

カルダモンを「少し」入れるつもりで大さじ1杯入れると、コーヒーが渋くて飲めなくなります。
アラビアコーヒー(カフワ・アラビー)は、サウジアラビア・UAE・クウェートといった中東・アラビア半島の国々で古くから親しまれてきた伝統飲料です。2015年にユネスコ無形文化遺産にも登録されており、単なる飲み物ではなく、歓迎や敬意を示すための文化的な儀式としての意味を持っています。
日本で「アラビアコーヒー」と聞くと、濃くて甘いトルコ式コーヒーを想像する方も多いかもしれません。しかし実際は異なります。アラビアコーヒーは砂糖をほとんど使わず、カルダモンなどのスパイスを加えた淡い黄金色の飲み物です。
コーヒー豆の焙煎度合いも大きな特徴の一つです。一般的な日本のコーヒーが中〜深煎りであるのに対し、アラビアコーヒーでは浅煎り〜中煎りの豆を使います。そのためカフェインの苦みよりも、スパイスと豆の風味が前面に出てきます。つまり「コーヒーらしくない」と感じる方も多い飲み物です。
中東では「カルダモン入りコーヒー」とも呼ばれ、ゲストをもてなす席では必ずといっていいほど登場します。小さな取っ手のないカップ(フィンジャン)でサーブするのが伝統的なスタイルです。
まず材料から整理しましょう。基本的な材料は以下の通りです。
スパイスの中でも特に重要なのがカルダモンです。「スパイスの女王」とも呼ばれるカルダモンは、清涼感のある独特の香りが特徴で、アラビアコーヒーには欠かせません。ホールのカルダモンを軽く砕いてから使うと、香りがより豊かに出ます。
サフランはやや高価なスパイスで、コーヒーに淡いゴールドの色味と独特の甘い香りを加えます。1gあたり数百円するものもありますが、使う量が極めて少ないため、一袋(約1g)あれば20〜30回分は使えます。これは使えそうです。
スパイスの分量には特に注意が必要です。カルダモンパウダーを小さじ1杯以上入れると、薬草のような強い苦みが出て飲みにくくなります。小さじ1/4が基本です。スパイスは「ほのかに感じる」程度が正解です。
コーヒー豆はイエメン産の「モカマタリ」やエチオピア産の浅煎り豆が本格的です。手に入らない場合は、スーパーで購入できる「ライトロースト」や「シナモンロースト」と表記された豆でも代用できます。
道具の準備から始めましょう。本来は「ダラ(دلة)」と呼ばれる長い注ぎ口のついた専用ポットを使いますが、家庭では小鍋とペーパーフィルターで十分に再現できます。
基本の手順(2〜3杯分)
手順はシンプルです。ただし、煮出す時間に注意が必要です。5分を超えて煮続けると渋みが増してしまいます。3〜5分が鉄則です。
火を止めた後に2〜3分置く「蒸らし」のステップが大切です。この間にコーヒーの粉が自然に沈殿し、漉す際に濁りが出にくくなります。焦らず待つことが大事ですね。
アラビアコーヒーは基本的に砂糖を加えずに飲みます。甘みを足したい場合は、デーツ(ナツメヤシの実)を一緒に添えるのが本場のスタイルです。デーツは輸入食材店やAmazonなどのネット通販で入手可能で、500g前後で700〜1,200円程度が相場です。
多くのレシピでは「カルダモンを入れるだけ」で終わっています。しかし実は、スパイスを「いつ」「どの状態で」加えるかによって、香りの深さが大きく変わります。これは意外ですね。
スパイスのベストな加え方は3段階に分けられます。
家庭で試すなら「沸騰後に加える」方法が最も失敗しにくいです。これが初心者向けの原則です。
さらに知っておくと便利なのが、スパイスの「ホール vs パウダー」の違いです。ホール(粒)のままのカルダモンは香りがゆっくり出るため、渋みが出にくく安定した味になります。一方でパウダーは香りが強く出る反面、入れすぎると一気に味が壊れます。初めて作る場合はホールのカルダモンを選ぶのが安全です。
カルダモンは「グリーンカルダモン」と「ブラックカルダモン」の2種類があります。アラビアコーヒーに使うのは必ずグリーンカルダモンです。ブラックカルダモンはスモーキーな風味が強く、コーヒーに使うと燻製のような風味になってしまいます。パッケージの色と名称をよく確認して購入してください。
スパイスの保存方法も味に影響します。開封したスパイスは光・熱・湿気に弱く、常温の引き出し保存では3ヶ月程度で香りが落ちます。密閉容器に入れて冷暗所(または冷蔵庫)で保存すると、6〜12ヶ月は十分な香りをキープできます。
アラビアコーヒーは浅煎り豆を使うためカフェイン量が多いと思われがちですが、実はそうではありません。焙煎が浅いほどカフェインが多いのは確かですが、アラビアコーヒーは豆の使用量が少ない(コーヒー1杯に対して豆が約5〜8g)ため、1杯あたりのカフェイン量はドリップコーヒーより少なめになるケースがほとんどです。
一般的なドリップコーヒー(150ml)のカフェイン量は約60〜80mgとされています(農林水産省資料より)。アラビアコーヒーはサーブ量も少なく(フィンジャン1杯が約50〜80ml程度)、1杯あたりのカフェインは20〜40mg程度と推測されます。カフェインが少ないということですね。
カルダモンには消化促進・口臭予防・抗酸化作用があるとされており、中東では伝統的に「薬草茶」に近い感覚で飲まれてきた歴史があります。食後に飲む習慣が根付いているのも、この消化促進効果と関係しています。
ただし注意点もあります。妊娠中の方はカルダモンを多量に摂取することを避けることが推奨されています。少量のスパイスであれば問題はありませんが、1日に複数杯を毎日飲み続けるような場合は医師に相談するのが安心です。妊娠中の方は注意が必要です。
また、アラビアコーヒーを楽しむ際に一緒に食べることの多い「デーツ」は、鉄分・食物繊維・カリウムが豊富な食品です。貧血が気になる女性にとって、デーツとのペアリングは栄養面でも理にかなっています。
基本レシピをマスターしたら、アレンジにも挑戦してみましょう。本場の中東でも地域によってスパイスの配合は異なり、「正解は一つではない」というのがアラビアコーヒーの面白いところです。
おすすめのアレンジ例
器にもこだわると、より雰囲気が出ます。本場では「フィンジャン」と呼ばれる小さな磁器カップを使いますが、和食器のぐい呑みでも代用できます。容量50〜80ml程度のカップが最適です。
アラビアコーヒーをもてなしに使う場合、中東の礼儀として「カップを右手で受け取る」「お代わりは軽くカップを振って断意思を示す」といったマナーがあります。日本のお茶と同様に、作法を知ると飲む楽しさが増します。これは知っていると使えますね。
自宅でのおもてなしシーンに取り入れると、デーツや小さなナッツ類と一緒に出すことで、手の込んだ印象を与えられます。見た目の演出として、金色のポット型のコーヒーピッチャーをテーブルに置くだけでも雰囲気がグッと変わります。
ネット通販(Amazonや楽天)では「アラビアコーヒーポット」「ダラ ポット」と検索すると、装飾付きの本格的なポットが2,500〜6,000円程度で購入できます。プレゼントとしても人気の品です。
まとめとして整理しておきます。アラビアコーヒーの作り方で押さえるべき核心は次の3点に集約されます。
スパイスコーヒーに慣れていない方は、最初はカルダモンだけで試して、徐々にサフランやクローブを加えていくとハードルが下がります。一度コツをつかめば、毎朝のコーヒーが中東の旅のような体験に変わります。
JETRO | 中東の食文化・飲食習慣に関する情報(日本貿易振興機構)