗生物質を飲むと、良い細菌を殺してしまい、悪い細菌が増殖しやすくなって下痢などの副作用が出ることがあります。
参考)https://diamond.jp/articles/-/159766?page=2

抗生物質を飲むのを途中でやめたり、飲んだり飲まなかったりの不適切な飲み方をすると、菌の中で抵抗性を示すもの(薬剤耐性菌)が出現し、抗生物質が効きにくくなってしまいます。処方された抗生物質は指示された量や回数を守り、症状が良くなっても最後まで飲み切ることが重要です。途中で服用をやめてしまうと、体内には原因となった菌が残っている可能性があり、再び菌が増殖して症状がぶり返してしまう恐れがあります。
参考)http://www.yodokyo.or.jp/info/advice_207.html

厚生労働省による抗生物質・抗菌薬の正しい使い方
風邪の約90%以上はウイルス感染が原因であり、抗生物質は原則不要です。軽症の鼻炎や咽頭炎、短期間の咳や発熱では抗生物質を使わず自然に回復するケースが大多数です。風邪で不必要に抗生物質を使用すると副作用のリスクだけが高まり、さらに耐性菌を生み出す原因となります。​

抗生物質種類別の主な副作用と注意点

抗生物質には様々な副作用があり、系統によって注意すべきポイントが異なります。最も代表的な副作用は下痢で、腸内細菌という良性の細菌が抗生剤によって殺されることが原因です。
参考)https://www.souki-bam.com/column/kousei.html

ペニシリン系抗生物質の副作用として、下痢、食欲不振、悪心、発疹などが報告されています。また、一部の人にアレルギー反応を引き起こすことがあり、重篤な場合にはアナフィラキシーショックを起こす可能性もあるため注意が必要です。アレルギー体質の方や過去にペニシリンアレルギーの既往がある方は、必ず医師に伝える必要があります。​
セフェム系抗生物質も比較的副作用が少ない系統ですが、下痢、腹痛、発疹、肝機能異常などが起こることがあります。ペニシリン系との交差アレルギーがあるため、ペニシリンアレルギーのある方は慎重に使用する必要があります。​
マクロライド系抗生物質の副作用として、味覚異常、下痢、腹痛、肝機能異常などが報告されています。クラリスロマイシンでは特に苦味を感じることがあり、服薬コンプライアンスに影響することがあります。​
ニューキノロン系抗菌薬は光線過敏症を起こすことがあるため、服用中は日光を避ける必要があります。また、妊娠中の使用は避けられ、小児への使用も制限されています。他の薬との飲み合わせも考慮が必要で、特に鉄剤やカルシウム剤、マグネシウムを含む制酸剤などと同時に服用すると吸収が悪くなることがあります。​
テトラサイクリン系抗生物質は、光線過敏症、めまい、頭痛、胃腸障害などの副作用があります。また、歯や骨の発育に影響を与える可能性があるため、妊婦や8歳未満の小児への使用は避けられます。​
抗生物質の副作用として、免疫力の低下も懸念されています。抗生物質が有益な腸内細菌も殺してしまうことで、免疫力に大きく関わる腸内環境が乱れ、かえって感染症にかかりやすくなるリスクがあります。​

系統 主な副作用 特に注意が必要な方
ペニシリン系 下痢、食欲不振、悪心、発疹、アレルギー アレルギー体質の方、ペニシリンアレルギーの既往がある方
セフェム系 下痢、腹痛、発疹、肝機能異常 ペニシリンアレルギーのある方
マクロライド系 味覚異常、下痢、腹痛、肝機能異常 肝機能障害のある方
ニューキノロン系 光線過敏症、めまい、頭痛、腱障害 妊婦、小児、高齢者
テトラサイクリン系 光線過敏症、めまい、頭痛、胃腸障害 妊婦、8歳未満の小児

副作用が出た場合は、すぐに服用を中止して医師や薬剤師に相談することが重要です。特に蕁麻疹や呼吸困難などのアレルギー症状が出た場合は、直ちに受診する必要があります。​