
日本において、「コンデンスミルク」と「練乳」は基本的に同じものを指します。正確には、練乳という大きな括りの中の一種類である「加糖練乳」のことを一般的に「コンデンスミルク」と呼んでいます。
日本の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(通称:乳等省令)では、練乳は以下の4つに区分されています。
このうち、一般的に「練乳」と言えば加糖練乳を指すことがほとんどです。加糖練乳は乳等省令で「乳脂肪分8%以上・乳固形分28%以上・全ての糖分58%以下」と定義されています。
「コンデンスミルク」という表記は、英語の「condensed milk」に由来しており、日本では1872年(明治5年)の『新聞雑誌』の記事にすでに用例が見られるほど古くから使われています。
興味深いことに、アメリカと日本ではコンデンスミルクの定義が異なります。アメリカでは「condensed milk」は無糖練乳を指し、日本でいうところのエバミルクに相当します。一方、加糖練乳は「sweetened condensed milk」と明確に区別して呼ばれています。
この違いは国際的な料理レシピを見る際に混乱の原因となることがあります。例えば、アメリカのレシピで単に「condensed milk」と書かれている場合、日本人は加糖練乳(コンデンスミルク)を思い浮かべますが、実際には無糖練乳を指していることがあるのです。
このような認識の違いは、海外旅行や国際的なレシピを試す際に注意が必要です。特に甘さの調整が重要なデザートなどでは、間違った種類の練乳を使うと味が大きく変わってしまいます。
加糖練乳(コンデンスミルク)と無糖練乳(エバミルク)は、製造方法にも違いがあります。
【加糖練乳(コンデンスミルク)の製造工程】
【無糖練乳(エバミルク)の製造工程】
両者の大きな違いは、加糖練乳には砂糖が加えられることと、無糖練乳は最終的に高温滅菌されることです。砂糖の添加は保存性を高める効果があるため、加糖練乳は無糖練乳よりも保存期間が長くなります。
コンデンスミルク(加糖練乳)と無糖練乳(エバミルク)は栄養成分にも大きな違いがあります。この違いは健康を意識する方にとって重要なポイントとなります。
【100gあたりの栄養成分比較】
種類 | カロリー | 糖質 | たんぱく質 | 脂質 |
---|---|---|---|---|
加糖練乳 | 約330kcal | 約55g | 約8g | 約8g |
無糖練乳 | 約144kcal | 約11g | 約7g | 約8g |
この比較からわかるように、加糖練乳は無糖練乳に比べてカロリーが2倍以上、糖質は約5倍も高くなっています。これは加糖練乳に約44%もの砂糖が含まれているためです。
健康面を考慮すると、無糖練乳の方が明らかに優れています。特に糖質制限中の方やカロリーを気にする方は、無糖練乳を選ぶことで同様の濃厚さを楽しみながら、カロリーと糖質を大幅に抑えることができます。
また、自宅で練乳を手作りする方法もあります。基本的には牛乳と砂糖を鍋に入れ、中火で煮詰めるだけの簡単な工程です。自作することで砂糖の量を調整できるため、市販品よりも健康に配慮した練乳を作ることが可能です。
練乳の歴史は意外と古く、1820年に瓶詰を発明したニコラ・アペールが開発を試みたものの失敗しています。その後、1857年にアメリカの発明家ゲール・ボーデンが真空蒸発の技術を応用し、牛乳から余分な水分を蒸発させる方法を確立しました。これが現代の練乳の原型となりました。
当初、練乳は缶詰として長期保存が可能な兵糧として重宝されました。特にアメリカの南北戦争では北軍の兵士に提供され、戦後も口コミで人気が広がりました。第一次世界大戦時には練乳の生産が増加し、それに伴いチーズの価格が高騰するという経済現象も起きています。
日本での練乳製造は1915年(大正4年)に長野県須坂市の畜産組合と北海道函館市のトラピスト修道院で始まりました。
世界各地での練乳の使われ方は実に多様です。
無糖練乳(エバミルク)は甘みがないため、主に料理に使われます。グラタンやシチューなどの乳製品を使ったメニューにコクを加える目的で活用されることが多いです。
コンデンスミルク(加糖練乳)と無糖練乳(エバミルク)は、その特性を活かした様々な料理やお菓子に活用できます。それぞれの特徴を理解して使い分けることで、料理の幅が広がります。
【加糖練乳(コンデンスミルク)の活用レシピ】
【無糖練乳(エバミルク)の活用レシピ】
特に注目したいのは、両者を組み合わせた「ハイブリッドレシピ」です。例えば、ケーキ生地には無糖練乳を使ってカロリーを抑え、トッピングには少量の加糖練乳を使うことで、全体の糖質を抑えながらも満足感のあるデザートを作ることができます。
また、家庭で手作り練乳を作る際に、砂糖の代わりにメープルシロップやはちみつを使うと、より自然な甘みを楽しむことができます。さらに、牛乳の代わりに豆乳やアーモンドミルクを使って植物性の練乳を作ることも可能です。
これらの創造的な使い方を知ることで、コンデンスミルクと練乳をより効果的に活用できるようになります。料理の幅が広がるだけでなく、健康に配慮した食生活にも役立てることができるでしょう。
練乳の製造方法について詳しく解説されている日本乳業協会のサイト
日本とアメリカでのコンデンスミルクと練乳の違いについて詳しく解説されているサイト