

カブリオールはバーレッスンだけでは絶対に身につかない跳躍技です。
カブリオール(仏:cabriole)は、フランス語で「はねまわる・飛び跳ねる」を意味するバレエ用語です。片脚を前・横・後ろのいずれかの方向に振り上げて跳び上がり、空中で両脚を打ち合わせてから着地するジャンプ技のことを指します。
実はこの「cabriole」という言葉の語源はさらに面白く、もともとは「山羊や馬が跳ね回ること」を表すフランス語の名詞です。バレエだけでなく馬術の跳躍技にも同じ言葉が使われており、英語では「capriole(カプリオール)」と表記されます(b と p の一字違いですが語源は共通です)。さらに余談ですが、アンティーク家具の S 字型に湾曲した脚部を「カブリオール脚(cabriole leg)」と呼ぶのも同じ語源からきています。動物が脚を大きく曲げて跳ねる姿がそのまま言葉になったわけですね。
つまり「山羊がはね回るような跳躍」です。
ジャンプ技の中でもカブリオールは難度が高い部類に入ります。ただ高く跳ぶだけでなく、空中で脚を打ち合わせるタイミング・膝とつま先の伸び・着地の静けさまで総合的に評価される技です。バレエ作品の舞台上では主に男性ダンサーが担当することが多く、『ドン・キホーテ』第3幕グラン・パ・ド・ドゥのコーダや、『眠れる森の美女』のデジレ王子のヴァリエーションなど、クライマックスを飾るパートで登場します。女性ダンサーも『パキータ』や『白鳥の湖』第1幕パ・ド・トロワなどで披露する技です。
なお、カブリオールとよく混同されるのが「ブリゼ」です。どちらも片脚で踏み切り、空中で両足を打ち合わせる点は同じ。しかし、ブリゼが両脚で着地するのに対し、カブリオールは振り上げた脚を空中に残したまま踏み切った脚で片脚着地します。見た目の印象を例えると、ブリゼは「1・2」のリズムで細かく速い動きなのに対し、カブリオールは「1・2・3」とゆったり大きな印象です。
バレエを観に行く際にこの違いを知っているだけで、舞台鑑賞の楽しさがぐっと増しますね。
【第18回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究! カブリオール(バレエチャンネル・東洋大学教授 海野敏氏執筆)
※カブリオールの語源・ブリゼとの違い・作品中での登場シーンを権威ある舞踊評論家が詳しく解説しています。
カブリオールには、脚を振り上げる方向によって大きく3種類があります。それぞれの特徴と注意点を整理しておきましょう。
まず「カブリオール・ドゥヴァン」は、脚を前方向に振り上げるカブリオールです。視界に入りやすく脚のラインを見せやすい半面、骨盤の後傾(後ろに傾く)や膝の曲がりが起きやすい傾向があります。初心者が最初に挑戦するのはこの方向が一般的で、脚の高さよりもまず姿勢の安定を優先することが大切です。
次に「カブリオール・デリエール」は、脚を後ろ方向に振り上げるカブリオールです。後方への振り上げは腰が反りやすく、胸が落ちやすい点に注意が必要です。着地するときに後ろの脚を落とさないように意識し、上半身は第1アラベスクを強く保つことがポイントになります。
そして「カブリオール・ア・ラ・スゴンド」は、脚を横方向に振り上げるカブリオールで、3種類の中でも難度が高いとされています。股関節の外転が鍵になるため、体幹の側屈を抑えながら上半身を長く保つ意識が求められます。
3種類の違いをまとめると以下の通りです。
| 種類 | 方向 | 見せ場 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| ドゥヴァン | 前 | 前脚の甲とライン | 骨盤後傾・膝曲がりを防ぐ |
| デリエール | 後ろ | 後脚の高さと長さ | 腰反り・胸の落ちを防ぐ |
| ア・ラ・スゴンド | 横 | 横への広がり | 体幹の側屈を抑える |
さらに上級者向けとして、空中で両脚を2回打ち合わせる「カブリオール・ドゥーブル(ダブル・カブリオール)」があります。これは男性ダンサーの超絶技巧のひとつで、女性ダンサーが行う場合は1回打ちが基本です。1回打ちの時点でも十分に難しいので、まずは丁寧に1回の打ち合わせをマスターすることに集中しましょう。
ダブルは「余裕が出てから」が原則です。
写真で見る【カブリオール】前・横・後ろのカブリオールのやり方(大人バレエ otonaballet.com)
※ドゥヴァン・ア・ラ・スゴンド・デリエール3方向のやり方を写真つきで確認できます。
カブリオールに挑戦するとき、いきなりセンターで通し練習をしようとする方は少なくありません。しかし、それは回り道になります。まずバーを使った準備練習で動きを分解して身体に覚えさせることが、最短ルートです。
段階的な練習ステップは次の順番で進めましょう。
練習において特に覚えておきたいポイントは「脚のバットマン(振り上げ)の角度」です。45度程度が最も効率よく身体全体を浮き上がらせられます。脚を高く振り上げすぎると腰が落ちて、逆に浮き上がれなくなります。男性プロダンサー並みの脚力がなければ90度以上は難しいため、まずは45度で感覚をつかむことを目標にしましょう。
また、自宅のフローリングやカーペットでの練習は基本的に推奨されません。フローリングは滑りやすく、カーペットは逆に滑りにくくなりすぎるため、どちらもジャンプ練習に不向きです。バレエ教室のバーレッスンで、バレエ用の床面(スプリングフロアが理想的)で練習することが安全です。
スタジオで練習するのが基本です。
技術的な動きを覚えたあとに意識したいのが、より美しく見せるための体の使い方です。カブリオールの「美しさ」は高さだけでは決まりません。打点の鮮明さ・上半身の品位・着地の静けさという3つの要素が揃ってはじめて完成度の高い跳躍になります。
まず「バロン(浮遊感)」を作る跳び出しについてです。床を押す方向を真下ではなく、身体重心のやや前に向けて斜めに押すと、上方向への推進力が増します。足首の素早い底屈と膝の伸展を同時に行い、上半身は遅れてついてくるイメージにすると、空中の静止感が生まれます。ジャンプ力だけに頼らず、足首のバネと股関節の素早い外旋(アンデオール)を活かすことが重要です。
次に、打ち合わせのタイミングと感覚についてです。打点は最高到達点の直前、上向きの速度がまだ残っている瞬間に設定します。振り上げた脚に下の脚を引き寄せるイメージで、太もも同士を素早く近づけて即座に離れる感覚が正解です。膝は完全に伸ばし、足首は強いポイント(つま先を伸ばした状態)を維持しましょう。打った後、打たれた脚がさらに上へと伸びていくのがきれいなカブリオールの特徴です。
上半身の使い方も見逃せないポイントです。跳躍中は肩を落とし、首を長く保ち、鎖骨を横に広げる意識を持ちましょう。視線は先行脚の延長線上においてブレないようにします。口角と胸の開きで余裕を表現できると、技巧が芸術へと昇華します。着地では骨盤を落とさず、背中を強く引き上げることで静かで優雅な着地が実現できます。
着地で「背中の引き上げ」が鍵になります。
また、音楽とのタイミングを意識することも重要です。音の弱拍で跳び出し、強拍の直前に打点が来るように調整すると、音楽との一体感が生まれ、見る人の印象に強く残ります。バレエは技術だけでなく音楽性との融合が評価されますので、カウントを意識しながら練習する習慣をつけましょう。
カブリオールは着地のたびに膝・足首・股関節に一定の衝撃がかかります。特に大人バレエの場合、準備運動や練習後のケアが不十分だと、足首の捻挫や膝の痛み、股関節の違和感が生じやすくなります。楽しくバレエを続けるために、怪我の予防を意識した練習習慣を整えることが大切です。
練習前のウォームアップは必ず行いましょう。全身を温める軽い有酸素運動を3〜5分行ったあと、足関節のモビリティ(可動域)確保、股関節外旋のアクティブ可動、体幹の呼吸法を順番に取り入れます。続いて低負荷のソテ(小さなジャンプ)を繰り返して神経系を起動させてから、カブリオールの練習に入るのが安全なプロセスです。静的ストレッチは練習前ではなく練習後に行うほうが、筋肉への負担が少なく効果的です。
着地の際は「爪先→ボール(土踏まず)→かかと」の順に足裏をロールさせ、膝と股関節で衝撃を分散させます。無音に近い着地ができているかどうかが、身体への衝撃が正しく分散されているかの目安になります。ソテで10回連続の無音着地が達成できるまでは、カブリオールの高さを追求しないというルールを設けると、自然と安全な身体の使い方が身につきます。
練習後のクールダウンも重要です。足底・ふくらはぎ・臀筋のフォームローラーでのリリース、股関節の90/90ストレッチを習慣化しましょう。高たんぱくの補食や電解質の補給、十分な睡眠も回復力を高めます。週1回は跳躍負荷を落として可動域と技術の整理に充てると、過負荷の蓄積を防ぐことができます。
ケアを怠ると続けられません。
もし足首の捻挫など怪我をしてしまった場合は、焦らず段階的に復帰することが大切です。まずポアントやルルヴェの練習から始め、バランスと固有受容感覚のトレーニングを経て、ジャンプを含まないセンターワーク、そして最終的にジャンプ技へと段階を踏んで戻りましょう。痛みがある場合は必ず専門家(整形外科や理学療法士)に相談することが先決です。
捻挫後にバレエに復帰するためのガイド(大阪バレエ)
※バレエ復帰に向けた段階的なトレーニングのステップが具体的に解説されています。
バレエ教室に通う頻度が週1〜2回という方には、レッスン外での補強トレーニングがカブリオール習得のスピードを大きく変えます。ここでは自宅で取り組めるカブリオール向けのトレーニングを紹介します。
カブリオールに必要な筋力は主に「内転筋(内もも)」「足首周りの筋肉」「体幹(腹圧)」の3つです。これらを日常生活の隙間時間で強化することは十分に可能です。
ただし、家でのジャンプ練習は床への衝撃が大きく、フローリングでは怪我リスクが高いため行わないことを推奨します。あくまで補強・柔軟の範囲に留め、ジャンプ本体はスタジオで行うことを徹底しましょう。
これが安全に上達するための基本です。
週1回のレッスンでも、日常の補強を組み合わせることでカブリオールへの道が着実に近づきます。短時間でも継続することが、大人バレエにおける成長の秘訣です。習い始めて間もない時期は特に焦らず、バーレッスンで基礎を積み上げることを最優先にしましょう。身体が動きを覚えてきたとき、自然にカブリオールの感覚がつかめてくるはずです。
バレエのカブリオールの意味とコツは?華やかな跳躍を決める詳細解説(K-バレエスクール)
※補強トレーニングの具体的な方法や週間メニュー例が詳しく掲載されています。